あらすじ
大学の先輩後輩、江戸川乱歩と杉原千畝。まだ何者でもない青年だったが、夢だけはあった。希望と不安を抱え、浅草の猥雑な路地を歩き語り合い、それぞれの道へ別れていく……。若き横溝正史や巨頭松岡洋右と出会い、新しい歴史を作り、互いの人生が交差しつつ感動の最終章へ。「真の友人はあなただけでしたよ」――泣ける傑作。
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Posted by ブクログ
乱歩は何冊か読んだことあるだけ、千畝に関しては名前を聞いたことがある外交官レベルで読み始めたのでかなり新鮮に読めた。途中で日本人版シンドラーのリストみたいな人か!と気づいてそれはそれでわくわくした。元々ミステリー書いてた著者なので歴史ものながらも伏線回収が上手。
Posted by ブクログ
江戸川乱歩と、杉原千畝。名前と、大まかな業績ならわかるという人がほとんどだろう。私もそうだった。しかし、探偵・推理・怪奇・恐怖小説を多数執筆した乱歩と、数千人のユダヤ人を救うためにビザを発給した外交官の千畝。生きた時代はかぶるものの、まるで世界が違うこの2人が並び立つ物語とはなんだろう??という疑問と好奇心から、この本を手に取った。
年は乱歩が6歳上で、2人とも早稲田大学の学生だった。これを起点に、2人が友人同士だったというフィクションを、ノンフィクションの中に上手く落とし込んである。主に描かれる大正、昭和初期といえば、日本が活発に躍動していたイメージ。早稲田大学周辺の学生街や、猥雑な浅草など、舞台も魅力的だ。
まだ何者でもなかった若い2人が出会い、友情を育みながらも、全く違う世界へ邁進していく。その周辺には、聞いたことのある作家や、近代史の教科書に出てくるような政治家たちが出没して、おおっ!となる。2人がいた時代に、この人たちもいたんだ、とある意味慧眼である。横溝正史がなかなかに面白い人物で、ちょっと意外。
乱歩の人となりは、かなり面白い。調子が良ければどんどん作品を生み出せるけど、ひとたびスランプに陥いると自暴自棄となり、突然放浪の旅に出たりする。妻の隆子は、そんな乱歩を決して見捨てずに、支えていく。できた奥さんだ。でも乱歩と結婚したのだから、この人も相当の変わり者だと思う。
千畝は、大方のイメージ通り、真面目な努力家だ。最初の奥さんはロシア人のクラウディア。世界情勢の影響もあり別離するものの、クラウディアの「迷ったら、優しい方を選んで。あなたはそういう生き方しかできない人だから」という言葉は、千畝に深く刻み込まれている。再婚した幸子も、外交官の妻という大変な役割をよくこなしていた。命の危険もあった中、肝の座った強い人だったのだろう。
こうして書くと、乱歩も千畝も奥さんに恵まれていたのだとわかる。
2人は住む世界が違うので、なかなか会うことはない。でも、忘れない。そして、時々お互いの人生に影響を与えるような邂ごうを果たすのだ。
こんな風に絡むのか〜、なるほど〜、上手いな!
2人が生きた時代の雰囲気、世界情勢が、丁寧に描かれていて面白かった。勉強にもなった。
ちなみに、タイトルの千畝は「せんぽ」と読む。作中で、難しい読みだからと本人推奨で「せんぽくん」と呼ばれていた。実際にも、「ちうね」は外国人にも発音しづらいので、ビザには「せんぽ」と記されていたそうだ。「らんぽとせんぽ」‥笑
Posted by ブクログ
この作品に出会えて、本当に幸せだった。
ここまでリアルな伝記を、痛切に訴えかけてくる人々の熱い思いを…小説で体験できる日が来るなんて思いもしなかった。
早稲田の蕎麦屋三朝庵で偶然出会った太郎(乱歩本名)と千畝。ふたりは同じ愛知五中の出身から意気投合する。当時太郎は職を転々として、千畝は金銭面が貧しく留学ができずお互い苦しんでいた。しかし食事を終え外に出ると太郎の顔に『官費留学生候補ヲ求ム』の公告が飛んでくる。そこから千畝の外交官としての道が開けたのだった…
その出会いからふたりは親交をしていき、乱歩は執筆で紆余曲折あったが小説という道で、千畝は外交という道で生き続けた。途中戦争がふたりの分かつこともあったが、やはり千畝は乱歩の人となりに救われ、乱歩も千畝の自分の意思を貫き通す生き方に救われてきた。乱歩にとっての唯一の存在が千畝で、千畝にとってもそれは同じ。打算無しでお互いを信じられる無垢の友情のかたちは、美しく羨ましいくらいだった。そんなふたりが歩んできた物語のラストに胸が熱くなったなぁ。
特に好きなシーンは2つ。
1つ目は、千畝がカナウス領事館でユダヤ人にビザを発券するなと外務大臣から禁止令が出ているのに、それを破るシーン。千畝はユダヤ人を救いたいという自らの信念と、命令に背くことで家族を路頭に迷わせてしまうかもしれないという不安とで板挟みになっていた。そんななか妻の幸子、そして当時は離縁を選択するしかなかった元妻クラウディアの、こんな言葉を思い出すー。
『この先何か迷うことがあったら、優しいと思う選択肢を取るのよ。あなたは、そういうふうにしか生きられないのだから。』
そして幸子の子どもに対する想いで溢れた言葉、
『子どもは世界共通。そしてー子どもを守りたいという親の気持ちも世界共通よ』
これらの言葉は本当に偉大だなぁ。こんなに優しくて、強い言葉ってないと思う。千畝を心から理解していたクラウディアだからこそ伝えられた言葉で、幸子も彼のそんな性格を理解していてビザの発券を了承して…そんなふたりの妻に恵まれた千畝が羨ましいし、この言葉をもらえた千畝の生き様に尊敬してしまった。
2つ目は、ラストシーン。乱歩も千畝も亡くなり、千畝の息子弘樹は父の生前の功績を祝したユダヤ人支援団体主催の授与式に来ていた。そのときに当時千畝がビザを発券し、乱歩とも縁のあるバロンというユダヤ人の知り合いから、弘樹はとある小説を渡される。それはビザ発券のときに千畝から乱歩に渡った小説「The Big Bow Mystery」、そのものだった。弘樹はその小説が渡される前に、父の壮絶な人生における相談相手、親友はいたのだろうかと気を揉んでいた。そんなとき、その本をもらいをページをめくるとそこには...
『-杉原千畝
-江戸川乱歩』
の連名が…。このラストシーンには胸が熱くなったなぁ。ふたりは出会うべくして出会い、互いの道で闘い足掻き、そして別れ…それでもまた再会し、互いを鼓舞して生きてきた。作中には互いを信頼し、親友のような関係性も幾度となく描かれているが、こうしてラストにふたりの絆が小説を介して遺されていることにとてつもない幸せを感じた。やはりふたりの出会いも小説で、ラストも小説であってほしかったから、読者として嬉しかった!
この作品がフィクションだとしても…
私はずっと乱歩と千畝の切磋琢磨しながら歩み続けた後ろ姿を忘れない。お互いがお互いの信念を負けずに、屈せず闘ってきた強さを忘れない。そしてふたりが親友であった事実を忘れない。
この男たちの熱き生き様を、友情を
ぜひ多くの人に知ってほしい。
こんなに胸が熱くなる小説に久々に出会った。
ふたりが遺した想いを無下にしないように、
私も強く生きていきたい。
つらい時代を、乱歩らしく、千畝らしく、ふたりらしく生き抜いてくれたことに心から感謝だ。
青柳碧人…次作も目が離せない!!