【感想・ネタバレ】いのちなりけりのレビュー

あらすじ

あのとき桜の下で出会った少年は一体誰だったのか──家同士の因縁がひと組の夫婦を数奇な運命へと導く。“天地に仕える”と次期藩主に衒(てら)いもなく言う好漢・蔵人と“水戸に名花あり”と謳(うた)われた咲弥。二人は夫婦となりながら結ばれぬまま、たった一首の和歌をめぐり、命をかけて再会を期すのだが──。水戸光圀公と将軍綱吉の関係が緊張してゆく時代、思いがけず政争の具となりながら、懸命にそして清々しく生きる武士の姿を描いた力作長篇。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「光圀伝」と同様、水戸光圀が藤井紋太夫を刺殺したところから始まる小説と知り、読み始めた。やはりこの事件から物語がすぐに繋がるわけではなく、ひとりの男の婿入り話から始まる。
 小城藩の重臣天源寺家の娘婿になった雨宮蔵人。一見愚鈍な大男に見えるこの男を、父刑部(ぎょうぶ)がなぜ自分の夫にしようとしたのか、咲弥にはわからない。和歌に精通した夫に先立たれた咲弥は、自身にも和歌の素養がある。いかにも教養のない蔵人に、これぞと思う和歌を一首教えてくれるまで寝所はともにしないと言いわたしてしまう。言われた蔵人は、誰かに簡単に教えを請うこともせず、真面目に咲弥に伝える和歌を考えているうち、陰謀に巻き込まれる。
 一見鈍牛である蔵人がさまざまな思惑の中で活躍するのだが、この男見かけによらず察しがよく、自らの苦を厭わず奔走する。身分や地位にこだわらず、慎ましやかに学び、生きて行く。何度も命を狙われ、読者としてもここでもう駄目だろうと何度も観念するのだが、蔵人は生き延びる。恐らく相当剣も立つのだろうが、自分はもう死んだ身と達観し、なるべく他者を殺めないように動くその姿に、神や仏が味方しているようにも見える。
 そして咲弥との必然とも言える本当の出会いと、死にかけながらもずっと唯一の和歌を探し続ける姿に、胸を打たれる。そしてやっと17年目にして二人は出会い、和歌を告げることができるのである。愚鈍に見えながらひたすらに咲弥を想い続け、ついに本懐を遂げる蔵人に、心から安堵の吐息を漏らしてしまった。彼を生かし続けたのは、他ならぬ恋心だったのだろう。殺伐とした悲しい結末も少なくない時代小説で、ふたりの恋の道行きの成就は、本当にうれしかった。
 それを水戸光圀やその家臣佐々宗淳、小八兵衛などがいいタイミングで助けるのも心憎い。まるで「水戸黄門」のドラマのような鮮やかさ。脇を固める敵役もキャラが立っている。
 痛快な部分もありながら、葉室麟の筆致は花のようにやさしい。一見こんな起伏に富んだ筋書きが続いているとは思えないほど静謐な語り口に、いつも騙されてしまう。読みやすく、いつのまにか物語の中に引き込まれ、抜き差しならないところまで来てしまう、という印象を受ける。蔵人が見かけ倒しだったのと似ているかも知れない。
 どうやら「花や散るらん」が続編らしい。ええ、きっと読みますとも!

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2013年05月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

登場人物が多くて名前も難しくついていくのが大変。
蔵人が色々な人の意見を聞いたり教えをこうたりして、いのちって何だろうと考えていく過程で一緒に何だろうと考えさせられた。
敵役の黒滝五郎兵衛が陰謀を企むことだけを目的に生きるようになっている気がして憐れな感じだった。

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2019年04月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

故あって婚礼の夜に咲弥から出された難題、「人生の和歌を」を見つけるために、生きていく雨宮蔵人。
腕が立つ上に藩の秘密を知ってしまい、様々な困難にあっていく。
そして17年の月日ののちに、みつけた一句
 春ごとに 花のさかりはありなめど あひ見むことは いのちなりけり
佐賀鍋島藩といえば、葉隠である。
葉隠といえば、「死ぬこととみつけたり」である。
しかし、この一人の鍋島藩士がたどり着いた答えは、「いのちなりけり」。
爽やかな小説だった。

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2013年08月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

これまたすごくよかった〜!「秋月記」に続き、葉室麟の「もののふ」ものを読みましたが、非情に面白かった!今回は、故あって新婚数ヶ月の妻と17年も離ればなれになってしまう武士が、妻に一首の和歌を届けるために、ただひたすらに生きて行くお話。とはいえ、腕がたつ上に、藩の重要な秘密を知ってしまっているから、いろいろと困難に巻き込まれるのだけれども。葉室麟のもののふ系の主人公は皆、忠義もので、剣の腕が立ち、無骨で一本気なのだけれども、この主人公雨宮蔵人もご多分に漏れず。本当に一気に読んでしまった。葉室麟をすべて読んでしまうかも。ハマった。

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2012年06月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初めは説明においつけなくてあんまり楽しめてなかったけど、桜狩りの辺りからすごく没入できた
蔵人がどんな気持ちで走って人を斬ったのか想像するだけでぎゅってなるし、さくやが蔵人のことを想い続けた時間とか鍔の真実に気がついた時とか、ここで待つって言った時のこととか考えるとまたぎゅってなる
きっと幸せになって欲しい

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2024年05月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人はなぜ死に、次々に生まれてくるのか。人が僅かなことをやり遂げ、さらに次の一人がそれに積み重ねていく。こうして、ひとは山をも動かしていく。人は己の天命に従う限り、永遠に生き続けのです。そう思えば死は恐れるに足らず、生もまた然りです

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2016年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

テンポ悪いなぁ。
剣豪小説と歴史ミステリーと純愛ドラマを文庫本300P弱に詰め込もうとするとどうしても視点がボヤける。
おまけに綱吉将軍と水戸光圀の対立、鍋島藩の合法的下剋上、公家と将軍家の因縁や和歌の世界に至るまで解説を重ね、その都度物語が一旦中断するのは心が折れる。

雨宮蔵人と咲弥の和歌を巡る純愛物語の部分をもっと前面に押し出した小説にしておけば良かったのにと。正直なところ葉室さんにしてはちょっと残念な作品だと思う。

ただし寄り道枝道の多い作品だけあって、水戸黄門方面の寄り道はなかなかのもん。助さん格さんも活躍するし、なんとうっかり八兵衛がうっかりするし、クライマックス寸前には「控え控えぃ」が…

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2013年11月27日

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