あらすじ
ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。
学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧――。
五大陸を流浪した集団は、なぜ世界に影響を与え続けているのか。
古代王国建設から民族離散、ペルシア・ローマ・スペイン・オスマン帝国下の繁栄、東欧での迫害、ナチによる絶滅計画、ソ連・アメリカへの適応、イスラエル建国、中東戦争まで。
三〇〇〇年のユダヤ史を雄大なスケールで描く。
■目次
序 章 組み合わせから見る歴史
第1章 古代 王国とディアスポラ
1 ユダヤ教以前のユダヤ人?――メソポタミアとエジプトのあいだで
2 ユダヤ教の成立――バビロニアとペルシア帝国
3 ギリシアとローマ――キリスト教の成立まで
第2章 古代末期・中世――異教国家のなかの「法治民族」
1 ラビ・ユダヤ教の成立――西ローマとペルシア
2 イスラーム世界での繁栄 西アジアとイベリア半島
3 キリスト教世界での興亡――ドイツとスペイン
第3章 近世――スファラディームとアシュケナジーム
1 オランダとオスマン帝国――スファラディームの成立
2 ポーランド王国との邂逅――アシュケナジームの黄金時代
3 偽メシア騒動からの敬虔主義誕生――ユダヤ教の神秘主義
第4章 近代――改革・革命・暴力
1 ドイツとユダヤ啓蒙主義――同化主義なのか
2 ロシア帝国とユダヤ政治――自由主義・社会主義・ナショナリズム
3 ポグロムとホロコースト――東欧というもう一つのファクター
第5章 現代――新たな組み合わせを求めて
1 ソ連のなかの/ソ連を超えるユダヤ人――社会主義的近代化
2 パレスチナとイスラエル――「ネーション」への同化
3 アメリカと文化多元主義――エスニシティとは何か
むすび
あとがき
参考文献
ユダヤ人の歴史 関連年表
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Posted by ブクログ
タイトルを見て、なんとなく気になると思って手に取り時間をかけて読んだ。
3000年に渡る歴史を、基本的には順を追って丁寧に解説されているが、必要に応じて時間の前後関係と記載の順序とを逆転させて大変わかりやすく論説されている。私は世界史には高校生の時以来触れ、ユダヤ人に関してはホロコーストとイスラエルとの用語と結びつける程度しか知識が無かったが、この本に出会って厚みのある知識を得られた気がしており、満足している。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ勉強になった、し、おもしろかった。高校の世界史を意識した説明の流れになっているところが多く、不勉強な身でもなんとかついていけた(言葉の定義を忘れることが多くて戸惑ったが…。)
今まで持っていたユダヤ人へのイメージや、それからわく素朴な疑問に、丁寧な説明をいただける本になっていて、いろいろな点と点が線で繋がるような感覚があり、まさにこういう本を求めていたという感じ。
そしてでも、いまのイスラエルの暴力についてはNOを突きつけなければ……
Posted by ブクログ
そもそもユダヤ人ということを知らなかったし、日本史派で世界史はほぼ初週だが非常に読みやすい本だった。
ユダヤ人について、アインシュタインしかり、天才が多いというイメージと、ホロコーストの被害者である、というイメージが漠然としてあっただけだった。
前者に関しては、天才が多いのは、ユダヤ教の根底として「律法」「教育」を重視する側面があったから、ということと、各国家において、歴史のマイノリティとして国家の法に適用しつつ、ユダヤ共同体として「うまくわたってきた」から、なのだと理解した。
また、後者に関しては、ホロコーストがすべてではない、ということも理解した。東欧で起こったポグロム然り、ユダヤ人は「国の法」に従いつつ「国家内国家」と呼ばれる共同体を作ることで、国家が繫栄するときはともに繁栄しつつ、不安定になると一気に迫害の対象になる、ということがよくわかった。
そして、現代に入り、「民族」「ネーション」という秩序が重要視されることでシオニズムが勢いを増し、その結果としてイスラエルが建国された、という点も興味深かった(ネーションがないことによる迫害と、ネーションを重視する「国家の法」に従ったからこその建国)。
そして、イスラエルを中心とする中東情勢も、ホロコーストの文脈で捉えてしまっているからこそ、被害者の文脈で捉えられていることで、収まりがつかなくなっている。そして、その文脈で捉えられている理由は、ホロコーストやポグロムの精算ができておらず、ユダヤ人のことはユダヤ人で守る、という観念が生まれてきてしまったから。
何度聞いても、イスラエルパレスチナ問題を全然理解できなかったが、この本を読むことで新たな視点を得ることができた。
Posted by ブクログ
ユダヤ人の歴史
古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで
中公新書 2839
著:鶴見太郎
出版社:中央公論新社
地続きである大陸にすんでいる民族の歴史はすさまじいものです。
まさに避けようものない悪夢が、歴史の中心をなしています。
ユダヤ人、旧約聖書ではみずからを、イスラエルという、ユダヤ、ユダとは、イスラエル12部族の内の1つの部族である
イスラエルと神ヤハウェとの間には、いくつか契約を結んだ
アブラハムが結んだ契約、割礼を要求する民族としての契約
つぎに、モーセが結んだ契約、シナイ契約と呼ばれる、民族ではなく戒律による契約、モーセの十戒である
そして、申命記での契約、ユダヤ教の宗教改革であり、トーラ五書による、ユダヤ教のはじまりである
申命記=バビロン捕囚、その以前を古代イスラエル宗教といい、その後をユダヤ教という
ユダヤの経典
トーラ:モーセ5書といわれる旧約聖書の冒頭5書
タルムート:学びという、エルサレム・タルムート、バビロニア・タルムート等
旧約聖書
モーセ以後
モーセより、エジプトを脱したイスラエル部族は、カナンの攻略を始める
士師時代 モーセの後継者ヨシュアが、カナンの地を制圧しているペリシテなどの先住民族との闘い
王国時代 サウル、ダビデ、ソロモンの時代、イスラエルの黄金時代
ソロモンの時代に、エルサレムに神殿が建設される、これを第一神殿という
王国の南北分断と、バビロン捕囚まで BC538年、第一神殿は破壊されてしまう イスラエルの1つの時代が終わる
ペルシア帝国がカナンを制圧して、バビロンからユダヤ人の一部が帰還する カナンに第二神殿が建造される
ペルシャは、BC330に、アレクサンドロス大王によって滅亡し、ヘレニズムの時代がやってくる
ローマ帝国統治下
BC37、カナンのローマ帝国の版図にはいる
イエス・キリスト教の出現 救世主メシアとは、油を注がれたもの、つまり、王であり、王は、ダビデの子孫であって
エルサレムで生まれたものでなければならなかった
メシアのギリシャ語訳は、クリストス つまり、イエス・キリストとは、イエス王ということなのだ
しかして、イエスは、王ではなく、社会の改革者としての位置づけであったが、ローマと、ユダヤ当局は反逆者として
イエスを処刑してしまう。ユダヤ改革をすすめていたファリサイ派であったパウロが、イエスをメシアとして、作り上げたのが、キリスト教である
AD66,ユダヤはローマに対して反乱をおこして、AD70年、第二神殿も破壊されしまう
AD73、マサダで集団自決に追い込まれ、ユダヤの集団的反乱は終わる
ディアスポラの始まりである。ギリシア語でまき散らされた者という意味で、放浪する人を意味する
イスラム以後
イスラム教とユダヤ教の関係は、おだやかで、ジスヤという税を納めれば、永続的にその土地で生活ができた
キリスト教とユダヤ教とのような血ぬられた関係ではない
アッラーとは、アラビア語のThe God である
イスラム下でのユダヤは、交易の一部を担い、イスラムの広がりとともに、イベリア半島などに広がっていく
反ユダヤ、十字軍について、キリスト教徒は、ユダヤを弾圧して迫害を加える
スペイン・ポルトガルにのびた、南の十字軍では、イスラムに改宗していたユダヤ教徒コンベルソに危機が迫る
隠れユダヤを、マラーノという
スペインを追われたユダヤ教徒は、ポルトガル、オランダ、オスマントルコへ3方向にわたって離散した
これをスペインにいたユダヤ人ということで、スファラーディームという
もう一方は、ドイツに向かった一団もあった、これをドイツのユダヤ人、アシュケナージムという
結果、スアラーディームの大半は、トルコに終結することになる、これは当時オスマントルコが版図を拡大していた時期に相当する
17世紀に入ると、ウィーン包囲戦の敗北したオスマントルコは衰退期にははいる。
ユダヤは、このとき、経済が好調であったオランダに向かい、トルコの移民は激減した
一方、最終的にドイツに落ち着いたアシュケナージムは、15世紀になると、ドイツから追われて、ポーランドに定住する
ここでも、ユダヤは、人頭税さえ納めれば生活を確保できた
後日、ポーランドは分割され、ロシアに編入することなったときに、ユダヤは、ロシアに取り込まれた
フランス革命と産業革命
フランス革命をきっかけに、ユダヤも個人的に認められるようになり、ゲットからでるとともに、ヨーロッパに再び
拡散していく
1900年時点では、ロシアに520万人、オーストリア・ハンガリーに207万人、アメリカ100万人であり、ドイツは52万人であった
ポグロムとホロコースト
第1次大戦後、ユダヤやあちこちの国々で迫害を受けることとなる。これをポグロムという
数万人単位のユダヤ人が迫害され、殺害された
ドイツでは、人種主義の影響で、ユダヤ人の国外追放と、ポグロムによる財産の没収迫害などが始まる
当初は移民先をロシアとしてユダヤ人を追放しようとしたが、対ソ戦でそれもままならなくなった
そのために、ゲットーにあつめて、餓死させたり、銃殺をしたりした
アウシュビッツについては、ソ連軍捕虜を虐殺するためにつくられたが、やがて、ユダヤに向けられていく
これをホロコーストという
結果、ポーランドに住んでいたユダヤ人の9割である300万が殺害され、ソ連領内でも100万が死亡した
ソ連領内でおきた虐殺で有名なのは、バビ・ヤールの虐殺で、ドイツ軍とウクライナ民兵によりユダヤ人の3万人以上が
虐殺された
第2次世界大戦後
ユダヤ人の戦後の大きな動きは3つ
ソ連・ロシア領内にとどまるユダヤ人
アメリカへの移民
イスラエル建国後に移民
もともとパレスチナはオスマントルコの領土であったから、そこにいたユダヤ人も多かった
植民という形でイスラエルものも多かった
アメリカでは、ユダヤ人は迫害を受けることもな最大の団体で、ながらく、イスラエルを支えるロビー活動を展開している
しかし、右傾化するイスラエルについて、距離をとる、アメリカのユダヤ人も現れ始めた
数度にわたる離散によって世界中に散ったユダヤ人であるが、3000年もの間、同一性をとっているのは驚異に値する
そして、人間の所業とはいかに罪深いものなのか、あるいは、これは人間の本能であり、避けられない運命なのか、とにかく生き残ることが善であることだけは確かであろう。
目次
まえがき ある巡り合わせ
序章 組み合わせから見る歴史
第1章 古代―王国とディアスポラ
1 ユダヤ教以前のユダヤ人?―メソポタミアとエジプトのあいだで
2 ユダヤ教の成立―バビロニアとペルシア帝国
3 ギリシアとローマ―キリスト教の成立まで
第2章 古代末期・中世―異教国家のなかの「法治民族」
1 ラビ・ユダヤ教の成立―西ローマとペルシア
2 イスラーム世界での繁栄―西アジアとイベリア半島
3 キリスト教世界での興亡―ドイツとスペイン
第3章 近世―スファラディームとアシュケナジーム
1 オランダとオスマン帝国―スファラディームの成立
2 ポーランド王国との邂逅―アシュケナジームの黄金時代
3 偽メシア騒動からの敬虔主義誕生―ユダヤ教の神秘主義
第4章 近代―改革・革命・暴力
1 ドイツとユダヤ啓蒙主義―同化主義なのか
2 ロシア帝国とユダヤ政治―自由主義・社会主義・ナショナリズム
3 ポグロムトホロコースト―東欧というもう一つのファクター
第5章 現代―新たな組み合わせを求めて
1 ソ連のなかの/ソ連を超えるユダヤ人―社会主義的近代化
2 パレスチナとイスラエル―「ネーション」への同化
3 アメリカと文化多元主義―エスニシティとは何か
むすび
あとがき
参考文献
図版出典
ユダヤ人の歴史 関連年表
ISBN:9784121028396
判型:新書
ページ数:336ページ
定価:1080円(本体)
2025年01月25日初版
2025年06月20日8版
Posted by ブクログ
「ユダヤ人」というものへの認識は
せいぜい人種ではなく宗教に依拠した集団である、
商業に強い、
その程度だった。
この本に書かれていたことをすべて理解できたとは
とうてい思えないけれど、
確実に学びになった。
日本においても浮浪民は蔑まれてきた歴史があるけれど、
それが大陸になると規模もとんでもないことになる。
土地と結びつくか、信仰と結びつくかによる、大きな分岐。
最終的に市民平等の波が最大の断絶を生んだのは、人の世のままならなさがよく伝わる。
Posted by ブクログ
難しかったけど読み応えあった。世界史の授業で習ったことも多く書かれていたけれども、著者の先生もあとがきで書かれていたように高校世界史ではユダヤ人はキリスト教誕生前とホロコーストくらいしか登場しなくて、ユダヤ人とのコンテクストで世界史の流れを習うことはなかったからどの章も興味深かったな。
民族離散、「国の法は法なり」と法的解釈、他宗教世界での繁栄と興亡、現代における文化多元主義と多文化主義、そして最後に紹介されたユダヤ現代史の三大拠点に生きる三名のユダヤ人 - ゼレンスキー、ネタニャフ、エレナ・ケイガンの三様な生き方などなと無限の組み合わせを経て生き続けてきたユダヤ人の歴史の上に立っているのを知ることができたのはとてもよかった。
学生時代にこういう本や講義に出会いたかったな。
Posted by ブクログ
ユダヤ民族の歴史を世界史の中で解説されていて、わかりやすく、現在のイスラエル問題を少しだけ理解できてきたような気がします。特に、ホロコーストがナチドイツだけによるものではなかったことも、国際的に解決しにくい一つの要因なのかと思いました。
Posted by ブクログ
アブラハムに始まり、現代のイスラエルとガザの戦い、そしてウクライナ・ロシア戦争まで広範な時代を豊富な情報に満ちていて、ユダヤ民族史を知っているつもりの私にも目が開かされる驚きだった。特に中世でのユダヤ教とイスラム教の親しかった時代、むしろキリスト教よりもこの2つの宗教の親和性があったのは、確かにそうかも知れない。ナチスドイツのホロコーストは主犯格ではあるが、ポーランド、ウクライナなどでのポグロムなどのユダヤ人虐殺などの背景があったにも関わらず、ナチスにすべての罪を被せて追及されずに現代に至っている!なんとドイツ敗戦後の1946年7月にもポーランドでポグロムが起こっていたらしい。ロシアでのユダヤ人迫害から、ウクライナにユダヤ人が多く集まていたという歴史があり、ゼレンスキー大統領もユダヤ人として歴史上で英国ディズレリーに次ぐ2人目のユダヤ人トップだったとは知らなかった。現在世の中を騒がせている2つの戦争にこのような繋がりがあったことも驚き。
なお、著者は1965年生まれの日本近現代史学者とは同姓同名の別人であり、この人は1965年生まれの歴史社会学者との自身の説明がある。研究分野が重なるだけに、ややこし過ぎる。
Posted by ブクログ
3000年におよぶユダヤ人の歴史をコンパクトにまとめた一冊である。コンセプトは「組み合わせ」。国を持たないユダヤ人たちは、それぞれが住む国で「国の法は法なり」としてその国の法律に従う一方で、自分たちの宗教とその律法を守り続けてきた。そして、ユダヤ人集団が社会の中で適合する位置を探り続けてきたというのだ。しかし、それは宗教と自分たちの文化を守るが、条件が変わるとほかの集団からたやすく攻撃される立場である。貴族と結びついて徴税を請け負う仕事をしていたポーランドでは、農民の恨みを買いポグロムを招き、それはホロコーストにもつながった。しかし、今のイスラエルは、国際社会の中で最適な位置を探ろうとしているようには見えない。ユダヤ人は変質したのか、これからユダヤ人たちはどこへ向かうのか。
Posted by ブクログ
自分には新しい用語ばかりで調べながら何とか読み終わった。最近ニュースになっているイスラエルの戦争について十分ではないがやや理解できた。普段ほとんど宗教と関わりなく生きてきたからか、なぜここまで長い間、ユダヤ人ということで固執されなければならないのか、理解が難しい。
Posted by ブクログ
ユダヤ人とはそもそもなにか、という初歩的な疑問から教えてくれる。
宗教的な成り立ちから、国を持たない流浪の歴史、ホロコースト、イスラエル建国までを丁寧に解説してくれた。
こういうのが読みたかった。
Posted by ブクログ
世界情勢の報道を見ながら事象の理由が知りたくなり、本書を読むことにした。恥ずかしながら、まともに歴史を勉強してたのは中学くらいまでなので、難しく感じて体力を要したし、理解できたのは断片的だったかもしれない。しかし、読む前よりは世界情勢の解像度が高まり、事象の背景を掴める感覚は備わったと思う。時間を置いて、もう一度読んで理解を深めたい。
Posted by ブクログ
ユダヤ人の歴史、古代についてはなんとなく把握しているけどその後がさっぱりなので、勉強のために読んだ本。古代イスラエル人の出現から現代のパレスチナ弾圧まで、しっかりまとめてあって読みごたえがありつつも読みやすいのでありがたかった。いきなりホロコーストが始まったのではなく、中世から続く搾取者という反ユダヤ感情、東欧の政治的事情など複雑な背景が絡んだことなどはいままで知らなかったので勉強になった。ただ政治的な話は苦手で自分には難しいので、一読で頭にはなかなか入らなかった。また折を見て読み返したい本。
Posted by ブクログ
書店で平積みされているのを見かけて気になっていたのと、某Podcastで話題に上がっていて、これはやはり買わないと!と思って購入。
今参加している聖書読書会、前回の課題箇所がどんぴしゃで、読み初めて数ページで「買ってよかった!」とかみしめた。
こちらタイトルそのまま、
ユダヤの3000年史。
それこそ旧約聖書の時代から、ディアスポラ、ホロコースト、シオニズムに至る、古代近世現代を網羅するユダヤ民族の歴史が詳細に描かれている。
まず、「ユダヤ人」って定義が難しい。
ユダヤ教を信奉する人、ユダヤ民族の血をひいている人、…どこからどこまでをそう定義するのか?
そして長い間国土を持てなかったユダヤ人、ユダヤ民族がどうして21世紀の現代まで、定義は様々とは言えこんなにも続いているのか?
以前、これも何かのPodcastで、
橋爪大三郎先生が、
「バビロニア人はどこへ行った?
アッシリア人は?ローマ人は?
あんなに弱かったユダヤ人だけが残ったのは何故か?」
とおっしゃっていたが、
この本を読んだら、
ただユダヤ人が弱かったから、
律法で繋がっていたから、
ユダヤ教の信仰が強かったから…、
だけではないことがよくわかる。
と、いうか、
私がひとくくりにイメージするユダヤ人、ユダヤ民族が、とても単一的で浅い理解だったんだなとわかった。
ディアスポラで世界中に散ったユダヤ民族は、各地でその土地の文化と自らの民族性を組み合わせ、適応したり迫害されたりしてきた。
その適応の結果、地位を得たことで次の時代にさらなる迫害を招くこともあった。さらに、ホロコーストやポグロムが逆のベクトルで働き、シオニズムの結束を強め、それがアラブ系への対立や迫害につながることもあった。
ユダヤ民族の固有の特殊性からそうなったわけではなく、遭遇した組み合わせから数珠つなぎに相互作用の連鎖反応が起こり、ユダヤ民族自体がそれによって蜘蛛の巣のように分派しつづけて今がある。
また、ユダヤ民族側からではなく、彼らを取り巻く外部からも、そのアイデンティティを都合よく押し付けられてきた歴史についても読み進むにつれ思い至った。
実際、歴史を振り返ればどんな民族にも多かれ少なかれそういう変遷を経ているのだろう。
理解しやすい物語として把握していたり、一方向の情報から無意識のうちに知ったつもりになっている歴史はまだたくさんあるはずだ。
途中から付箋を貼る手が止まらなくなり、通読するのにずいぶん時間がかかったが、旧約聖書をもうすぐ読み終わるこのタイミングでこの本に出会えたのはラッキーだった。
この先たぶん何度も読み返しのために手に取ってしまう本になるだろう。
そしてこの本からまた、いろんな本を読みたくなってしまうんだろうな。
やっぱり買って正解だった。
Posted by ブクログ
ホロコースト史に集中しがちなユダヤ人の歴史とは一味違う著作。中世や近世におけるユダヤ人の位置付けや歴史を辿っており、一面的ではない描き方に感銘を受けました。
Posted by ブクログ
タイムリーな企画。
公正な立場からユダヤ人の通史を高校生でもわかるように平易に解説した、格好の入門書。
ロシアになぜそんなに多くのユダヤ人がいたのか、アメリカのキリスト教福音派がなぜイスラエルを支援するのか、など、「なるほど!」と唸ることしきり。
あと、昨今の「分断」や「外国人政策」を考える上で、「主体か構造か」という問いの立て方が大いに参加になる。
Posted by ブクログ
ユダヤ人の起こりから現代までが通してわかる本。
ユダヤ人の歴史からくる特徴も相まって、語られる場所と時間がぐるぐる変わるので、ぼっーと読んでいると自分のいる場所がわからなくなります。
ただ、この特徴から紐解く、ユダヤ人の分析が、個人的にはかなり納得感がありました。
その特徴とは、全世界に散らばっていること。
だからどこにいって少数派だし、敵国にユダヤ人がいて厄介なことになったりします。
改めて、人間のカテゴライズしたがる強さを感じました。
これをどこかで止められたのかと考えると、あまりにも無理な気がしてきます。
Posted by ブクログ
最新(2024年)の研究成果に基づき、ユダヤ人の歴史について、旧約聖書の神話も横目に見つつ、ユダヤ人の起源からイスラエルによるガザ侵攻に至る現代史までを網羅的に扱った歴史学者の著作。
Posted by ブクログ
いくつかの書評で取り上げられているのを見て。もったいないと思うのは、タイトルが普通過ぎて類書に埋もれてしまい、せっかくの良書が気付かれないままになってしまうんじゃないか、ってこと。中公新書っていうブランド上、仕方ないのかなとは思うけど、やっぱりもったいない。イスラエルの蛮行を考察するのに、うってつけの本作。”なぜ”の部分への理解が進んだ気になる。あと、本書を取っ掛かりに、それこそ”類書”へ手を伸ばすきっかけにもなり得る。
Posted by ブクログ
日本人の多くは、ユダヤ人について”アンネの日記”程度の知識しか持ち合わせないのだと思います。私もその一人。
そもそも、ユダヤ教とキリスト教の関係性からして理解していませんし、そこにゾロアスター教などというものが入ってくると、もはやオカルトや悪魔祓いな世界。
なんとか通読はできたのですが、正直、字面を追うのが精いっぱいで、特に、中世の欧州周辺の超複雑な栄枯盛衰は、悲しいくらい頭に残らない。
それでも、特定の領土を持たないユダヤ人な人々が、各時代、各場所で適応しながら生きながらえ、シオニズムの流れが今のイスラエルに結実するまで、激動や混沌を生き抜いたことはなんとなく理解できました。
読後、本棚の高校世界史の教科書を手に取って、どこまで載っているのか確認してしまいました(^^)
Posted by ブクログ
映画ファンなのでさまざまなホロコーストに関する映画や、スピルバーグの『ミュンヘン』なんかを何となく観てきちゃったが、改めてユダヤ人について知ろうと読んだ。もちろん現在進行形のイスラエルの暴走についても興味があった。
ユダヤ人は宗教と民族の混在した類稀な集団であり、その中には信仰の度合いや政治的指向の異なる人がいると。
『国の法は法なり』という精神からイスラエル暴走の理由が垣間見える。
古代から現代までの歴史をユダヤ人にフォーカスして読むことは特別な体験であったが、とにかく読みづらい…。なんとなく知れた、くらいの達成感。引き続き注視していきたい。
Posted by ブクログ
ユダヤ人3000年の歴史。
圧巻。
ユダヤ教とユダヤ人の関係。
宗教って複雑。
歴史の複雑さ、、著者言うところのめぐりあわせと組み合わせがすさまじく、
殆ど記憶に残らない。
唯一印象的なのは
アメリカのユダヤ人人口は600万人で、
これはイスラエルのユダヤ人人口700万人に続くということ。
これじゃアメリカはイスラエルを指示せざるを得ないわな。
酷い話だ。
いっそイスラエルをあきらめ、全員アメリカに行ってくれれば、
どんなに世界が平和かと思うが、
そうはいかないのがあの聖地ということなのだろう。
だからと言ってガザ市民を殺戮していいわけはないのだが、、、
宗教の力なのか?わけがわからない
序 章 組み合わせから見る歴史
第1章 古代 王国とディアスポラ
1 ユダヤ教以前のユダヤ人?――メソポタミアとエジプトのあいだで
2 ユダヤ教の成立――バビロニアとペルシア帝国
3 ギリシアとローマ――キリスト教の成立まで
第2章 古代末期・中世――異教国家のなかの「法治民族」
1 ラビ・ユダヤ教の成立――西ローマとペルシア
2 イスラーム世界での繁栄 西アジアとイベリア半島
3 キリスト教世界での興亡――ドイツとスペイン
第3章 近世――スファラディームとアシュケナジーム
1 オランダとオスマン帝国――スファラディームの成立
2 ポーランド王国との邂逅――アシュケナジームの黄金時代
3 偽メシア騒動からの敬虔主義誕生――ユダヤ教の神秘主義
第4章 近代――改革・革命・暴力
1 ドイツとユダヤ啓蒙主義――同化主義なのか
2 ロシア帝国とユダヤ政治――自由主義・社会主義・ナショナリズム
3 ポグロムとホロコースト――東欧というもう一つのファクター
第5章 現代――新たな組み合わせを求めて
1 ソ連のなかの/ソ連を超えるユダヤ人――社会主義的近代化
2 パレスチナとイスラエル――「ネーション」への同化
3 アメリカと文化多元主義――エスニシティとは何か
むすび
あとがき
参考文献
ユダヤ人の歴史 関連年表
Posted by ブクログ
ユダヤ人3000年の歴史を一冊にした本でわずか半年程度で重版を重ねているので読んでみました。確かに3000年もの歴史を一人で記述するというのは困難なことであるため、卒業論文のような未消化でざらついた部分があったが、なんとか読み下すことができました。ユダヤ人にもスペインのユダヤ人を起源とするスファラディームとポルトガル貿易に関わってオランダやドイツに流れたユダヤ人であるアシュケナジーム、そして東方系ミズラヒームなどの区分がある。そしてユダヤ人は世界史の多くの場面で大きな役割を果たしてきたこと。ホロコーストの犠牲者がドイツでは16万人であったのに対して、ポーランド300万人、ソ連100万人もの犠牲者があったこと。そしてホロコーストは広くヨーロッパ中の国々で行われていたこと。その合計が600万人ものユダヤ人を殺害したのがホロコーストなのだ。その責任が全て西ドイツの一国に押しつけられているが、ユダヤ人のホロコーストにはヨーロッパ中の国々が加担していたのだ。ディアスポラによって離散したユダヤ人はいつの時代も迫害され、移民を繰り返していたのだ。1900年の段階でユダヤ人が一番多く住んでいたのはロシア帝国で世界の約半分の520万人、次がオーストリアハンガリー帝国の207万人、アメリカの100万人、ドイツの52万人と続き、ポーランドはその当時はロシアとドイツとオーストリアに分割されて消滅していたのだ。それがロシア革命時にポーランドの独立が実現し、そのポーランドで300万人ものユダヤ人がホロコーストの犠牲になったというのだから、歴史の激動の中で犠牲になったのだ。ホロコースト以前にも、多くの地域でポグロムという虐殺行為があったのだ。イスラエルのネタニヤフ首相はもちろん、ウクライナのゼレンスキー大統領もユダヤ人であり、現代でもユダヤ人は世界の政治を大きく動かしているのだ。
Posted by ブクログ
現在の中東で起きていることを理解したくて読んだが、そう言う意味での納得は得られなかった。ロシアと同じくめちゃくちゃな事をしている人達を理解しようとしても価値観のギャップが大きすぎて難しい。とはいえ、色々学びはあった。
1、なぜユダヤ人は嫌われるのか: ベニスの商人のように強欲なユダヤ人というステレオタイプ化がされがちだが、これはユダヤ教が律法を重んじる教義ゆえ識字率も高く、商業や金融業を生業とすることが多かったため。中世においては封建領主の徴税請負人となることも多くこのことが農民層から敵視される背景となった。
2、誰がユダヤ人を弾圧してきたか: 歴史的にはイスラム教もユダヤ教も他宗教には寛容。キリスト教が最も激しく弾圧を加えた。近代においては無宗教を標榜するソビエトがユダヤ人を平等に扱いだしたため周辺国では、共産主義との繋がりを警戒された。(迫害はナチスだけによるものではない)
3、なぜアメリカがイスラエルをこれだけ支援するのか: アメリカにおけるユダヤ教徒の比率はそこまで高くないが、ユダヤ教徒側から見るとイスラエル外で最大のユダヤ人口の国であるから重視される。欧州のキリスト教が弾圧したのに対してアメリカの福音派は「神の国」実現の前提としてイスラエルの再興を掲げており強力なキリスト教シオニズムを形成している。
ここにも福音派が出てきて不気味。
Posted by ブクログ
ユダヤ人の歴史、なかなか読みやすく理解が深まりました。
ホロコーストばかりが浮かぶけど、ユダヤというのが何か、シオニズムとは何か考える良い機会だった。
仲間意識の強いユダヤの人。幸せな国家を持たせてやれないものだろうか…。
Posted by ブクログ
悲惨なニュースが続く国際情勢。
パレスチナ問題とは?イスラエルとは?と都度調べていたものの、かつて日本史選択だった私にはピンとこない事柄も多く、折良く出版された本書で勉強することにしました。
本書のはじまりは紀元前1220年から……ということで、3000年かけてユダヤ人の足跡を追っていく、途方もないつくりとなっています。
旧約聖書のあたりは以前読んだ阿刀田高先生の「アイヤー、ヨッ」を思い出しつつ、じっくりとその流れを辿っていきました。
教科書的な記述が多く、もう少しコラム的な内容があれば楽しく読めたのに……とこれは少々残念な点。
ただ、「むすびに」で紹介された現代のユダヤ人については初めて知ることが多く、早速海外ニュースを見る目が変わりそうです。
本書の中で、印象に残った一節をご紹介します。
「……差別とは必ずしも蔑むことだけを意味するのではない。あるカテゴリの人びとが一様に同じ性質を持つことを、当事者一人ひとりの固有性を無視して決めつけることに差別の基礎がある」
これにはハッとしました。
ユダヤ人は頭が良い、お金持ち……。何かで植えつけられたこれらのイメージは、一見すると良い見方に見えますが、もちろん全員が全員そうなわけではありません。
商売が苦手な人だっているし、貧困にあえぐ人もいる。「ユダヤ人」などと一括りにすることはできず、また同じユダヤ人同士であってもお互いに複雑な感情を抱えていることもあるわけです。
本書で懇切丁寧に解説された、ユダヤ人の歴史や彼ら、そして世界が抱えている問題。それらの半分も理解できていない気がします。
しかし、この本を読んだことで脳内に「ユダヤ人という回路」ができたこと、それが私にとってはきっと大きな収穫だったのだと思いました。
Posted by ブクログ
この本を読み終わって数日経過したところで、連日、イランとイスラエルの争いがテレビで報道されています。報道の映像をみるたび、頭の中で繰り返しTHE BLUE HEARTSの「青空」が流れます。この本を読まなければ、恐らく脳内のTHE BLUE HEARTSも流れないし、ニュースに目も止めていなかったと思います。「意識していなかったものを意識するようになる」、やはり読書という行為は、素晴らしいものだと改めて思いました。
理系なので、全体的な世界史の流れには疎く、読みづらい部分も多々ありました。ただ、ホロコーストの話を読むと、何だか胸が締め付けられるような想いになります。
ユダヤ人と聞くと、アンネの日記やアウシュビッツ強制収容所の話を思い出し、ヒエラルキーの最下層という印象が強かったのですが、時代や場所によって、その地位は異なっていたことがよくわかりました。歴史のほんのごく一部しか学ばずにわかったような気になっていた自分がいましたが、想像以上にユダヤ人の歴史というのは複雑なものだと知りました。大変、勉強になる一冊でした。