【感想・ネタバレ】経営学の技法 ふだん使いの三つの思考のレビュー

あらすじ

「なんで経営してないのに、経営のことがわかるんですか?」
経営学者が最もよく聞かれる質問の一つである。

実学として「役に立つ」ことが求められすぎている経営学は
科学的な正しさを求めるがゆえの分かりにくさと
一般社会へ伝えるための分かりやすさとのあいだで
かくも壮大な矛盾を抱えている。

本書では、成果主義、官僚制、科学的管理法など
経営学のなかでも重要とされてきたトピックを扱いながら
あえて、素朴に発せられる質問から出発してみる
という手法で、試行錯誤を繰り返し
現代の新しい経営学の在り方を真摯に問い直す。

「科学は他人を叩く棒でもないし、錦の御旗でもない。
他人ともう少しだけうまくやっていくための道具であり、
もしかしたら社会を良くすることができるかもしれない。
そんな技法のひとつとして、経営学をぜひ使ってみていただきたい。」
(本文終章より)

目次
はじめに 専門家の時代の経営学
第1章 経営学にきいてみる
第2章 成果主義は虚妄だったのか?――条件思考のすすめ
第3章 官僚制は悪なのか?――両面思考のすすめ
第4章 経営科学は役に立つのか?――箴言思考のすすめ
終章 科学と学者の使い方――科学でコミュニケーションする

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「経営学は役に立つか?」という素朴な問いに対し、経営学から抽出できる技法・思考法(条件思考(boundary condition)、両面思考(逆機能)、箴言思考)という観点から役立てるための道筋を提示した一冊。書籍内で参照されている論文や書籍等は何れも馴染み深いものであり、確かに技法という観点で纏めることもできるなと、納得しながら読み進めた。
経営学は、実務との重なりが大きく(また実務家による「しろうと理論」(ネガティブな意味ではない)が蔓延っている)、今すぐ役立つ知見を求められる一方、科学に対して真摯に向き合えば向き合う程、強い言葉を使えないという難しさがあることは、他の書籍でも言及されている通り、もはや研究者の共通認識であると認識。本書はその難しさに対して、橋を架けるような取組みの一環であり、経営学は使い方次第では実務家に役立つものと信じている自身のスタンスと近しいものを感じた。
現時点の自分が、実務家に対して経営学の生かし方を説明するのであれば、【(実務家が言語化・認識できていない)現象メカニズムの参照】【(研究潮流を俯瞰した上での)トレンドと社会背景の関係性理解】あたりがキーワードとなるかな・・・等を考えながら読み進めた。

以下、印象に残った箇所を引用
・で、経営学って何なの?と問われると非常に難しいのだけど、経営学を定義するなら「経営に関する学問」となるだろう。ある方の比喩を借りると「小児科」である(p.33)
・歴史的にみても、著名な学者たちが既に官僚制批判を展開している。代表格が、社会学者ロバート・マートンによる「逆機能」の提唱である。つまり官僚制は、機能をもつが「逆」機能も働く(注釈)たとえば規則を遵守することは目的達成のための手段である。しかし構成員は次第に規則を遵守すること自体が目的化し、手段の実行に価値を置くようになる(p.127)
・4つの合理性(p.136)
 - 目的合理性:目的のために合理的であるか
 - 価値合理性:価値観に対して合理的であるか
 - 形式合理性:目的を達成するために効率的な手段であるか→特に、計算可能であるか
 - 実質合理性:理性に照らし合わせて合理的であるか
・行為システム論の骨子はまず、ある意思決定から導かれる結果は、良い面も悪い面ももたらしうる両面的なものだ、ということが挙げられる。ある原因は単一の結果しか生まないわけではなく、複数の結果を生む。そしてその因果は連鎖していく。連鎖が重なると、すべてを予想することはできなくなってくるので、どこかで「意図せざる結果」を生む。そういった連鎖のかたまりを「システム」とよぶ(p.159)
・つまり批判とは、相手の主張をしっかり理解しないと成立しないし、そして主張に内在する問題について指摘されるべきなのだ(p.186)
・ところで、次の言いぐさをどう思うだろうか。「客観的に見て美しい」。美しく思うというのはかなり主観な気がするけど、それが客観的だとしたら、つまり客観とは「共同主観」なのではないだろうか。もしこのフレーズに違和感をもたなかったとして、では客観とは何だろうか。何をすれば、「主観ではなく客観」なのだろうか(p.206)

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2024年12月20日

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