あらすじ
西方の辺境の村にて「アトランティス王国滅亡の原因はこの世の外にある」と知らされた哲学者プラトンは、いまだ一度も感じたことのなかった不思議な緊張と不安を覚えた……プラトン、悉達多、ナザレのイエス、そして阿修羅王は、世界が創世から滅亡へと向かう、万物の流転と悠久の時の流れの中でいかなる役割を果たしたのか?――壮大な時空間を舞台に、この宇宙を統べる「神」を追い求めた日本SFの金字塔。
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日本SFの金字塔という評判と萩尾望都さんの表紙に惹かれ、休む間もなく一気に読み終えてしまった本。凄まじいまでのスケールの大きさ!これは面白い!…しかし、どこまで理解できたか一抹の不安も。
物語は「阿修羅王、ブッダ、プラトンが、世界が滅ぶ原因を探し、戦いを挑もうとする」というもの。映画『マトリックス』のような町や『エヴァンゲリオン』などで聞いたような単語が散りばめられ、これが元ネタだったの?と邪推してしまうほど複雑な世界観は本当に独特。科学的内容が描かれたかと思えば、仏教を中心とした東洋哲学、新約・旧約聖書といった宗教観が幾重にも織り込まれ、読むたびに様々な側面が見えてくる。何度も読み返し最後の一文を読み終えた後は、無限の宇宙を前に立ち尽くしている気分に…。
軽い読み物に飽きた時、哲学的な気分に浸りたい時など、じっくり腰を据えて読みたい一冊。
感情タグBEST3
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上位存在と世界
一部ご紹介します。
・「あれが何者の像なのか、おそらくこの世界の統一者である梵天王でさえ知るまい。
あの像に移された巨大な神人は、かつてこの世界を訪れ、この世界が己の領域にあることを宣言して去った異世界の住人。
この世界を外から支配するもの。五十六億七千万年後に再びこの世界に現れて、すべてこの世界に住むものの命運を決しようとするもの。
それがあの弥勒とよばれるものだ」
「救いか!末法の世を救うためにか!」
事実は人々の待望し、信じているものとは全く反するものだった。
・「生理的なパターンだけが記号化されて保存され、それが人工肉体に封入されてあらわれたからといって、
それが人間だ、いや生物だといえるか!」
「おまえ自身がそうでないと言えるか?お前の故郷の星も、お前の生活も、また、今、お前の目の前に繰り広げられている様々な出来事も、
全て幻想の所産でないと、お前は言い切れるのか?もし、全てのものが集団幻覚による虚構の世界にあるとしたら?
現象は決して実態の投影ではない。観測の技術も方法も、それを確認する手段はあるまい」
「そんなことを言っていたら不可知論になってしまう」
「不可知というからには、前提としている認識はどこにある?」
「彼らはカードの中にある自分をどのようにとらえているのか」
「お前は眠っている時、自分の存在をどのようにとらえているのか」
眠っている時、か。死も、また。
・「『色』はすなわち存在。『空』はすなわちディラックの海。『空即是色』すなわちマイナス・エネルギーの海がすべての存在の母胎。
『彼岸』とは、まことに及び難い超越者そのもの、あるいは超越者の世界のこと。」
「かれらは、私の予告をことごとく消してしまった。
もともと、不幸や悲劇の迫ってくることなど信じたくもないし、覚えていたくもないのが人類だ。
消極的な対策などなんの延命策にもならなかった。」
・「世界の果て、それは宇宙の膨張速度が光速に達したところが限界であり、宇宙全体の質量のために空間は閉ざされて一個の内部を構成する。」
「閉ざされた内側ということは無限の広がりの一部を構成しているに過ぎない。
時もまた同じ。閉ざされた内側の世界を構成する時間は、すなわち無限の外の広がりを構成する時間の一部に過ぎない」