あらすじ
ニューヨークで、運転手から実力で大金持ちとなった伝説の男・東太郎の過去を、祐介は偶然知ることとなる。伯父の継子として大陸から引き上げてきた太郎の、隣家の恵まれた娘・よう子への思慕。その幼い恋が、その後何十年にもわたって、没落していくある一族を呪縛していくとは。まだ優雅な階級社会が残っていた昭和の軽井沢を舞台に、陰翳豊かに展開する、大ロマンの行方は。
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Posted by ブクログ
傑作とも言える。軽井沢を舞台にしたのは、『嵐が丘』とは雰囲気違うが、そこも狙いだろう。骨太に人間模様が描かれ、語られる。長さを感じさせないのも著者の腕による。
Posted by ブクログ
先生始め、藤野ゼミのみなさんが大好きな本作、やっと自分も読み始めました。
作者水村氏の200ページ超にわたる自分語り「本格小説の始まる前の長い長い話」。
本当に長いが、その語りが本編でここまで膨らむことになるとは。
「これから先に自分の人生のすべてがあると信じていられた年齢であった。日本の人にかこまれ、日本語で話していられるというだけでハイスクールの建物の中に閉じこめられているときとは別人になったような生き生きとした心地がしたが、皆の中に溶けこみたいとは思わなかった。私からすれば彼らはもう人生の道筋のついた大人であり、しかも「本社」「チョンガー」「出張」などという言葉の世界に充足している大人であった。それに引き替えまだ人生の道筋がついていない分、私には無限の可能性が開かれているように思えた。彼らの存在の恵みを初夏の太陽の恵みのように浴びながらも、一人きりになりたかった。」(88)
Posted by ブクログ
久しぶりに日本の小説を読んで、なんて読みやすいんだろうと驚いた。ちょっと古めかしい言葉使いなのが凄く綺麗で、秋風が立ち、とかバタ臭い、とか忘れかけていた響きに酔いしれて、すいすい読めた。
冒頭の160ページもある「本格小説の始まる前の長い長い話」というのがどこまで本当なのか、実話仕立てで思わせぶりな本当に長い長いフリだが、なんて面白い設定なのか、すっかりその罠にハマってしまった。
そのあとからようやく始まる本格小説は、思わせぶりにフッた東太郎の出番がなかなかなく、早く先が読みたい一心で余計に長く感じて遅々として読み進まず。
それと、読めない字があった。「嫂」。話の流れから考えると当然なのにどうしても出てこなかった。調べると「アニヨメ」だった。
所々、見たことのない字面が出てくるが、それも美しく感じて心地よい。
それと、トミコが心に思うことで「…そのとたんに昔の自分へとすうっと道が通るような気がします。同時に今の自分がこうまでちがうものになってしまったことを痛いほど感じるのです」というところを思わず二度読みしてしまった。歳のせいか。
三婆さんが集まったシーンは会話がとても面白く、ほかの登場人物達の雰囲気もよく出ている上に舞台が日本だけにリアルに情景が思い浮かぶ。
とにかく、東太郎のことがとっても気になって仕方がない。ミステリアスな男の話。ある意味、本格ミステリー。
読む前から下巻は絶対に面白いってわかる。
Posted by ブクログ
* 2008年01月04日 04:32記載:
友人に薦められて読んだ本。
ちゃんとした長編小説を読んだのはおそらく
初めてじゃないかって感じで、自分の読書スピード
が相当遅いことに辟易しながらも後半は一気に
最後まで読みました。
これからは読書家と言われるようにがんばりたいです。
ちなみに著者はかの著名な経済学の権威、岩井克人
の妻でもあります。
何人かの登場人物が背負う運命はあまりに悲しく
不幸であり、読み終わってから一途な愛情を
美徳とすることに対して抵抗を覚えるような
苦々しさが胸に残りました。
ある女性が言います。
「愛されないっていうのはとても不幸なことだと思う」と。
しかし愛する人に愛されないことはは往々にして
あるのが世の常であり、ほとんどの人が直面するで
あろう不幸であると思います。そんな運命も甘んじて
受け入れていかなければ前には進めないのだと
改めて実感してちょっと悲しくなったり。
また、小説の終盤に男が日本人を批判的に表して
言った、
「軽薄を通り越して希薄ですね」
という台詞が何となく自分あてはまっている
気がしてはっとする思いでした。
いろいろ考えさせられました。
余韻に浸りたいときにいかがでしょうか。