あらすじ
北斎、お栄、英泉、国直……奔放な絵師たちが闊歩する江戸の街。淡々とした明るさと幻想が織りなす傑作。単行本未収録(全集版のみ所収)の「夜長」「山童」を収録。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
下巻まで読んで、どんな漫画なのかやっと理解できたかも。
大変味わい深い作品。江戸の理不尽さや親切、愛憎をあっさり描いているのがよかった。
現代人の方がジメジメしている。今の時代の価値観と比べるのも面白い。
応為の火事好きの話や、色気のある絵を描くために女と遊ぶ話、家族の話など、応為の機微に触れられた下巻。
江戸の風情が嫌味なくさらりと描いてあり、漫画らしく一コマが目に焼きつくということも多かった。説明ではなく絵で語る。
火事を見にいくとか、死体を見たいとか、今だと確実に不謹慎だと言われることも、特別非難されることがなかった時代。そのぶん、理不尽もたくさんあっただろうけど、自由さを感じた。
やっぱりXやなんかで無関係な第三者が問題発言のその言葉一つを持って集中砲火する現代って、なんか不自由だなと思う。
自分も火を見るのが結構好きなので、応為の火事が好きという気持ちはそれなりに共感できる。
でも、現代だと必要以上に危険視される趣味になるだろうな。
追い剥ぎに合う話も印象的。
冬の寒い時期に必死に追い剥ぎをする男に、特に困った様子もなく衣服を差し出すシーンがなぜか目に焼きついた。
この漫画で北斎や応為、英泉を知るというのはなく、あくまでも画家を生業とした彼らの人間らしいやりとりがメインの漫画だったのだけど、シーンからシーンに映るときの絵画的な表現も印象的だった。
下巻で終わりなのが勿体ない。
Posted by ブクログ
漫画だけれど本棚に入れる。
昔、読んだ気もするが、その頃は響かなかったのだろう、記憶がない。今読むと、これはもうぴたりと心にはまって、味わいもまた格別だった。
お栄と北斎の小説は朝井まかてさんの『眩』 (くらら) で読んでいて、のちに宮崎あおいさんでドラマにもなった。そのお栄は、気の強い、凛としたイメージだった。ここにいるお栄さんはもう少したおやかで、自分の画風に悩んだり、ほのかに恋心を抱いたりもする。結婚していたこともあるらしいが、そのことは描かれておらず、それ以前の話のようだ。
北斎とお栄の他に、歌川派の絵師なのに、なぜか北斎の家に居候している善次郎という男がいる。お栄からはへたくそ呼ばわりされて、絵の腕は今ひとつだが、春画は人気があるようだ。北斎が家に置いているのだから何か見どころがあるのかもしれない。女好きの、この男がいることで物語が膨らむ。ちなみに、お栄からは男と意識されていない。善次郎が拾ってきた犬も同居している。
実在の絵師や、実際にあったエピソードもあるし、北斎以外の、お栄の家族も出てくる。妖怪、怪異を交えたエピソードもある。江戸の暮らしや言葉遣いも忠実で、北斎の長屋の散らかり方もリアル(笑)杉浦日向子さんの描く江戸は基本的には平和で、読んでいて安心感がある。
Posted by ブクログ
江戸の町に雨が降る。
雨の勢いや、漂う匂いや、音まで伝わってくる。
その中、北斎やお栄が生きている。
幽玄の世界との境界を時折越え、それらを絵に表す二人の天才は、世界をどのように捉えていたのだろう。少なくとも論理的に、知的に、とは真逆の、矛盾をそのまま捉えるような生き方だったのではないかと思う。
漫画というものでしか表せないものもある、という当たり前の事を知らせてくれたすごい作品だった。
Posted by ブクログ
とんでもない作品に出会ってしまった。
杉浦日向子というお人は、時代が違えば浮世絵師になっておられたのだろうな。
生き生きとしたお江戸は魅力的だし、明るい逞しさの中に見え隠れする妖しさが、怖いような愛しいような…
Posted by ブクログ
下巻はもっぱら不思議な話が多いなか、お栄が絵について悩んで、男娼を買いに行く話がひときわ面白い。
劣等感とか、どうにもならない諸々とかを描ききっていると思う。
杉浦日向子、安心して「天才」と呼べる天才である。
Posted by ブクログ
浮世絵師、葛飾北斎と娘・お栄、居候の善次郎を通して江戸の人々の生活を描く。
江戸文化や人情がリアルに生き生きと描かれており、自然と自分を江戸の住人に引き込んでくれる。
時に大笑いさせてくれたり、ホロリとさせてくれたり、時代が違うだけで人は変わら無いのかな、と改めて思わされる。
「妖」や「怪」な話も多く印象に残っているのだが、これも今は科学で証明だなんだと色々言えるのだろうが、当時はそういう存在として受け入れるしか無い時代背景が色濃く描かれているものの一つではないかと思う。
Posted by ブクログ
葛飾北斎、その娘のお栄らを主役に据えた、江戸情緒あふれる短編漫画集。
個人的に好きだったものをいくつか挙げてみる。
「番町の生首」(其の一)は、武家の娘の悲恋だが、いかにも実際にあった事件を下敷きにしていそうである。「龍」(其の五)はタッチの異なる絵を組み合わせて、現世と妖しい世界を行ったり来たりする様に目眩がするようだ。「女弟子」(其の八)はスッポンの怪しさと女の妖艶すぎる美しさがもの凄いほど。「四万六千日」(其の十一)は江戸情緒漂う、ちょっといい話である(以上、上巻)。
「女罰」(其の十七)は、かわいらしい怪異譚。「離魂病」(其の二十)は中国の怪談が元である。「美女」(其の二十三)もいかにも中国の怪談を彷彿とさせる。こちらは寂寥感が印象的である。「因果娘」(其の二十四)は美しい娘にとりついて離れないものがある奇妙な話。「山童」(其の三十)は神隠しの話である(以上、下巻)。
中国の怪談や遠野物語、馬琴の伝奇小説を思わせる奇譚もあり、不思議な味わいである。
作者の分身であるようなお栄もよいが、北斎の「食えない親爺」っぷりもよい。
全30話を収めるが、いずれも短編であることもあり、さらに新たな話が加わってもまったく不思議ではない。だからこの作品は未完である、と思ってもよいのかもしれない。
北斎もそして杉浦日向子も、三千世界のどこかで、あやかしたちと渡り合いながら、今でもあれやこれやと絵を描き散らしているのかもしれない。
そう、散れば咲き、散れば咲きする百日紅のように。
Posted by ブクログ
上巻も良い話ばかりだったが個人的に下巻の方が好き。
全部説明しないで読者に想像させる楽しみを残しておいてくれる面白い話ばかり。
一話完結なのでどの話から読んでもいい
映画化もするらしく楽しみ
Posted by ブクログ
「百日紅」下巻。
上巻に引き続き、絵師を取り巻く江戸の生活を描いているが、ちょっと不思議な怪異譚も魅力的。
相変わらず売れない善次郎と、自分に足りないものに苦悩するお栄。売れっ子だが描きたいものを描かせてもらえない国直。若者たちが悩みながらも描き続ける姿がとても鮮烈。
Posted by ブクログ
タイムマシンでこの時代のこの時を覗き見しているような、感覚です。現代で使う「ゆるさ」とはちょっと違う「ゆるさ」がこの時代では流れていた、と感じることのできる希少なマンガです。
最近見た「歌川国芳」の感覚にも通じます。
知るのが遅すぎた・・・。
Posted by ブクログ
107冊目『百日紅(下)』(杉浦日向子 著、1996年12月、筑摩書房)
浮世絵師たちの群像絵巻、ここに完結。86年3月〜88年1月に発表された15作を収録。
夢と現の狭間を揺蕩うような幻想的な短編が並ぶ。同時に人々の生活感も見事に活写されており、本当に江戸の町を覗き見ているような気持ちになる。
クライマックスのない漫画なので、描こうと思えばいくらでも描けたはず。もっと続きを読んでみたかった。
〈いっちゃったよ〉
Posted by ブクログ
上巻に夢枕獏の解説がありその中でタイトルの百日紅の由来があかされている。下巻には解説が無く、何故上巻に解説を掲載されたのか、意味を知った上で下巻を読むとなかなか深い。
Posted by ブクログ
不可思議な出来事も、ときに起こり得るものとしてとらえていたのは、文明開化によって不可思議な出来事がだんだんと消えていった明治時代以前、江戸時代までのことだったのだろう。この本には、そんな江戸時代の雰囲気が充溢している。
Posted by ブクログ
【動機】上巻の続きを読むため
この本を楽しむための知識を深く持ち合わせていないところが惜しいところ。上巻よりもこの巻の方が直接的に絵に関わる話は少ない。妖怪のようなものが関わるお話が多い印象。上下間ともにおもしろく読んだ。
Posted by ブクログ
単行本未収録の話が入っててお得。
むかつく花魁の表情が良い。
栄女といふかお栄ちゃんといふよりアゴ さんの、火事が出たのでそらヨっと駆けてく様が、なんか読む。
Posted by ブクログ
評判通り面白かった。短編集なのがいい。下巻はほとんどが怪異譚であるが、いかにも「江戸」らしい話が多く、違和感なく入ってくる感じ。夜の闇は限りなく暗く、提灯や行灯の明かりは、限りあるもの。聞こえる音は風の音、虫の音。そんな頃なら、こうした話があってもおかしくない。
Posted by ブクログ
これ、主人公は北斎でなく娘だったのか。。。
(今更)
程よい余白があって、また読み返したい。
登場人物についてもっと知ってから読むと、また違った受け取り方ができそう。
ひとつ気になるのは
素晴らしい美人絵を描いてもらって、背景が無いのが寂しいからと足してもらうのだけれど
足してもらって男性が腑抜けた顔で縁側に座っている。
これは満足したのか、逆に足してもらう事によって蛇足となってしまったのか。。。
どちらだろう。。。
他作品も読んでみようか。。。
Posted by ブクログ
学生時代に読んだものを久しぶりに再読。当時はこれぞ時代物という感じの話で、起承転結があまりない作品としか思わなかったのですが、今読むと娘のお栄ちゃんが親の北斎に負けず劣らず才能があり、しかもこじらせ女子な感じが すごくよかった。解説にも紹介されていたけど、お栄の地獄絵の始末を北斎がつける話が好き。
Posted by ブクログ
映画を見て、原作を読んでみたいと思った。
もっと鮮烈な作品かと思ったら、以外と緩かった。
映画は、本当に映像化して最適なものを選んであったことがよく分かった。
どこかとぼけていて、どこか切ない。
光と闇、紙一重で異界と通じている生活空間。
苦しみをさらりとかわして、生きる市井の人々。
江戸情緒ってこういうのもの。
「鉄蔵」「四万六千日」「美女」「心中屋」が特に好き。
Posted by ブクログ
北斎、お栄、英泉(善次郎)、国直ら浮世絵師たちが暮らす江戸で起きる幻想的な事件の数々。
映画「百日紅 Miss HOKUSAI」が良かったので杉浦日向子さんの原作漫画も買ってきた。
浮世絵のような世界観が 不可思議な出来事に現実味を持たせてくれる。
杉浦さんの漫画はもっと読みたいな。
Posted by ブクログ
お猶の話は短かったんですね。
ふつう映画観てから原作読むと、ちょっとイメージ違う、となるのですが、お猶ちゃんのとこは、ちょっと薄ら寒い印象そのままだなぁ、と感心。
お栄ちゃんや善さん、国直たちの着物の着くずれが素敵だなぁ。
また、映画が見たくなってしまったわい。
Posted by ブクログ
<内容>
杉浦さんの本は知っていたが、先に映画を見てしまった。妹のネタはわずか1エピソードだったんだと知る。
北斎とその娘お栄の話。怪談ネタを巧みに練り込んで、上々の作品でした。
Posted by ブクログ
上巻でも書いたとおり、この漫画は文庫になると字が小さすぎて、少しでも暗いところでは、メガネをかけても台詞が読めない! そのため読めるシチュエーションが限られており、下巻も読み進めるのに苦労したが、どうにか読み終えた。何も考えず平積みになっているものをパッと上下巻買ってきたのだが、今後文庫サイズの漫画を買うときは気をつけよう。劇画タッチのアクションものの方が、文庫サイズになると迫力が薄れて良くないように思うが、実はそうでもなく、むしろこのような「静かな漫画」の方が、空気感や物語の間など、文庫になると失われるものが大きいように思う。この辺は映画と正反対で面白い。
内容は面白いが、上巻と比べてもさらに淡々とした描写や物語が多く、しばしば登場する超自然的な題材と相まって、此岸と彼岸の境界に位置しているような印象だ。こうして見ると、映画版はそれなりにドラマチックな脚色と演出をしていたことが分かる。
特に好きなエピソードは、映画でも取り上げられた「色情」「離魂病」「野分」、映画では取り上げられなかった「美女」「仙女」など。映画で最も大きな比重を締めていた北斎の末娘 猶は原作では「野分」にしか登場せず、印象的な雪のシーンは「山童」から拝借していることにホ〜ッと感心した。「色情」は、夢の中で大仏に踏みつぶされる描写が、映画以上にシュールで素晴らしい。「美女」は、上巻の「鬼」と同様、絵(物語)と人間の関係を描いていてたいへん面白い。
本作で初めて杉浦日向子に接し、たいへん気に入ったのだが、調べてみると今はほとんど文庫で出版されている模様。他の作品も読んでみたいが、この字の小ささではなあ…
Posted by ブクログ
上下巻のコミックは、短いお話が何編も
江戸情緒や、江戸っ子の気っぷの良さ
なんとも言えない世界観
小説を読むのと同じくらい時間をかけて読みました
Posted by ブクログ
アゴが恋している初五郎と相合傘。
肩が濡れるだろとぐいっと引き寄せられて、
何の匂い……髪油……?
やたけたな気分で蔭間茶屋へ。
この挿話が好きだ。
お栄はほんとうにいい顔をしている。
Posted by ブクログ
其の十六「火焔」~其の三十「山童」=元のコミックス2巻後半+3巻+α収録。
其の二十「離魂病」以降は初読。
北斎&お栄父娘がメインじゃない話が多くなり、怪談調に。
ちょっと絵の雰囲気が変化した印象。
でも、つるりとして艶めかしく、これもまた好き。
北斎の末娘のエピソード、其の二十八「野分」が切ない。
Posted by ブクログ
八年前(二〇一六)に『YASUJI東京』を読んで以来、杉浦日向子二作品目。『米澤屋書店』に出てきて、ちょうどうちにあったので読んだ。文化文政期の江戸が舞台と知り、大奥→写楽、の流れもあるし、読むなら今だ!と。上下巻。
正直あまりよくわからなかったのだが、読んでしばらく経ってみると、わかるとかわからないとか言うよりは、確かに何かを摂取したという感覚が色濃く残っている。お栄ちゃんの無愛想な表情とか。お政さんも色っぽいけど弟子だし絵師なんだなあとか。北斎の(お栄以外の)息子や娘や、妻や。とぼけた顔して女好きの善次郎や。歌川さんとこの国直とか。火事見物が好きとか。