あらすじ
二十一世紀半ばに文明は滅んだ。山奥の僻村イリス沢に生き残った少数の人々は原始的な農耕と苛酷な封建制の下で命を繋いでいる。そんな時代でも、少女たちは《イリス漫画同好会》を結成して青春を謳歌していた。文明の放課後を描くポストアポカリプス部活SF。
第12回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作
感情タグBEST3
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火山噴火によるカタストロフィーを契機に核戦争が勃発、日本は反知性・科学主義の独裁国家になり、その後内乱の結果東京はじめ都市は消滅。山間へき地にかろうじて人が生き残るも文明は後退し、領主ー大借地農・中借地農ー作人ー野盗等からなる身分制・封建社会になったディストピア。
マンガ同好会の部活のまねごとをする4人の少女の話から始まるが、4人にも身分の差と身分による役割が隠されている。現状打破や一時的逃避のため、村を脱出し廃京のコミケに行こうとする。
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ポストアポカリプス小説は古今東西多々あれど、文明が崩壊した日本において、お伽噺と化してしまった在りし日のコミケを夢見る4人の少女を描いた作品はまずないのではないでしょうか。
通常よく見るポストアポカリプスSFの展開としては、原因となったAIの暴走との人類存亡をかけた戦いや、核戦争後の生存者を見つける旅や、種の保存を命題とした壮大なものが多くみられますが、本作は表題にあるように「コミケ」へ行くことが題材。とても日本的で、サブカルチックな命題であり、これこそジャパニーズSFでしか成しえないSFといえるでしょう。
かといって、内容は決してコミカルでライトなだけではありません。
むしろ、徐々に失われていく文明。そのアーカイブの消失により器具の取り扱い法や病気の対処は口伝でのみ伝えられ、二度と修復できない文明の遺産を壊さないように使っていく。いま、もし電気もガスもなく、上下水も管理できなくなり、物流が停止し、一次生産が人手でしか維持できなくなったとき、われわれの生活はどうなるかという恐怖が克明に書かれています。
なかでもこの小説では、特に文化度の低下による倫理観の退化を顕著に描かれています。恐らくは文化レベルが室町時代かそれ以前程度まで落ちているのでしょうか、貨幣制度はなくなり、多くは自給自足ができる最低限の人間が集まるだけとなっています。中には小作を使って中規模な村を形成し、昔の野武士集団が山賊をとなったように徒党を組んだあぶれ者が、そういったコミュニティを定期的に襲うようになっている。そんな世界で生きている4人の少女が立場の違いを超え、うち捨てられていたマンガという在りし日の文明の欠片によすがを求め、そのマンガの中の生活に憧れを抱いて現実の厳しさを紛らわせている。いまではこの4人だけが、在りし日の文化的な生活を知っている4人であり、作品中で一番啓蒙的なはずなのに、現実は厳しく実際は高校生活すらがSFであり、夢物語であるということを思い知らされてしまいます。
しかし、いつの日か日本各地の漫画家が理想を描いたマンガが一堂に会するマンガの祭典、「コミケ」に行くのだという夢をかなえるために、マンガという聖書を手に文化を啓蒙していく使徒として、4人はコミケという理想郷を目指して過酷な旅を始める、いわば第二の創世記たる物語となっています。
思えば作者のカスガ氏の作品に触れたのは、四半世紀近くも前のインターネットサイト「朝目新聞」。そこに掲載された「明日のナージャ」のパロディ漫画を見たのが最初でした。
その後氏の作品を追い求めるものの、当時北海道の最東端近くに過ごす貧乏学生には手に入れる手段も、その方法を教えてくれる知恵も同志も無かったため、ただただ検索サイトで見つけた、筒井康隆の「虚航船団」を題材にした氏の一連の作品群等をみて、その無念を晴らすような日々でした。
しかし、上京後にやっと手に入れたスマートフォンで氏のSNSアカウントを見つけフォローすることができ、そのおかげで見逃すことなくいまこうしてこの作品を手にしている。そういった自分の実体験は、この小説の内容と登場人物の想いに少なからず被っているようで、感に堪えません。
コミケという一見サブカルで一段低く見られがちなマンガ文化というものが、この作品の世界においては至上の娯楽であり文化的要素となっている。しかし4人の少女以外には中傷され、愚にもつかない扱いをされている。これはひと昔前の小説や俳句に対する扱いと全く被るもので、「学校に行き文章を学ぶと本を読むようになり、仕事をしなくなる」と真剣に懸念した当時の父母と同じ心境のようです。またそれに対抗して啓蒙活動にいそしんだのが正岡子規や夏目漱石であり、主役の4人はいつかこれらの文豪と並び、文化の担い手になるのではないでしょうか。
形態は変われども漫画や小説は、ただの娯楽ではなくて、何か心を動かす力があるという力強いものでありということをこの小説で感じ、4人の聖歌も必ず成果が生まれるように思います。
マンガも描かれるカスガ氏の小説。いつか自身でのコミカライズを期待しております。
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文明が衰退しディストピア化した未来の日本、4人の少女たちはコミケを目指す
ディストピアでもそれが普通なら、中にいる人たちはそれなりに暮らしている
その様子に歯痒くなるけど、彼女たちもそれにうっすら気付いていく
文明と文化、自己実現、自立、封建制、色んな問題を孕みながら歩く
「俺たちの戦いはこれからだ」
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個人的にはとても面白かったです!
特に、物語が大きく動き始める30/52章あたりからは夢中で読み進めてしまいました。
物語は、カバーイラストからは全く想像できないポストアポカリプス(=文明崩壊後)のお話。
現代なら高校生くらいの年代に当たる四人の女の子が主人公。
文明が廃れてしまい生きることすら大変な辛い状況だと思うのに、この話に出てくる女の子たちは「部活(漫画同好会)」を楽しみ、青春を謳歌している、、、ように見えて、四人がそれぞれに悩み、生きている様子が描かれていたこともとても良かったです。
そういえば「ポストアポカリプス」の物語を初めて読んだかもしれません。
後半に文明崩壊に至る流れの話が出てきたのですが面白かったです。
実際に起こり得そうな内容で「怖いなぁ。」とも感じました。
また世界を終わりにさせた赤い霧の話などちゃんと考えられていて、作者が細かい設定まで楽しみながら考えた様子が目に浮かびました。
この四人がずっと仲良く幸せでありますように!!
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人類が激減。文明が衰退した世界。
集落で暮らす10代の女の子たちが部活と称して漫画を描く。
閉鎖的な村社会に毒親。重い内容だけれどそれをあまり感じさせない。明るく希望が持てるところが良い。
ディストピアじゃないポストアポカリプト。
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思ってたんと違うけど、それで良い。
終末世界で漫研活動をしている少女たちがコミケを目指す話、なのだが、これで想像する展開とはだいぶ違う。
残酷なジェンダーロールやカースト制度、文明滅亡後の住民たちとのコミュニティ形成がこの話の本筋。村の様子が想像できてしまうために気が滅入る。
登場人物には暗い過去がある、なんて設定はよくある話だけど、この作品のは合理的に辛い立ち位置を背負わされているために辛い。
決して読んでいていい気分になる話ではないけど、ページを捲らせる力がありました。こういう話をたまに読むとオタクとして役立つかも。
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見た目の明るさからは想像も出来ない重たい話。人間が生存するために構築したコミュニティの中での自身の役割に息苦しさやもどかしさを感じつつ、そこに役割から来る差別や偏見も重なって、どんどん身動きがとれなくなっていく重たさが積み上がっていくような話。抜け出すならまさしく今だったんだなと読み終わると考えてしまう。人が人を思いやるには余裕が必要なんだなって言葉をふと思い出した。
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文明と文化の失われた未来の世界で伝説となった〈コミケ〉を目指す少女4人の物語。壊れた世界でも女の子4人が集まって部活をして同人誌を描いて、ってオタクっぽい話かな〜と思っていたらしっかりアポカリプスSFでした。村社会と性差別、身分差別のおぞましさと必要性、文明と文化がいかに人間にとって大事で必要なのかと思い知らされる。終わっている世界でも、心の拠り所があればなんとか生きていける。コミケは彼女たちの拠り所なんだろうな。彼女たちの書いた同人誌読んでみたいな。
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私はたぶんSF小説を読むのに向いていないのだろう…。表紙から現代をイメージして読み始めたけれど、その時代設定なら、スカートで日常を過ごすのは非現実的では…。少なくとも私は無理。(と考える時点でSF向いてないのだろう)
しきたり、文化、教育。社会のまとめ方を考えさせられる部分はあった。
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ポストアポカリプスから100年後の世界は、いかようであろうか。数百人程度の集落、インフラはない。
この点に変なこだわりをもって読んでしまったせいで、前半はネガティブな気持ちに支配されていた。
徐々に明かされていく事情を知るにつれそれはおさまっていったが、次は人々の価値観が現代的すぎやしないかという印象を抱く。
状況の中にあって状況を俯瞰できる資質はひょっとすると稀ではないのかもしれないが、教育の行き届かない、余暇を過ごすゆとりもない状況でそれを得ることは叶うのか、という。
一万年後の未来なら、ミュータントや魔物が徘徊しててもそういうこともあるかもしれないと気にもしないが、100年後くらいだと、現実と地続きすぎるせいか、ちょっとそれは違うんじゃないのというツッコミが自動的に発動してしまう。ツッコミの数が多ければ多いほど、創作の楽しみは減じることになる。
現代の日本では政府主導で漫画やアニメを世界に広げようと口にはしながらも後ろ足で砂をかけるような行為も並行しており、アクセルと踏むぞと宣言だけしてブレーキを踏んでる観がある。官主導でやりたいのだろうが、官主導だと吉本に資金注入するのがせいぜいなアレっぷり。出来事を並べて見ると助成金ビジネスを取り繕うための迷彩としか見えない。
……というような、かつて抱いた感想を思い出しながら、クールジャパンをもっとマジメにやんなさいよ、日本には日本にしかできない恒久平和への方策があるでしょ?という、著者からのメッセージを読み取った気になった。
過去バナのようなナニカにて描かれた最終兵器に、『風の戦士ダン』に登場した「人食いカビ」を思い出して和みつつ。
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早川SFコンテスト大賞受賞作らしい。
破滅した文明の後、農奴社会に戻ってしまったような日本で、「漫画」に触れた主人公たちの姿。
4人それぞれが社会的に違うランクにあって、衝突もあれば理解も成長もあり。
創作についておおっと涙するところもあったのだが、結局つまんなかったなあ。放り出すほどでもなかったけど。
青臭い社会や制度の仕組みへの批判はまあいいとして、最後はしがらみを断ち切った女の子で終わりですか。この子達これからどうするの。
続編があっても全く読みたくもないのだが、選者の講評の中で、神林長平さんの評が一番ピッタリだと思ったな。
ディストピアSFだとしても厚みもアイデアも足りない一品だと思う。
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ポストアポカリプス(という言葉を初めて知りました。SFのジャンルの一つで、文明が死に絶えた後の世界を描く分野らしい)の詳細な設定が描かれている。
作者が設定を想像して楽しんで、実際に文章にしてみました、という印象の本でした。
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これがSF?少女漫画のお話かと入り込み辛かったが、「ムラ社会あるある」のシリアスな展開と社会評論。文明、文化論は、よくわからなかったが「存続のみを唯一の目的とする社会全体が共有する幻想」の前では個人の意思は存在できないディストピア小説と読んでいたら、希望も示されホッ。ただSF感は弱かった。
Posted by ブクログ
もうひとつのハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。
序盤はワクワクする感じもあったんだけど、途中からはムラの描写に終始していて、楽しくはなかった。
当初の「創作」というテーマがどっかいっちゃったように感じたからだと思う。
Posted by ブクログ
近未来 文明崩壊後 山間の集落にしがみついてなんとか生き残った人々 その三世代目くらいの少女達の物語
過去の遺産として僅かな紙の書籍や漫画くらいは手に入るが無論新作は皆無
そんな中で自分達で新作肉筆回覧誌を作りフィクションでしか知らない部室を作り部活動をしているという設定で辛い現実から一時だけ逃れる少女達の日常
すんなりと読めてまあ面白かった
新人さんみたいだから次回作が楽しみ