あらすじ
スティーヴン・キング絶賛!
ケッチャムは、短篇も凄かった。
モダン・ホラー界の鬼才が贈る珠玉の19作。
『オフシーズン』の後日譚他、ブラム・ストーカー賞受賞の
「箱」「行方知れず」を含む、日本独自編集の傑作選登場。
『隣の家の少女』で知られるホラーの巨匠ジャック・ケッチャムは、短篇小説の名手でもあった。『オフシーズン』と『襲撃者の夜』のあいだを埋める恐怖体験を描く表題作ほか、ある箱を覗いてから食事をいっさいとらなくなった息子の姿を描く「箱」と、ハロウィンの夜に子供たちを受け入れようとする女性の物語「行方知れず」のブラム・ストーカー賞短篇賞受賞作2作を含む、日本独自編集の計19篇。現実的暴力と幻想的恐怖の果てに生まれる、静謐で哀切きわまる詩情。孤高の鬼才の精髄をご堪能あれ。
(収録作品)
収録作品
冬の子
作品
箱
オリヴィア:独白
帰還
聞いてくれ
未見
二番エリア
八方ふさがり
運のつき
暴虐
三十人の集い
歳月
母と娘
永遠に
行方知れず
見舞い
蛇
炎の舞
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
ケッチャムのいろんな面をたっぷりと味わえる短編集。
一話一話は短いのに長編と変わらないずっしりした読後感。
ケッチャムを読むのは我慢大会か耐久レースに似ていて、なんでわざわざお金払ってメンタル痛めつけてるんだろう、と首を捻ることもあるのですが、この本も読み終わるのにすんごい時間がかかった。
ジャンルを超えた多種多様な物語が満載で、ケッチャム世界の奥行きの深さに恐れ入る。
読み終わって改めて本当にすごい作家だったんだなぁと感嘆。まだまだ新作読みたかったなぁ…(合掌)
以下、自分の忘備録のための読書メモ。
・冬の子
「オフシーズン」と「襲撃者の夜」の間に当たる話だそうな。「オフシーズン」大好き。
・オリヴィア:独白
日々耳にする殺人事件のニュースの向こう側には、こんな恐怖と絶望が存在するのか、と想像したらめっちゃ怖くなった。
・歳月
残酷とやさしさがきれいに混ぜ合わされたお話。ハッピーエンドでよかった。
・未見
これ、コメディだよね?
・帰還
動物飼っている人ならババ泣きするの間違いなし。なんでそんなクソみたいな女と付き合っていたんだよ(怒)
・箱
…の中身はなんじゃな。キング(バックマン名義)の「痩せ行く男」のように、アップルパイでも入っていたのかな…(そういえば昔これ読んで無性にアップルパイ食べたくなった)
・「二番エリア」「暴虐」
どちらもケッチャムっぽいお話。
・行方知れず
これも、ああケッチャムだなあと思うお話。読み終わって胸が痛くなった…相変わらず残酷。
・母と娘
最後の波は呪縛に対する暗喩なのか、それともただの偶然か。本当に恐ろしいのはこういう状況に陥っている母娘が結構現実にもいるってことかもしれない。映像で観たらまた違ったダメージくらいそう。
・永遠
”死と腐敗こそが命を生み出す”このワンフレーズで、Endマークの後の展開が想像できる気がします。切ない…。
(これを読んでいる途中でなぜかケン・リュウの「円弧」が無性に読みたくなった。どちらもテーマが永遠の命についてだから?)
・見舞い
どんな切ないゾンビ話だよ!!!
・蛇
こんな話も書くんだ~(驚)ちょっとキングっぽい印象。
・炎の舞
最後の最後まで不穏な空気が抜けなくてびくびくして読んだ。多分ケッチャムだから…っていうイメージのせい。こういうオチもありなのか!!
Posted by ブクログ
2018年に物故したジャック・ケッチャムの短篇集3冊(未訳)から、翻訳者の金子浩氏が19篇をセレクトした日本オリジナルの傑作選。暴力や死、オフビートなお馴染みの作品世界はもちろんのこと、超自然的要素や幻想味に満ちたものなど、この作家の違った顔も堪能することができる。
大雪の続いた2月の夜、父子の住む家のドアをノックした少女は口が利けなかった……という表題作は、ケッチャムの代表的長編『オフシーズン』とその続編『襲撃者の夜』との間に起きたエピソード―ということで、何れかを読んだ人間ならばその後の展開も凡その察しは付くだろう。
その他、不治の病に罹った女流作家が死後も自作を生かすために行なったある凄まじい依頼(「作品」)、レズビアンのカップルがキャンプ中に男につきまとわれる。実際の事件を題材にした掌編「オリヴィア-独白」、コールガールと客の男との会話が意外な展開を見せる「聞いてくれ」、レストランで起きたある事件の数十分前からの人間模様を描写した「二番エリア」、妻との関係悪化を零す男の話を聴くセラピストは、患者の夢の話に不安を覚える(「八方ふさがり」)、西部開拓時代、その日の馬車襲撃に失敗した強盗団は火を囲み"ツキのない奴"について語り合う(「運のつき」)、老教授が語る暴君のような父親と、母の死の謎(「暴虐」)、SF同好会の定例会に講演で招かれたホラー作家の受難(「三十人の集い」)、骨肉腫を患った妻と夫、そして猫との最後の日々(「永遠に」)、ハリケーンが去った後、蛇恐怖症の女性の庭に現れた大蛇(「蛇」)など、暴力や不条理、唐突な死、そして苛酷な状況に抗おうとする人間―特に女性―の姿を描写するのは、他のケッチャム作品でも馴染み深い。
その一方で、見知らぬ男性のプレゼントの箱の中を覗いたことで息子に、そして家族に起こる悪夢(「箱」)と、ある事件から子供を避けていた女性が、初めてハロウィンで子供たちを迎えようとする「行方知れず」のブラム・ストーカー賞短編賞受賞の2作をはじめ、事故死した男が自堕落な生活を続ける妻を幽霊となって叱咤するが、男が戻って来た本当の理由とは(「帰還」)、話題のホラー映画が映画館でもビデオでもどうしても観ることができない男の運命(「未見」)、年を取らなくなった女性が恋人に語った数奇な人生(「歳月」)、ゾンビが跋扈する世界、男は妻の死後も妻が寝ていた病院の同じベッドを見舞い続ける(「見舞い」)など、既刊の長編では殆んどない超自然的要素や幻想に満ちたもの、"奇妙な味"と呼べる作品もあって、代表作の印象が強烈なケッチャムという作家のイメージが心地よく裏切られる。とはいえ、唐突に登場する暴力や死、そこに併存する静謐さや物悲しさは紛うことなきケッチャムの作品世界ではあるのだが。
400㌻強で19篇収録ということで作品はどれも短め(4㌻の掌編と言える作品もある)で、既刊で長編(中編集も出ていたが)に読み慣れた人からは「物足りない」「ケッチャムはやはり長編がいい」とのレビューも見かけるが、個人的にはあの悪名高い代表作2編の極悪な印象で二の足を踏んでいるケッチャム未経験の読者には最初に手に取る格好の1冊なんじゃないかと思うし、「以前に他の作品は読んだけどケッチャムは苦手」という人でも、この傑作選はそれなりに愉しめるのではないか―そんな気もするのだが。
特に掉尾を飾る、プレスリーのゴスペルソングからイメージを得たという「炎の舞」の幻想的な静謐さは、ケッチャムの従来作品からのイメージを確実に上書きするもの―と思う。
Posted by ブクログ
これだけ旺盛に短篇も仕上げていたのだから本国には当然、我々の目に触れていない未邦訳の作品もたくさんあるのだろう。中には結末で首を傾げるような作品もあるが、目につくのはオフビートな日常に突然起こる暴力と、気づくと地獄にいるような展開である。表題作はそれが特に際立っている。
死後、皆がケッチャムの事を忘れない(忘れられない)のはその作品が強烈なまでの存在感を発揮しているからだ。改めて、惜しい人を亡くしたのだと悲しくなった。
Posted by ブクログ
家族や人間の繋がりを奇怪な世界観で描く! ホラーの巨匠、ジャック・ケッチャムの短篇集 #冬の子
■きっと読みたくなるレビュー
ホラー作家、ジャック・ケッチャムの短編集です。恐怖で震えあがるって作品というより、じわっと心に沁み広がっていくような作品ばかり。
奇怪な世界観を背景にはしているものの、描かれているのは家族や人間の繋がり。全部で19編、読みやすく日本人好みのお話でバラエティに富んでます。余韻深くジーンとする作品もあれば、切れ味が鋭くスパっと突き放される作品もある。きっと最後まで読み飽きずに楽しめると思いますよ!
■おすすめ作品
○冬の子
山奥の村、父と二人暮らしの僕、ある日見知らぬ女の子を引き取ることになり…
これ最後はどうなるの? と思ってたら、しっかりと禍々しさを提示されます。少年と少女の距離感にソワソワしちゃうし、心情が綿密に描かれていて好き。
○箱
電車で隣に座った男が箱を持っていた、気になった少年は見せてくれとお願いする。しかし少年はその箱を覗いてから、まったく食事ができなくなってしまう…
なんとなくフランツカフカの断食芸人を思い出してしまった。意味が分からないうちに絶望の沼に引きずり込まれるという恐怖、こわっ
○オリヴィア独白
ある女性の体験、キャンプでの出来事。切れ味鋭い作品。
人間の本質をまざまざと見せつけられる作品。腹立たしいというより、虚しさしかない。
○聞いてくれ
男と娼婦らしき女性との会話。
つい興味深くなっちゃうシーンから、その後の変化の角度がエグイ。醜い人間の欲望がまっすぐに伝わってきます。
○暴虐
タイトル通りの話、家族ってなんだ…
読み進めるうちに絶望感が迫り来る、ラストの意味はよく考えたい。
○三十人の集い
スランプ中の作家の話、ファンと思しき人からイベントにお誘いの連絡があり…
現代っぽいホラー、なんかホントにありそうな話。後半の展開、むりやりな発想力に感服。いかに人間は自分勝手なのかがよくわかる。
○蛇
訴訟の争いになりそうで疲労困憊の女性、さらに苦手な蛇と対峙することになり…
明確な敵と相対することで覚醒した彼女、ちょっとカッコイイ。終盤の力強さが読みどころですね。
■ぜっさん推しポイント
私が一番刺さった作品は『母と娘』です。レストランを営む一家の物語で、冒頭ピアニストだった父が失踪してしまうシーンから始まる。父が居なくなることで残された家族が少しずつ歪み始めるのです。
家族愛とその裏側の描写を洞察力ある筆致で描いていて、すっかりと物語に引き込まれてしまいました。こんな短いお話にも関わらず、ある一家の悲劇をまるっと体験できるという恐ろしい作品でした。
Posted by ブクログ
ゾクっとするホラーではない。
非現実的というわけではなく、日常の延長にありそうな、ちょっと嫌な感じ。
とくに好きだったのは、最後の「炎の舞」。
森の中でいろいろな動物たちが弱肉強食の摂理に反し、焚き火を囲んで輪になって踊っている。
恐怖を抱いた男たちが銃に弾を装填するけれど、子どもと女たちが輪に加わって踊り出す。
やがて、男たちも諦めたように輪に加わる。
原始の人間がそうしたように。
動物たちは、火を受け入れ、互いを受け入れ、踊る。
新たな自然の始まり。
人間が特別だった自然の終わり。
これが、平和な王国なんだと、はっきり言えない。
ここからどんな自然が始まるのか。
火の破壊性になぐさみを感じている、と表現されていることからも、少し不穏な予感もする。
Posted by ブクログ
スティーブン・キング好きならとオススメされた初ケッチャム。ホラーやバイオレンス、ゾンビ、サスペンス、ミステリーなどいろんなジャンルの作品集が19もあるので感情が忙しかった。一番のミステリーは、著者のポストカードが特典?で入っていたこと。
Posted by ブクログ
表題作の「冬の子」は、食人族の恐怖を描いたケッチャムの代表作「オフシーズン」とその続編「襲撃者の夜」の間に起こったエピソード。
電車に乗り合わせた男の抱える箱の中身に興味を持ってしまった少年とその家族に起こる不条理を描いた「箱」は大傑作。
「歳月」は、歳を取らなくなった女性と年下男性のラブストーリー。切ないハッピーエンド。こんなのも書けるんですね。収録されている「永遠に」と対になっているように感じられました。
ケッチャムを連想させるエログロ作家の主人公が、ファンミーティングで詰められる「三十人の集い」は、これぞケッチャムという内容と結末。ゾクゾクしました。
中にはハズレもあります。全19編収録。
Posted by ブクログ
雑誌のホラー特集で見かけて読んでみたが、勝手に想像していたホラーとは違い、急に理不尽や暴力がこんにちはする世界観だった。
特に暴力との距離が近い!
訳者のあとがきで各話の解説がされているが、実際の事件や、筆者とその知人の体験がもとになっている話があると知り、更にぞっとするおまけつき。
短編集なのでいろんなバリエーションの恐怖を堪能できる。老いや病への恐れも作品に昇華しているところが珍しいと感じた。