あらすじ
世界が一変してしまったあの春、私たちは見てはいけないものを覗きこんでしまった――。持てる者と持たざる者をめぐる残酷なほんとう。死を前にして振り返る誰にも言えない秘密。匿名の悪意が引き起こした取りかえしのつかない悲劇。正当化されてゆく暴力的な衝動。心の奥底にしまい込んだある罪の記憶。ふとしたできごとが、日常を悪夢のように変貌させていく。不穏にして甘美な六つの物語。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
コロナ禍の始まりの時期を舞台にした短編集。
それぞれ違う作家さんが書いたと言ってもいいくらい、文体が篇によって異なるように感じた。
人間の心の歪みのようなものが描かれていて、どの話しも読者の想像力に委ねられるようなラストだった。
独特な世界観は、今村夏子さんの作風に少し似ているなと感じた。
ただ、あまり心には残らなかった。
Posted by ブクログ
この本は同じ時間軸を生きる全く別の6人の短編集
コロナに翻弄された春にあらわれた「こわいもの」の話である
私が印象に残ったのは最後の話「娘について」だ
主人公は小説家を夢見るよしえで、女優志望の見砂とルームシェアをしている。よしえは家があまり裕福ではない母子家庭のため、バイトをしつつ小説を書いては応募する日々を送っているが、見砂は過干渉な親からの潤沢な仕送りに甘え、参加費を払うワークショップに参加したり、レッスンを受ける一方で、20歳ほど離れたオジサンと付き合ったり買い物に明け暮れたりしていた。そしてそんな見砂が掴みかけた最後のチャンス。よしえは…。
恵まれた環境。恵まれない環境。環境を言い訳にせず努力する者。環境に甘える者。それを妬む者。負けず嫌いであればあるほど、社会的成功がアイデンティティに直結すると信じているほど、他人と自分という立場しか見えなくなり劣等感に陥ったり誰かより明確に成功者でありたいと望んだりする。その感情が足を引っ張ってしまうことが多々あり、その誘惑が「こわいもの」であると思った
また、もう一話「あなたの鼻がもう少し高ければ」はゾッとするが、とてもリアルだった。
作中での「美人になりたいからギャラ飲みするのではなく美人になってからギャラ飲みするのであり、それは大学に入るお金が無いからGoogleに就職したいと言っているのと同じ」というシーン。驚くほどのかわいい人がギャラ飲みを斡旋し、美人の華々しい生活を発信し、それに憧れる女子が大勢いるという世界。吐き気がすると私は思ってしまうが、苦笑いされブスだと言われたトヨはこの後どうしたのか。美醜への執着と自分が醜いことによる劣等が「こわいもの」なのだろうと思った。