【感想・ネタバレ】入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才のレビュー

あらすじ

(『入門 シュンペーター』「はじめに――シュンペーターのここがスゴい!」より抜粋、一部改変)「創造的破壊」という言葉を聞いたことはありませんか。「創造的破壊」というのは、例えばスマホがガラケーを駆逐したように、新しい製品や組織が生まれて旧い製品や組織を打ち負かすという、イノベーションの姿を表したものです。この言葉を広めたのは、ジョセフ・アロイス・シュンペーターです(「ヨーゼフ・アロイス・シュムペーター」とも表記されますが、本書では、英語読みにならって「ジョセフ・アロイス・シュンペーター」と表記します)。シュンペーターは、今日もなお、イノベーションの理論家として、大変人気の高い経済学者です。もっとも、シュンペーターの著作は、およそ80年から100年も前に書かれたものです。「そんな昔の経済学者によるイノベーションの理論を学んでも、現代の世界では役に立つはずもない」と思われるかもしれません。しかしそれは、全く違います。例えば、社会学者のフレッド・ブロックは、2017年の論文‘Secular stagnation and creative destruction:Reading Robert Gordon through a Schumpeterian lens’の冒頭で、次のように書いています。「七十五年後に、シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』に立ち戻ること は、骨董いじりなどではまったくない。その反対に、現代の我々が置かれた政治経済状況を理解しようとする者にとっては、決定的に重要なことである」ちなみにこのブロックという人は、2013年に、『ニュー・リパブリック』誌の「イノベーションに関する最も重要な三人の思想家」にも選ばれた研究者です。シュンペーターの古典的著作は、現代のイノベーション研究の最先端を走る研究者たちに、今もなおインスピレーションを与え続けているのです。そこで本書は、このシュンペーターの主な著作について、初心者でも分かるように平易に解説します。ただし、シュンペーターの著作の解説だけではなく、シュンペーターの影響を受けた現代の理論についても紹介していきます。そうすることで、シュンペーターの理論が、今日の資本主義の本質を理解する上でも極めて有効だということを明らかにします。そして、日本経済が長い停滞に陥り、日本企業がイノベーションを起こせなくなった理由についても、はっきりすることでしょう。その理由は「シュンペーターの理論とは正反対のことをやり続けたから」です。これに尽きます。ですから、今こそシュンペーターを学ぶ必要があるのです。

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Posted by ブクログ

今年読んだ中では一番かもしれない。これほど短く要点をついてシュンペーターをまとめてある本はないのではないか。イノベーションに関する研究者の1人として学ばされることの多すぎる本であり、シュンペーターについてきちんと勉強して来なかった自分を恥じた。

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2025年08月01日

Posted by ブクログ

シュンペーターの思想を解説した入門書。
解説が分かりやすいだけでなく、フレッド・ブロックやウィアリアム・ラゾニック、マリアナ・マッツカートなど現代の思想家への影響力を示すことで、「古い=役に立たない」という偏見を否定するなど、構成も考え抜かれている。
資本主義の自壊的な死を予言したシュンペーターは間違いなく天才だが、その思想を平易な言葉で解説する中野氏の能力も驚嘆に値する。
日本の衰退を招いた主流派の経済学者たちではなく、中野氏のような人物に所得倍増計画を主導した下村治氏の役割を担ってもらうことはできないのだろうか・・・。

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2025年07月30日

Posted by ブクログ

確たる解答が存在するのかは於いておくとしても、現行の資本主義経済の是非に疑問を持ち、なんとはなく非主流派経済学の議論などを読み漁っている身からすると興味の尽きない議論が続く。
ひとまず理解を深めるべく、本著の再読やシュンペーターの著作をあたりたいところだが、一般的な理解とシュンペーター理論との乖離という点では、骨太の方針における創造的破壊の誤用問題などは最たる例か。著者の解釈を一方的に信奉するつもりはないが、思考を練り上げるという過程で考える題材として非常に面白いと思う。

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2025年06月28日

Posted by ブクログ

日本論として読めました。少し俗っぽく断言しているのも、キャッチーにポジションを取っていると解釈され、特定のカラーを押し付けているとまでは言えないという感じに、洗脳されると思います。ごちそうさまでした。

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2025年06月23日

Posted by ブクログ

シュンペーターは経済学史において独自の位置を占めており、フリードマンやハイエクに代表される自由市場・新古典派的ないわゆる「右派」と、ケインズやサミュエルソンに代表される政府介入・総需要管理的な「左派」のいずれにも完全には収まらない、ユニークな存在だ。

〝創造的破壊“みたいな厨二病をくすぐる、強いインパクトの言葉が象徴するが、どのアプローチでもいずれ膠着していくはずの経済活動を動的なものにするのが、日々の努力が生むイノベーションである。

本書はそんな基礎的な部分から解説されるが、何だか必要以上に分かりやすく、しかもシュンペーター以上の主張が濁り、それがまた面白いのだが、それは著者が中野剛志だからだ。この人の論理に異論はないが、言説が必ずMMT理論に吸い寄せられていく。本書も例外ではない。

ー 「静態的」な経済とは、経済発展が起きない経済のことです。これに対して、「動態的」な経済とは、経済発展が起きる経済のことです。ただし、前者の、経済発展が起きない「静態的」な経済システムというのは、静止した状態にあるということではない、とシュンペーターは注意を促しています。動きがないのではなく、生産や売買などの動きはあるけれど、既存の商品やサービスが取引を通じて経済システムの中を循環しているだけで、新しい商品やサービスが生み出されて経済社会変化するようなことがない。このように、自ら変化することがない経済が「静態的」なのです。ですから、仮に、何らかの理由で人口が持続的に増加して、そのことで経済の規模が大きくなったとしても、経済システムの性格が変化していない限り、それは「経済発展」とは言いません。単に「静態的」な経済が大きくなっただけです。シュンペーターは、まずは「静態的」な経済とは何かを明らかにし、次に、それとの比較で、経済発展が起きる「動態的」な経済について論じました。

ー もし「企業者」のような人間がいると、主流派経済学が想定するような市場均衝は達成されません。むしろ、「企業者」は、市場の均衡をぶち壊してしまう存在です。ですが、市場均衡から逸脱した動きこそが、経済発展というものです。したがって、もし、主流派経済学がイノベーションを理論に導入しようとしたら、まずは「経済人」の前提や市場均衡理論を放棄しなければならないはずです。

ー ちなみに、ほとんど知られていませんが、シュンペーターは、不況において生き残るのは、新しい企業よりもむしろ、古い企業になると指摘しています。なぜなら、古い企業の方が内部資金がより潤沢にあるし、銀行との長年の取引関係もあるので、不況のショックに対する耐性がより強いからです。これに対して、新しい企業は、はるかに簡単に破産に至ります。

ー 一般に、イノベーションを起こしたければ、市場への参入者を増やして競争を促進した方がよいと考えられています。ところが、シュンペーターの理論は、その反対でした。競争を制限する独占企業の方がイノベーションに向いているというのです。このようなシュンペーターの理論は、どうしても受け入れがたいという人もいるでしょう。

この辺の内容が興味深い。ルーチンで苦労している社員、そのルーチンが「整っているか」で評価し合う企業がある一方で、それに収まらぬ優秀な社員や企業がある。だが、それは大企業に有利な傾向がある。また、イノベーションは市場任せにせず、国の補助が有効だという話だ。iPhoneを生み出したステイーブ・ジョブズですら、政府の支援を得ていたアメリカの産業政策の産物だと中野は言うのだ。

予算の時期だとか、恒例イベントの時期だとか、挨拶まわりだとか、そんな変わらぬルーチンに対して忙しい忙しいと働く事は、イノベーションにはならない。その資料準備や人対人への説明に時間が費やされていく。その世界の優秀さと、異なる世界の優秀さを見出し、国が支援していかねば。

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2025年05月25日

Posted by ブクログ

やー、エキサイティングで面白い。
読後、脳が活性化して清々しい。
まあしかし、そうも言ってられない世の中…。
もう革命を起こすっきゃねえな。

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2025年04月09日

Posted by ブクログ

イノベーションが起こる論理が非常にわかりやすくまとまっている。
シュンペーター入門と言いつつ、現在に至るまでの日本と世界の経済を俯瞰した良書。
新自由主義による自由化、民営化の先にある社会主義的国家施策(イデオロギーは別問題と捉えて、)大きな政府の存在が生まれるのを望むばかり。

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2025年03月02日

Posted by ブクログ

資本主義が発展し、人々に合理主義的な精神が蔓延すると、短期的な視点で物事を考えてしまう傾向になり、資本主義が発展していくために必要な長期的視点での投資が難しくなる。資本主義は成功するが、成功するが故に崩壊するだろうという言説が興味深く感じた。

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2025年06月06日

Posted by ブクログ

米国も新規の開業率は低減傾向。すぐに儲からなければ生き残れない。起業は平凡な業種で起すもの。イノベーションなど担えない。その役割は現存の大企業が行うものだが、株主資本主義が進み、資金が投資家に流れる。短期的視野の快楽主義が投資を阻み、大企業もその役割を果たせない。革新的なiPhoneが生まれたのも、政府の支援があってこそ。公共の役割が民間よりも大きい。資本主義は成功するから社会主義になる。それは自然な流れで思想ではない。…日本の失われた30年は、20世紀前半のこの偉大な経済学者の理論の正反対を行った結果。


自由主義経済をある程度続ければ、民間でできることはやりつくされる。それでも人々が満ち足りることはない。残りは、公共セクターでしかできなことになる。資本主義が行き着けば、公共の役割が増え、次第に社会主義になっていく。自然に考えればその展開を想像できるはずなのに、「公共事業は無駄だ」「支援を求めるより自己責任でなんとかしろ」「民間の方が活力がある、何でも民営化しろ」「サヨクは共産主義だから嫌い」という感情論に民衆が支配されたことが、現在の日本の低迷を招いている。他ならぬ国民が負わなければならぬ責任である。

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2025年02月02日

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アメリカのしたたかさを改めて思い知らされた。新自由主義を標榜しながら政府資金で確かにずっと研究開発してる。それが経済成長を生んでいる。日本はなぜ国の投資が失敗してばかりなのだろう。MMT的に財源気にせず必要な投資をすべきだと思う。投資にふさわしいサステナビリティに貢献できる技術が日本にはたくさんある
資本主義は合理的な判断を積み重ねた結果、社会主義になっていくというのもおもしろい。長期投資的なことは避ける。公的な価値に資源の軸足は移っていく。

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2025年01月31日

Posted by ブクログ

ネタバレ

市場均衡理論を基礎とする経済学は、イノベーションが起きない定常状態を想定している。ワルラスの世界では、経済は戦争など外部要因でのみ変化する、と想定している。
イノベーションを起こす人間は、合理的な決定をする経済人ではなく、やむにやまれぬ行動力で経済の均衡をぶち壊す人。
構造改革は、自由競争によって経済は成長する、という考え=市場原理主義、新自由主義。均衡理論では、経済の成長を考察できないはず。
均衡理論では利潤はない=資本はたまらない。
信用創造は銀行しかできない。貸出のもとになっているのは今や預金ではない。銀行は貸出をする=信用創造することで、お金を作り出せる。

資本主義の三要件
生産手段の私有、利益と損失の自己責任、銀行による信用創造=商業社会と資本主義を区別する要素。
信用創造は、一時的にインフレを引き起こす(信用創造によるカネで物不足になる)。生産が増えるとデフレになるのでインフレは解消する。信用インフレと信用デフレ。
信用インフレ以外のインフレ=人手不足、戦争、石油ショックなど。
量的緩和が効かなかったのは、銀行の貸出が増えなかったから=信用創造がなかったから。
貨幣循環理論=民間銀行の貸出によって預金が創造される。企業の資金需要がなくなれば信用創造が機能不全になる。政府支出の財源は税金ではない。
p100

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2025年01月22日

Posted by ブクログ

中央銀行が貸付をする事で貨幣が市場に流れる、というのはこれまでの私の認識と全く逆であり、かなり驚いた。はじめに財源があって貸付が可能と思っていたからである。とすると現状の日本の政策はほぼ全て貨幣の流通を減らす動きであり、経済成長が低水準であることも頷ける。まだ、経験的に本書の主張が腹落ちしていないので評価は星4としたが、自分の価値観の一部を揺るがした本であることは間違いない。

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2025年01月03日

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