あらすじ
直木賞作家が描く、明治開国の仏を巡る群像
200年の間、固く閉ざされていた扉。
それはフェノロサと岡倉天心の手によって開かれた――
飛鳥時代に聖徳太子の姿を模して造られたと言われる、
法隆寺夢殿・救世観音像。
その厨子は鎌倉時代以降、固く閉ざされ、
扉を開けば直ちに仏罰が下ると信じられていた。
「金のために秘仏を見せるというのか」
「支援がなければ、法隆寺はもう保てません」
国内では廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ、
しかし、欧米では東洋美術が評価され始めている。
近代化と伝統の狭間で揺れる明治時代に、
秘仏開帳に関わったものたち、それぞれの思いとは。
直木賞作家が描き出す歴史群像劇の傑作。
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Posted by ブクログ
法隆寺 夢殿に歴史と共に救世観音像が祀られてある。それを明治21年に厨子を調査として開けたフェノロサ、岡倉らの人生はその時変わっていった。伝説通りに雷に打たれた、というのではないが明治という新しい時代が、彼らをどう揺さぶっていったか。
史実に基づいて連作小説と形をとった一冊となったが世界と日本を結ぶ美術に関して、当時、日本を訪れた西洋人の目で見た日本人ん姿なども興味深い。
救世観音の表情をアルカイックスマイルと評しているが、はるか歴史の彼方からその表情は聖徳太子の姿とも伝えられ、ロマンを掻き立てられる。歴史好き美術好きを恥ずかしながら自認してるとは言えこういう本に出会えて幸いである。そんな自分がなぜか罰当たり者に思える。畏れという感情、常々持っていたい。
Posted by ブクログ
明治になり、新政府の方針で廃仏毀釈が行われ、仏教寺院は受難の時を迎えていた。すでに多くの寺院が廃され、仏像は打ち捨てられたり、美術品として外国に持ち出された。
法隆寺の救世観音像は、秘仏であるがゆえ、これまで200年の間、逗子の扉が開けられたことはない。開けたものには仏罰が降りると言われていた。しかし、その価値をあらためるため、政府によって扉が開かれようとしていた。そこに立ち会うのは、政府の役人、写真家、外国人、そして法隆寺の住職。
不思議な微笑みを称えた仏を通じて、彼らの姿を映し出す。
『木挽町のあだ討ち』で直木賞を受賞した作家の最新作。
構成は似ているかもしれないが、ここでは歴史と実在の人物、テーマの重さから、意外性や奇抜なドラマを期待するとやや物足りないだろうが、それ以上にリアリティのある物語を紡ぎ出した。
岡倉天心、アーネスト・フェノロサなど、明治の美術界の主要人物が描かれているが、私は法隆寺の定朝の人物像と、浮浪者の太助の物語に惹かれた。やはり想像力で描かれた人物は、魅力的だった。