あらすじ
デビュー作にしてこのハイクオリティ!
今や歴史・時代小説の大家となった朝井まかての初めての小説は、著者がこよなく愛する「江戸の園芸」をモチーフに、今も変わらぬ「人の世の情」を鮮やかに描き出す。
第3回小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。
感情タグBEST3
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時代小説の醍醐味のひとつは人情だと思っている。この方の作品は初めて拝読したが何とも清々しさに心が洗われるようだった。この時代の市井の人々が花を育てる習慣があったことも初めて知った。と言うか見識の狭さを露呈するがそのことを描く作品に出会ったことがなかった。書評を読んで他の作品も読みたくなった。
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既に時代小説の大家の趣のまかてさんの処女作「花競べ 向嶋なずな屋繁盛記」の改題文庫版を拝読。とても処女作とは思えない円熟味のあるストーリと描写力で、江戸寛政の世にスムーズに誘ってくれる。登場人物の魅力も際立っており、この後の活躍が約束されたような傑作。
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江戸向嶋の苗物屋「なずな屋」をめぐる物語。
普段は時代小説をあまり読まないけれど、完全に掴まれた。新次、おりん、雀は勿論、その周りの登場人物が挙げたらきりがないほどみんな魅力的。
それぞれの章で起きる出来事とそこに流れる日常。桜の謎からの吉野でクライマックスかと思いきや、一気に思いも寄らない展開とその後の軽やかにすべてが回収される終章に痺れた。花火を取ってきてあげる場面が一気に蘇ってきた。
自然に流れていたそれぞれのお話が、すべて緻密に巡らされていたことに気づいたうえで、もう一度振り返りたい。
粋という言葉がぴったりの、じんわりと心に残るお話でした。
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朝井まかてさんのデビュー作
隅田川のほとり、向嶋で種苗屋「なずな屋」を営む
花師「新次」と妻「おりん」の商売繁盛記。
商売を営む傍らで、品評会、宴の庭造りなどの難題に取り組む新次とおりん。
2人の元に預けられている子供「しゅん吉」や
いつも温かい手を差し伸べてくれるご隠居の「六兵衛」、何かと人騒がせな夫婦「留吉とおそで」たちと力を合わせ、知恵を合わせ乗り気って行く。
横槍をいれてくる老舗「霧島屋」はかつて新次が修行をした店だが、こちらとのやり取りも清々しい。
江戸の職人物語なので商売への心意気や、人情味あるやり取りも気持ちが良い。
そして題名にもなっている「実さえ花さえ」とは
桓武天皇の「橘は 実さえ花さえ その葉さえ…」という和歌がもとになっているようだがこの表題が付いた第3章は新次の心の揺らぎの描かれ方が素晴らしくとても胸が痛んだ…。
朝井まかてさんの植物が出てくる作品はいつも
土の香りまで漂ってくるようで瑞々しいが、今作の「ソメイヨシノ」までのくだりについては親しんだはずの桜の花が悲しくも美しく目に浮かび、春に読んでいたらとため息が出るようだった。
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新次とおりん。種苗屋の夫婦を軸に江戸の風景が立ち上がる。
江戸の経済、風俗、夫婦に親子、植物を育てる者の気概も見えてくる。
母親の想いに触れてしんみりとし、
叶うことのなかった恋には泣いてしまった
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うわー いやぁー 新改訂版ってそりゃないって朝井さん。とうとう最後の最後まで気づかなかった。雀とお梅と結ばれたのも。 自分読んでたんで、もうデビュー作で気づこうよ自分って。まんまと買わされた気分で内容どうこうじゃない話で粋じゃないって。買ってるんで、どこで気付いてもショックだけど、こうしてぐちぐち言うのも粋じゃないって たしかに話の内容が綺麗すぎて一夜を共にしたのもうっちゃってるし。
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種苗屋「なずな屋」を営む腕のいい花師、新次と
おりんの若夫婦を中心に、江戸の市井の人々の暮らしを生き生きと描いた物語。
育種に定評があり、その腕を見込まれて新次には
仕事が次々と舞い込んで来る。そんな「なずな屋」に降りかかる災難。以前、修行していた「霧島屋」から嫌がらせを受けるのだが、周囲の助けもあり切り抜けていく。幼なじみの留吉、お袖夫婦、日本橋の上総屋のご隠居の六兵衛、養子の雀、新次とおりん夫婦を取り巻く人たちも魅力的だ。
武士も町人も花を愛で、草木を慈しみ、楽しむ。
そんな植物を愛でる気持ちは、今も昔も変わらない。桜草を寒天を使った植え方、冷ました物の上に植えると長持ちするそうだ(知らなかった)
手習いをいかして、売り物の草木にお手入れ指南書を添えることを思いついたおりんも素敵だ。夫の助けになればと、思いついたアイデア。一枚一枚手書きするこの指南書は評判となる。
「染井吉野」の名前の由来を知ることもできて面白かった。ただ、新次のかつての想い人、理世のその後の事も、もっと詳しく書いて欲しかった(本当の天才花師は、理世、あなただ)
この作品が朝井まかてさんのデビュー作だなんて、やはり才能がある人はすごい。