【感想・ネタバレ】街とその不確かな壁(上)(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

十七歳と十六歳の夏の夕暮れ、きみは川べりに腰を下ろし、“街”について語り出す――それが物語の始まりだった。高い壁と望楼に囲まれた遥か遠くの謎めいた街。そこに“本当のきみ”がいるという。〈古い夢〉が並ぶ図書館、石造りの三つの橋、針のない時計台、金雀児(えにしだ)の葉、角笛と金色の獣たち。だが、その街では人々は影を持たない……村上春樹が封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

今まで私の中で村上春樹は「好きではないが、なぜか読み続けている作家」だったのだが、この作品は好きな本だと強く断言できる小説だった。これまで個人的に苦手としてきた独特な比喩、アレゴリーによる難解さと性的描写がこの作品では殆ど感じられなかった。確かにいくつかの「不確かな」辻褄やアレゴリー(それも楽しみの一つではある)は存在するものの最後には全て納得がいった。全ての意味を完全に理解した訳ではないが、自然に納得がいったのである。一度ほどけた靴紐がまた結ばれるように。あとがきをみると、第1部で終わった可能性もあったらしい。確かに第1部だけを切り取っても物語としてはありだなとは思った。しかし第2部と第3部を経ることで霧がかかっていたモヤモヤとした物語が鮮明な太陽の光の中で完結したという印象を受けた。性的合体による何らかの到達、ある種の「希望の可能性」はこれまでの村上春樹の描写に多く見られたがこの作品では直接的な描写はなく、読者の創造にあくまでも委ねられている。村上春樹のセックス描写があまり好きではないので個人的にはありがたかった。この作品で描かれているのは喪失とそこからの復活を遂げるための自分自身の中での自分との対話の話だと思う。心の中に残った傷跡、記憶、それを乗り越えるのはそうした過去を忘れることではなく、過去にとらわれずに向き合うことではないだろうか。重要な登場人物である子易さんもその問題に勇敢に向き合った一人だ。本来の自分ともう一つの「影」の自分はどちらも結局自分自身である。この不確かな壁は誰の心にも存在し得るし、存在しているはずだ。久しぶりに読み終えて、とてもいい気持ちになった本だ。

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2025年06月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 とても抽象的かつ謎が多くの残った一方で、情景描写や登場人物の言葉から村上さんの書く世界の意味を探ることに楽しさを感じる作品でした。
 
 時々感じるけど言葉にできないことを言葉で印象的に現せるのは尊敬しかありません。それを想像しながら読むのか心地よかった。

 内容について、その場の主人公が求めたものこそが真実だからこそ、壁は不確かになるのでしょうか。

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2025年09月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

村上作品はそこそこ読んできたが、その中でトップクラスに好きな作品になりそう。

影のある世界と影のない世界の境界線がどんどん交わって薄れていくところが凪いだ海を見ているようでとても好き。
子易さんの背景に驚きつつ、下巻で伏線をどうやって回収していくか気になる。

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2025年06月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

久しぶりの村上春樹。
前情報なしに読み始めたので、街の話が出てくるにつれ、「あれ、これってもしかして『世界の終わり』の世界観…?」と心臓がドキドキし始めた。『世界の終わり/ハードボイルドワンダーランド』は私の中での春樹作品の原点にして頂点なので。
そんな運命を感じる出だしにもかかわらず、何となくページが進まなかった前半部。
読みにくいということもないんだけど、やっぱりあまり大きな出来事がないからか、やや退屈さを感じてしまった。結果途中まで読んではちょっと日が経ってまた初めから読んで、を3度ほど繰り返し。4回目ぐらいでなぜか入り込んで一気に読みたい気持ちに。
やっぱり何か起こり始める気配の漂わせ方は惹き込まれるものがある。
まだまだ下巻を読まないとわからないなというところ。
村上春樹の小説の鍵概念はいつも深い愛。たった一つの愛が存在するという前提は相変わらずで、どんなにSFチックでもロマンスだと思う。

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2025年11月01日

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