あらすじ
「失われた30年」で日本の生産性は上がっているのに、実質賃金が上がらないのはなぜなのか? 労働法制、雇用慣行、企業統治、イノベーション……日本経済の長期停滞をよみとく際の「死角」や誤算を白日のもとに晒し、社会が陥りかけている「収奪的システム」から抜け出す方途を明示する。予測的中率に定評のある最注目のエコノミストによる、まったく新しい経済分析の渾身の快著。経済構造に関わるあらゆる謎が氷解する。
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Posted by ブクログ
日本経済の死角-収奪的システムを解き明かす
著者:河野龍太郎
2025年2月10日第一刷発行
2025年4月25日第五刷発行
20年間で生産性が30%上がっているのに、賃金が上がっていないのはなぜ?それは、儲けても現金をため込んでいく大企業の行動がが表面的な理由。ただ、その遠因はバブル崩壊後発生した金融システムの変化がある。
スマホとネットで相当生産性は改善しているのに、なぜ過去同じ仕事してきた諸先輩と給料が同じなのかとは、時々思っていた。その直感的な疑問に答えてくれる本。
賃金が上がらないから消費が伸びない。人口も減るし、消費が伸びないから国内消費が伸びない、だから大企業は日本国内には設備投資しない。需要が伸びる海外に投資したほうが確実にもうけられる。賃上げは年功序列で年2%。賃上げも物価上昇見合いだから実質ベアゼロ。大企業がため込んだ利益は、株主還元と配当で吸い出されていく。
そこまでの分析は明快な切り口があるけれど、その先の解決策の部分ではまだ筆者も考えあぐねているような印象を受けた。技術進歩の恩恵を、社会全体がより「包摂的に」受けられるには、どうしたら良いのか。それが次の課題意識だと理解した。
Posted by ブクログ
1.「収奪的システム」の概念と実態
著者が最も強調するのは、**日本経済に内在する「収奪的システム」**という概念。
これは、企業が内部留保を積み上げる一方で、賃上げを抑制し、非正規雇用を拡大することで、労働者への分配を抑えるメカニズムを指す。
また、金融機関が企業へのリスクマネー供給に消極的であることや、政府が企業の「貯蓄過剰」を許容する政策をとってきたことも、このシステムを助長していると指摘している。
このシステムは、日本企業がグローバル競争力を維持するために「人件費抑制」という安易な方法を選び続けた結果、国内の消費を冷え込ませ、デフレを長期化させる悪循環を生み出した根源であると喝破している。
2.企業貯蓄過剰と投資の低迷
日本企業は、過去20年以上にわたり、利益の多くを投資や賃上げに回さず、内部留保として貯め込んできた。
これは「企業貯蓄過剰」と呼ばれ、金融機関もこれを「安全な資金」として運用する傾向が強く、新たな成長産業へのリスクマネー供給が進まない原因となっている。
この企業貯蓄過剰は、企業の自己防衛的な行動の側面もあるものの、結果として国内の有効需要を減退させ、新たなイノベーションや成長を阻害する大きな要因となっている。
3.金融システムの機能不全
日本の金融機関は、企業へのリスクマネー供給よりも、安全確実な国債運用や、既存企業への融資に偏重する傾向がある。
これにより、スタートアップ企業や成長が見込まれる中小企業への資金供給が滞り、経済の新陳陳代謝を阻害している。
銀行が「目利き能力」を発揮せず、担保や過去の実績ばかりを重視する姿勢は、日本経済全体のダイナミズムを失わせる一因であり、金融システムの変革の必要性を訴えている。
4.労働市場の二極化と所得格差
非正規雇用の拡大や賃上げの抑制は、労働者の購買力を低下させ、国内消費を冷え込ませる主要因となっている。
企業はグローバル競争力を理由に人件費抑制を続け、これが正規雇用と非正規雇用の間の格差を拡大させている。
労働分配率の低下は、単なる賃金の問題に留まらず、社会全体の需要不足を引き起こし、デフレからの脱却を困難にしている。
5.政策の役割と限界
政府の財政出動や金融緩和策が、必ずしも経済全体の活性化に繋がってこなかった背景には、企業や金融機関の行動様式、つまり「収奪的システム」が根強く存在するためであると指摘している。
いくら政府が財政出動しても、それが内部留保に回るばかりで、賃上げや新規投資に繋がらない限り、経済の好循環は生まれないという見方である。
著者は、単なるマクロ経済政策だけでなく、企業のガバナンス改革、労働市場の改革、金融システムの改革といった、よりミクロな構造改革の必要性を強く訴えている。
Posted by ブクログ
日本の経済停滞の原因を、通説にとらわれず、データを紐解きながら、解き明かす良書。
-日本の生産性は過去数十年で30%アップ。されど、より低い生産性伸び率の国よりも賃金上昇していない。
-実質賃金の低下→ベアも、インフレと合わせたら、単純実質ゼロアップ。
-されど、長期雇用者は昇給でその現実が見えてない。
-他方で、長期雇用の枠外に置かれた派遣職員は、収奪されて、安い賃金で据え置かれている。
→日本でも始まっている政治的な分断への影響あり?
-海外投資も株も、日本国内の雇用者の所得アップにはつながらず、結果、国内消費が伸びない。
-イノベーションは、本来収奪的で、どう包摂的な社会を目指すのかが大切
→技術史と社会発展の歴史、再配分をどうするかぎ課題と思う
-賃金停滞で、安い日本に。インバウンド礼賛もいかがなものかと
示唆に溢れる本だった。
他方で、マクロ経済学の素養がない私には、前半読み進むのが難しい。単語の意味がわからなくて、数章読むと意味がやっとわかったり。著者の主張が疑問問いかけ反語形式で引っかかったり。。
中々新書としてよむにはつらかった。
また、賃金上昇への分配を本当に行えるのか、失業率の上昇にならないのか。提案の影響のメリデメについてももう少し言及が欲しかった。
されど、社会的包摂性の必要性や、日本型ジョブ型雇用のあり方(早期選抜性)は腹落ちする提案だった。また、社会制度間の連携と、制度補完性が重要という指摘や、メカニズムデザインという研究分野があるということは、自分のやりたいこと(自然資源の持続可能な利用に向けた社会制度のあり方の検討)を研究するに向けて、大いに助けとなった。
今の社会や、現場を見る上で、マクロ経済学というものも学ぶ必要があるかも。
システム論で、どの階層でものを見ると、見たいものが見えてくるのか。階層間の影響の確認などなど、複層的なモデルの検討などなど、勉強したいことが山ほど出てくる。
休日、走って酒飲んでで終わってたら辿り着けないかもなあ。勉強しますかね^_^
だが、
参院選の前に読むことができてよかった。