あらすじ
スティーヴン・キング絶賛!
ケッチャムは、短篇も凄かった。
モダン・ホラー界の鬼才が贈る珠玉の19作。
『オフシーズン』の後日譚他、ブラム・ストーカー賞受賞の
「箱」「行方知れず」を含む、日本独自編集の傑作選登場。
『隣の家の少女』で知られるホラーの巨匠ジャック・ケッチャムは、短篇小説の名手でもあった。『オフシーズン』と『襲撃者の夜』のあいだを埋める恐怖体験を描く表題作ほか、ある箱を覗いてから食事をいっさいとらなくなった息子の姿を描く「箱」と、ハロウィンの夜に子供たちを受け入れようとする女性の物語「行方知れず」のブラム・ストーカー賞短篇賞受賞作2作を含む、日本独自編集の計19篇。現実的暴力と幻想的恐怖の果てに生まれる、静謐で哀切きわまる詩情。孤高の鬼才の精髄をご堪能あれ。
(収録作品)
収録作品
冬の子
作品
箱
オリヴィア:独白
帰還
聞いてくれ
未見
二番エリア
八方ふさがり
運のつき
暴虐
三十人の集い
歳月
母と娘
永遠に
行方知れず
見舞い
蛇
炎の舞
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Posted by ブクログ
2018年に物故したジャック・ケッチャムの短篇集3冊(未訳)から、翻訳者の金子浩氏が19篇をセレクトした日本オリジナルの傑作選。暴力や死、オフビートなお馴染みの作品世界はもちろんのこと、超自然的要素や幻想味に満ちたものなど、この作家の違った顔も堪能することができる。
大雪の続いた2月の夜、父子の住む家のドアをノックした少女は口が利けなかった……という表題作は、ケッチャムの代表的長編『オフシーズン』とその続編『襲撃者の夜』との間に起きたエピソード―ということで、何れかを読んだ人間ならばその後の展開も凡その察しは付くだろう。
その他、不治の病に罹った女流作家が死後も自作を生かすために行なったある凄まじい依頼(「作品」)、レズビアンのカップルがキャンプ中に男につきまとわれる。実際の事件を題材にした掌編「オリヴィア-独白」、コールガールと客の男との会話が意外な展開を見せる「聞いてくれ」、レストランで起きたある事件の数十分前からの人間模様を描写した「二番エリア」、妻との関係悪化を零す男の話を聴くセラピストは、患者の夢の話に不安を覚える(「八方ふさがり」)、西部開拓時代、その日の馬車襲撃に失敗した強盗団は火を囲み"ツキのない奴"について語り合う(「運のつき」)、老教授が語る暴君のような父親と、母の死の謎(「暴虐」)、SF同好会の定例会に講演で招かれたホラー作家の受難(「三十人の集い」)、骨肉腫を患った妻と夫、そして猫との最後の日々(「永遠に」)、ハリケーンが去った後、蛇恐怖症の女性の庭に現れた大蛇(「蛇」)など、暴力や不条理、唐突な死、そして苛酷な状況に抗おうとする人間―特に女性―の姿を描写するのは、他のケッチャム作品でも馴染み深い。
その一方で、見知らぬ男性のプレゼントの箱の中を覗いたことで息子に、そして家族に起こる悪夢(「箱」)と、ある事件から子供を避けていた女性が、初めてハロウィンで子供たちを迎えようとする「行方知れず」のブラム・ストーカー賞短編賞受賞の2作をはじめ、事故死した男が自堕落な生活を続ける妻を幽霊となって叱咤するが、男が戻って来た本当の理由とは(「帰還」)、話題のホラー映画が映画館でもビデオでもどうしても観ることができない男の運命(「未見」)、年を取らなくなった女性が恋人に語った数奇な人生(「歳月」)、ゾンビが跋扈する世界、男は妻の死後も妻が寝ていた病院の同じベッドを見舞い続ける(「見舞い」)など、既刊の長編では殆んどない超自然的要素や幻想に満ちたもの、"奇妙な味"と呼べる作品もあって、代表作の印象が強烈なケッチャムという作家のイメージが心地よく裏切られる。とはいえ、唐突に登場する暴力や死、そこに併存する静謐さや物悲しさは紛うことなきケッチャムの作品世界ではあるのだが。
400㌻強で19篇収録ということで作品はどれも短め(4㌻の掌編と言える作品もある)で、既刊で長編(中編集も出ていたが)に読み慣れた人からは「物足りない」「ケッチャムはやはり長編がいい」とのレビューも見かけるが、個人的にはあの悪名高い代表作2編の極悪な印象で二の足を踏んでいるケッチャム未経験の読者には最初に手に取る格好の1冊なんじゃないかと思うし、「以前に他の作品は読んだけどケッチャムは苦手」という人でも、この傑作選はそれなりに愉しめるのではないか―そんな気もするのだが。
特に掉尾を飾る、プレスリーのゴスペルソングからイメージを得たという「炎の舞」の幻想的な静謐さは、ケッチャムの従来作品からのイメージを確実に上書きするもの―と思う。