あらすじ
人気作家が挑む、3.11以降の世界
『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の作者、5年振りの現代長編!
未来を見失ったすべての人たちに贈る、傷ついた魂たちの再生と挑戦の旅路。
2011年3月11日、東日本大震災発生。
多くの日本人がそうであるように、平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。
原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。
そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。
「どうだっていいよ。仮に原発がなくなったって、どうせろくな未来はないんだ」
「被災地の人たちには悪いけど、ここだけは無事に済みますようにって、本気で祈ってる自分が情けなくて……」
「道筋だけ示しておいてやれ。目指すべきものが示されれば、放っておいても子供たちは歩き出す」
傷ついた魂たちに再生の道はあるか。
祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語――。
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Posted by ブクログ
福井さんの小説は好きなので、ほとんど読んでいる。震災を題材にした小説という事で気合を入れて読み始めた。
この本をこの時期に読んでおいて良かったと思う。
早めに購入して置いてあったので、もう少し早く読めば良かったかもしれない。
福井さんの作品だといつも舞台はどこか自分たちとは少しかけ離れた感じの事が多かったけれど、今回はごく普通の家庭のお父さん、野田が主人公だ。自分の父の仕事が元防衛省だったのが少し特殊ではあるけれど、しっかり者の妻と難しい年頃の息子、娘が登場する。
自分が震災後どうだったか?そんな事を省みながら読み進めた。とても辛くなるような場面もある。
読みながら、野田の家庭の動きを追いながら、自分はどう考えているんだろうと整理できる一冊でもあった。
福井さんの小説には父と子についての事がたくさん出てくると思う。
今回も仕事一筋に生き、野田に語り・託す父。
そして野田がこれから息子へ見せたい未来。
自然と人間の関わり、未来への思いなんかについてはこの本の前に読んだガンダムUCでも描かれていたのに繋がりそうだ。
なんにせよ、野田の父はとてつもなく格好良かった。
それと、亡国のイージスに出てくる人物がこの作品にも登場する。
嬉しかった。もしや!と思いながら読んでいたけど、名刺もらう場面で思わずニヤついた。
Posted by ブクログ
東日本大震災が起こってから日本がどう変わってしまったのか。物語ではありながら限りなく現実に近い、現実でも起こり得るような話でした。
今回の震災で未来を失ってしまった子供たちはたくさんいると思います。主人公、野田の息子もその一人。ですがこの国の未来を担うのは子供たちです。そんな彼らに少しでも未来の可能性を見せようとする野田と、その野田に道を提示する親父の関係性を楽しみながら読みました。
福井先生の別シリーズに登場していた渥美さんの名前が出てきた時は、とてもテンションが上がってしまいました。
Posted by ブクログ
最初にハードカバーでこの本を見たとき、胸が震えた。
文庫本になって、美しい装丁を手にしたとき、充分な重みを感じた。
でも読み終えたいま、その短さが心惜しい。
文庫本295ページの小説が、決して短いわけはないのだが、
従来の福井作品と比べると短編のようにすら感じる。
(短編集の「6ステイン」と比べたら長いはずなんだけど。
・・・とりあえず、今度また「6ステイン」も読もう 笑)
短編に感じるほど、この作品は大変読みやすい。
多くの人が関心を持たざるを得ないテーマをかかげ、
多くの人の心に伝わる正確な言葉で、
多くの人に共感を得やすいストーリーを語り、
多くの人へ向けたメッセージでラストシーンは埋め尽くされる。
正統的な小説だと思う。
解説の言葉を借りれば、
「世代間の断絶と理解」「公と私のあり方」「個と社会のあり方」がテーマ。
まさしく、福井作品の特徴的なテーマが並ぶが、
決して、使い回しの表現を感じさせない点にも、驚く。
唯一、「男とは・・・」の語りは、おなじみの話。
「生きること、働くこと、死ぬこと……。
なんにでも意味を見つけ出さなきゃ気が済まない。
見つからなきゃ、自分で作ってでもなにかに自分を賭けようとする。
その点、女は自然体だよな」
わたしは女で、確かにいろんな意味付けはしないわね、と思う。
でも、すべてに意味を見出そうとするサガに惚れるのは、
わたしが女だからなのかしら、と考え、
ま、意味なんてどうでもいいわね、とただ文字を見つめてみる。
『他人が他人に示せる善意には限度があり、
それを踏み越えた先には個人生活の破綻が待っている。
まだ社会のなんたるかを知らない少年には、
そんな不文律も大人の欺瞞としか聞こえず、
世界をまるごと救おうと突っ走ってしまうものなのか』
これは中学生の息子を語った、父の言葉。
福井氏が描く、若者と中年男性の関係性は見事なバランスと形だといつも思うが、
今回は息子と父、そして祖父の三世代である。
如月行、フリッツ、一功と朋希・・・
いわゆる女性読者が惚れるスター(笑)の役割が、今回はこの息子かと思いきや、
さすがにそこは中学生。
もっとたくさん動いてくれればいいのに、と思ったりもしたが、
もし彼が歴代のスター並みにかっこよくて、
わたしが惚れちゃったりしたら、それはもう年齢差から言って、
犯罪になりかねない 笑
もちろん、中学生の息子によって、このストーリーは動き出したこと、
未来の象徴として、重要な人物であることは明らか。
さらりと、若者の特徴を香らせているところも、いい。
惚れはしなかったけど、彼のことをとても好ましく思った。
福井作品ファンとして、祖父には、いろんな人物の面影が重なる。
あの小説のあの人の老後は、こんな感じかしら、と
こんな感じだといいな、と願う。
「日本人を日本人たらしめる感性は失われ、
欧米的な合理精神のみが人を動かすようになる。
それはつまり、わしのようなつまらん人間が増えるということだ。
いつでも最善の対処方法を考え、切り捨てたものには見向きもしない。
そうしなければ生き残れないという理屈で自分を正当化して、
誰もが孤独の穴に落ちてゆく……」
「これを最後の任務と思っとったが、結局なにもできなかった」
ファンにとっては、しびれる台詞。
この言葉だけで、いろんな背景をイメージできる。
この作品だけを読む人間には、どんなふうに映るのか想像もつかないが、
きっと深い人間性は、誰の目にも読み取れることだろう。
そして無辜の民の代表である父。
リアリティあふれる無辜の民が、
自然で驚きの変貌をする点もすばらしい。
成長物語ともいえる作品です。
Posted by ブクログ
エンタテイメントではない。
血沸き肉躍るような興奮も無ければ、スカッとする結末が待つわけでもない。
“家族小説”と銘打たれてはいるが、これはむしろ……福井晴敏の思想表明本、とでも位置付けるのが正しいだろうな。
彼の、いくつかの代表作すべてに共通する筆者からのメッセージが、本書はより強く感じられるから……。
決して楽しく読めたわけではないし、筆者の主張に全面賛成なわけでもないけれど、読んで損はない一冊かと。
★4つ、7ポイント半。
2015.04.08.古。
“渥美”は、明らかに記憶にある“あの人物”だとして……、主人公の父も、設定的には(現役を退いて10年?)、例の代表作に登場していたのかしら??
Posted by ブクログ
出版社が違うからと油断していたら、ダイスシリーズとちょっとリンクしていたー!とても嬉しい。
小説の中の震災の話がいまいち実感できなかった。
地震当日は情報がほとんど入ってこない状況で徹夜で仕事していたし、原発の話も理解しようとしないまま毎日過ごしていたから。
小説を読んで、非常事態だったんだと驚いた。
息子に未来を示す主人公。
それに共感できないのは自分がまだお子様の立場でしか物を考えられないからだろう。
Posted by ブクログ
途中まで、このトーンで終わったら救われないぞ、と思いながら読み進めていたが、少し希望を感じさせて終わり、後味は悪くなかった。小説というより、ドキュメンタリーのようにも思える内容。決して解決しているわけでもない、現状をあらためて認識させられる。常に「経過」を生きている、と言い聞かせてうまずたゆまず進んで行くことが大切。