【感想・ネタバレ】春のこわいもの(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

世界が一変してしまったあの春、私たちは見てはいけないものを覗きこんでしまった――。持てる者と持たざる者をめぐる残酷なほんとう。死を前にして振り返る誰にも言えない秘密。匿名の悪意が引き起こした取りかえしのつかない悲劇。正当化されてゆく暴力的な衝動。心の奥底にしまい込んだある罪の記憶。ふとしたできごとが、日常を悪夢のように変貌させていく。不穏にして甘美な六つの物語。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

六つの物語から成る短編集、なんだけれど、ひとつひとつの完成度と熟成された感にいちいち圧倒されて、読後、おいおい、『ヘヴン』くらいのすごい物語を読んだぞ、これは……と、ちょっと現実に戻ってくるのに数日かかるって感じの読書体験でした。
はああああ、ほんと未映子先生さいこう……たまらねえよ。
やっぱり未映子先生で好きなのはエンタメより、純文学なのよ…!


どの話も胸を抉って、わたしに色んな感情の種を植え付けてくるので、ある物語(たとえば「あなたの鼻がもう少し高ければ」や「淋しくなったら電話をかけて」)を読んだときはそれはいっそ暴力だったし、ある物語(たとえば「青かける青」や「娘について」)を読んだときには、これまで自分が通り過ぎてきた他者とのやり取りの中で間違ったあれこれに報いを感じ、償いを約束するような心持ちにさせられらた。

コロナ禍を過ぎ、わたしの中の他者との距離はかたちを変えた。
わたしにとっては、あのマスクで顔を隠し、パーソナルスペースに誰も侵入してこないことがある意味約束されている”密を避ける”行動は、むしろ居心地の良いものだった。
だが一方で、多くの人間がそれによって心を壊していき、やはり自分以外の多くの人間が、人と生きていきたいと強く望んでいることを再認識し、かえってこれまで以上に深い孤独を感じるようになった。
本書は、もう”コロナ後”に慣れてしまって、楽な方へ楽な方へと流れる自分に、そんなことを思い出させた。
なんにせよ、いつのどんなときも、人が、一番、こわい。

また、「コロナ前」「コロナ後」のように、何かの前後で変化した、まるで自分の亡霊とも呼べる、他者の中に残っている「わたし」への認識にずれを感じ、生きにくくなる煩雑さをきちんと正面から受け止めようと思わせてくれるような作品でもあった。

変わってしまったのはわたしではなく世界のほうで、あなたもまた同じだ、と嘆き、責めて、乱暴で非道になった過去も、思えば変わってしまったのは自分自身の方なのだ、そして以前の自分を受け入れられなくなって突き放したのもまた、自分なのだという自戒も込めて、本を閉じた。

また何度でも読もう。

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2025年07月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

コロナ禍の始まりの時期を舞台にした短編集。

それぞれ違う作家さんが書いたと言ってもいいくらい、文体が篇によって異なるように感じた。

人間の心の歪みのようなものが描かれていて、どの話しも読者の想像力に委ねられるようなラストだった。

独特な世界観は、今村夏子さんの作風に少し似ているなと感じた。

ただ、あまり心には残らなかった。

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2025年07月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この本は同じ時間軸を生きる全く別の6人の短編集
コロナに翻弄された春にあらわれた「こわいもの」の話である

私が印象に残ったのは最後の話「娘について」だ
主人公は小説家を夢見るよしえで、女優志望の見砂とルームシェアをしている。よしえは家があまり裕福ではない母子家庭のため、バイトをしつつ小説を書いては応募する日々を送っているが、見砂は過干渉な親からの潤沢な仕送りに甘え、参加費を払うワークショップに参加したり、レッスンを受ける一方で、20歳ほど離れたオジサンと付き合ったり買い物に明け暮れたりしていた。そしてそんな見砂が掴みかけた最後のチャンス。よしえは…。

恵まれた環境。恵まれない環境。環境を言い訳にせず努力する者。環境に甘える者。それを妬む者。負けず嫌いであればあるほど、社会的成功がアイデンティティに直結すると信じているほど、他人と自分という立場しか見えなくなり劣等感に陥ったり誰かより明確に成功者でありたいと望んだりする。その感情が足を引っ張ってしまうことが多々あり、その誘惑が「こわいもの」であると思った

また、もう一話「あなたの鼻がもう少し高ければ」はゾッとするが、とてもリアルだった。
作中での「美人になりたいからギャラ飲みするのではなく美人になってからギャラ飲みするのであり、それは大学に入るお金が無いからGoogleに就職したいと言っているのと同じ」というシーン。驚くほどのかわいい人がギャラ飲みを斡旋し、美人の華々しい生活を発信し、それに憧れる女子が大勢いるという世界。吐き気がすると私は思ってしまうが、苦笑いされブスだと言われたトヨはこの後どうしたのか。美醜への執着と自分が醜いことによる劣等が「こわいもの」なのだろうと思った。

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2025年04月22日

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