あらすじ
言論の自由を制限し、戦前の反体制派を弾圧した「稀代の悪法」。これが治安維持法のイメージである。しかし、その実態は十分理解されているだろうか。
本書は政党の役割に注目し、立案から戦後への影響までを再検証する。1925年に治安維持法を成立させたのは、護憲三派の政党内閣だった。なぜ政党は自らを縛りかねない法律を生み、その後の拡大を許したのか。
現代にも通じる、自由と民主主義をめぐる難問に向き合う。
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また読み返したい。護憲三派内閣だからこそ治安維持法が成立したことなど、実証的に論じられる。反共の強さがかえって国家主義運動を押さえきれず、どんどん拡大をゆるしていく過程が詳細に論じられる。注があってすごい。
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同法の成立は、1925. 普通選挙法の施行とともに、共産主義への脅威を背景としていた。すなわち、社会が共産化してしまう懸念があったのだ。当初、若槻礼次郎内閣により、成立する。つまり、民主主義の支持を得た政党内閣が成立させたのだ。法の適応としての効果はまだ当時低かったようである。
1930年代 徐々に取り締まりは強化される。日中戦争、太平洋戦争と、同法は改正を経て、共産主義=国体変革を目指す ことへの取り締まり この考えは、一人歩きを続ける。
法律が、制御を外れてしまう。政党の自殺、とも筆者は述べていた。
現在、破防法への反面教師として、その役割を果たしているという。秘密保護法案が成立した、今、読むべき本として、★5つを上げた。
また著者の中沢俊介は、同世代である。同世代が、これだけの著作を出せること、うらやましくも有り、誇らしくも思う。30代前半は、やはり社会の重要な役割を担うべきであろう。
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こういうものは作らせたら最後。
作った側は自己保存のために「危険」を作り続ける。
作られた過程はよく説明されていて良かった。
如何にして作られないようにするか。
そこは自分で考えろって。
昨日、あのさいとう元彦が兵庫県知事に再選された。
時代の素地は当時と変わっていないように思える。
(終)
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1枚の写真が証拠とされ、共産党再建の為の集まりだとの特高警察
の主張から発生した「横浜事件」。1944年のことだった。
事件は明らかなでっち上げ。しかし、特高警察の過酷な取り調べの
過程で犠牲者も出ている。
戦後、元容疑者の名誉回復の為の再審が行われたが、事件の際の法
律が既に存在しないことから免訴の判決が出た。そうして、2010年になり
実質無罪とも言える刑事補償が決まった。
適用された法律は「治安維持法」。元々は共産主義への警戒から
結社を取り締まる為に生まれたものだった。民主主義・自由主義の
転覆を計るものから、国体を守る為のものだった。
1925年に成立した治安維持法の内容は漠然としていた。いかようにも
解釈出来る。これが後の特高警察の暴走の温床となった。小林多喜二
の虐殺を持ち出すまでもなく、特高警察にとって治安維持法は錦の
御旗だった。
ターゲットは共産党だけではない。新興宗教も次々と弾圧された。
そして、治安維持法を生んだ政党政治は崩壊に向かい、戦時色の
強くなった時代には反戦を唱えただけで適用されるようになる。
本書は治安維持法の誕生と変化の過程、植民地であった台湾・朝鮮で
の適用から戦後のGHQによる人権指令での廃止までを分かりやすく
解説している。
悪法もまた法なりとはいうが、そもそも思想を裁くことには無理がある。
誰が人様の頭の中まで分かるというのか。悪法が法として通用した
時代になんて、もう戻りたくないね。
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治安維持法が「結社」取締法として成立した点、また政党政治と治安維持法の関わりに着目して、治安維持法の立案から戦後への影響までを再検証している。
政党政治の衰退とともに、治安維持法がどんどん膨張していく過程がよくわかった。始まりは節度をもって運用されていた制度も、政党政治のコントロールが効かなくなると暴走していってしまうというのは、現代においても教訓としうる事例のように感じた。
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治安維持法を通して戦前から戦後を描く一冊。
治安維持法の生まれた経緯がわかりやすく解説されており、
日ソ国交樹立と普通選挙が契機として
大きな位置を閉めたとの説明には納得させられる。
その後の改正や運用についての記載はやや骨太に過ぎる感があるが、
内容は非常に丁寧で、各事件についてもしっかりと解説されている。
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治安維持法は「宣伝」取締法ではなく「結社」取締法として成立したとか、「目的遂行罪」を設けた改正案が審議未了で廃案となった後に緊急勅令として枢密院で可決されたとか、地味面白い。
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悪名高い治安維持法の成立から、その拡大的適用、そして廃止に至るまでの歴史的経過を、中心的役割を果たした機関や政治的状況に焦点をあてることで克明に描き出している。本書によれば、治安維持法は加藤高明内閣の下で、共産党を具体的な対象と考え、デモクラシーを破壊しようとする結社に制限を加えようとして制定された。議会では反対意見も強かったが、政党人は成立した以上遵守するのが政党政治の精神だと理解していた。それが、次第に拡大解釈され本来的には共産党員でない人々にまで適用されていった。名前は知っているが、詳細には理解はしていないという歴史的に有名な事象は数多くあるが、治安維持法もその一つだったということに気づかせてくれる著作。戦前日本の政治の内実をより深く理解するためにも役立つだろう。
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中澤さんはぼくより20歳も若い政治学者で、博士論文をまもめた力作。
治安維持法という悪法が、どうして、護憲3党が連立したときにできたか、から切り込んで分析している。
3党が連立することによって、当初の法案から宣伝を規制するなど牙が抜かれていくが、最後に、結社の自由を制限するという観点に絞って治安維持法ができていく。その解釈も厳密と抽象的の間の中庸できまっていく。
現時点で民自公がまとまったような時代だったということか。政党政治は、いままで与野党で争っていた政党が大連立するとたががはずれるいい例だと思う。みなさん、よく記憶しよう。
また、2回目の強化のときは、国会で廃案になったものを一部の枢密院の有力者が勅令で死刑をいれたりした改正案をつくり、あとから国会で承認させている。このような、国会の仕組みを通さないで、国民の権利を制限する歴史を絶対にくりかえしてはいけない。
その他、治安維持法の条文がどんどん拡大解釈されて、天皇制を否定する共産党から最後は、キリスト教団体まで規制するようになる。
現在、条文案を作成するわれわれも、後世において、拡大適用がされないよう、国民の権利義務に関わる部分はきちんと条文上規定しておく必要がある。
きちんとした法律を国民の意見をきちんときいて議会に提案し、成立後は、その法律に従って、きちんと節度をもって運用する、これが最低限の行政府の役目だと再確認した。
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最後に破防法を出してくるのはわかりやすかった。
司法はわりと簡単に暴走するので法に隙間を持たせてはならない。しかしどんなに慎重に検討したとしても隙間はどうしてもできてしまう。だから立法は難しいし歴史に学ぶことは重要
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治安維持法の制定から廃止までの経緯を、内務・司法両省の競合と政党政治との関係に重きを置いて政治史的に分析している。広範な史資料を用いて、治安維持法が逸脱・拡大していく要因を究明しており、特に1928年改正での目的遂行罪の導入を重視している点が注目される。「取り締まる側」からの治維法史といえよう。
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著者が東大に提出した博士論文を基にした一冊。実は、博士論文や助手論文にこそ良い物があるというのは、この業界に詳しい人なら既に常識であるように、この本もとても力の入った一冊。そのことは、参考文献を見るだけでも伺える。また、視点もオリジナリティがあり素晴らしい。しかし、いかんせん文章が読みにくい。また、注釈も参照しにくい。良い題材なのに、ぐいぐいと本の世界に引き込んでいく力に欠ける。というわけで、残念ながら星3つ。
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「悪法」であるという、漠然とした意識しかもたない治安維持法の成立過程、変遷、実際に適用された事例を、丁寧に説明している。特に、治安維持法の成立が、なぜ戦前護憲三派内閣で成立したのかに着目し、内務省と司法省、憲政会と政友会の利害一致に答えを求めた点は、大変興味深かった。
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【75冊目】若き研究者による本。取り締まるべきなのは、言論ではなく暴力の方だったという最後の考察が地味に心に残った。
「復活説」等、当時の法学説の勉強になりました。
それと、共産党(赤化)とテロの脅威が治安維持法を後押ししたみたいだということは勉強になりました。年齢的に、共産党の脅威というのは実感しにくい世代ではあるのだけれども。
治安維持法が拡大の一途を辿っていく過程は興味深く読みました。以前読んだ「許される悪はあるのか」に書いてあった、lesser evilの基準を意識しながらもう一度読みたいです・・・読まないと思うけどww