【感想・ネタバレ】ほんのささやかなことのレビュー

あらすじ

1985年、アイルランドの小さな町。寒さが厳しくなり石炭の販売に忙しいビル・ファーロングは、町が見て見ぬふりをしていた女子修道院の〝秘密″を目撃し――優しく静謐な文体で多くの読者に愛される現代アイルランド文学の旗手が贈る、史実に基づいた傑作中篇

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Posted by ブクログ

ネタバレ

ファーロングは真っ当な普通の人だ。妻と娘たちを愛し、妻を尊敬し、借金をせず、よく働き、親切にされれば感謝し、可哀想なものを見れば心を痛めて手を伸ばす。彼の行動には、屈折した人物のような心理的説明がほとんど要らない。こんな「ちゃんとした人」を主人公とした小説を読むことは久しぶりだ。

街の人々が噂として知りながら目を背けていた修道院の洗濯場について、ファーロングはその実態を見てしまう。一度知った後も以前と同じ顔で生活することができず、最後にはセァラを連れ出す。それが善い行為であることは疑えない。誰かが「これはおかしい」と認識して動かなければ、現実に存在した洗濯場もなくならなかっただろう。ファーロングは立派だと思う。同時に、このことを手放しで「偉い、素晴らしい」と称賛するには、あまりに危ういと感じる。

セァラを救うために彼が賭けたのは、自分の生活だけではない。アイリーンと娘たちの生活まで、相談なく危険にさらしている。私がアイリーンなら、少女を追い返せとは言えなくても、夫には断じてこんなことをしてほしくないと思うだろう。
セァラと歩くファーロングは、自分の最良の部分が輝き出したような、これまでにない幸福感を味わう。信じていることと実際の行動が一致し、善きものと同化したような高揚だろう。代償を払うと覚悟しているが、その請求は家族にも届く。小説は、彼が最も美しく、まだ現実の代金を一円も払っていない瞬間で終わる。

ファーロングは、たまたま知り、できないとは言い切れず、自分で選んでしまった人であり、それが立派だと思う以上に気の毒だ。他人事にする能力を持たない人には、世界が勝手に仕事を割り当ててくる。善良さは美徳だが、ときにその人へだけ高い代償を支払わせる。

評価は4.5。静かな希望の物語というより、善い人が善いままでいることに伴う危険を描いた小説として読んだ。

余談。訳者後書きで『クリスマス・キャロル』に準えられることもある、と紹介されているが、読みながらそれを感じた。ファーロングは3度修道女会を訪れる。クリスマスキャロルのように整然と過去・現在・未来とはなっていないが、これまでの噂の真相を知り、現在の苦痛を見て、娘の未来を案じるところは重なる。3度目に訪れた後、町の人から奇異な目で見られるところも重なる。幼い彼に『クリスマス・キャロル』を与えたのがウィルソン夫人なのも重要だと思う。彼女はファーロングに実際の庇護を与え、そのうえ、他人の不幸を想像するための物語まで与えた。ファーロングは大人になって、かつて受け取った二つをセァラへ渡し直す。そう考えると、あの本は単なる伏線ではなく、ウィルソン夫人の行為が彼の内部で長年かけて言葉になり、ついに行動へ戻るための装置なのだろう。

『クリスマス・キャロル』に似ていると感じるものの、スクルージは富を配って共同体へ再統合されるが、ファーロングは善を行うことで共同体から排除されかねない。奇跡の後に幸福が保証されない、厳しい『クリスマス・キャロル』である。

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2026年08月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

SL 2026.4.15-2026.4.16
1985年のアイルランド、クリスマスの時季の中篇。カトリック修道院での信じられないほどの人権侵害。しかも政府はそれを容認。
アイルランドに実在のマグダレン洗濯所をモデルにしているとのこと。
こんな非人間的なことが1996年まで現実として行われていたのかと驚くと同時に、大きな権力の前には倫理などどうにでもなってしまうんだという諦観もある。それは21世紀の今でも人知れず世界のどこかにはあるのではないかと。

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2026年04月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

全く前情報なく読み、いろんなことを巻末で知る事になった。作者が描きたかったことを、そういう視点で、その角度から書くなんて、すごい。

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2026年07月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

マグダレン修道院が舞台の映画、「決断のとき」を見て原作を読んでみた。映画ではっきり語られていなかったことが語られていたし、原作ではわかりにくい所が映画では可視化されていた。ファーロングの母がネッドと結婚していればファーロングの過去の問題は解決したのでは?と思った。
修道院で起こったことは宗教を使った虐待と人権侵害なんだけど、これがつい最近まで隠されていたことに驚愕。

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2026年04月16日

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