あらすじ
NumberWebで2000万PV超の人気連載
40歳落合博満のFA移籍は事件だった。巨人にとって落合がいた3年間とは何だったのか? なぜ巨人・落合監督は誕生しなかったか?
【単行本オビより】
徹底検証ノンフィクション
40歳落合博満は誰と戦っていたのか?
40歳落合「巨人はこんなに練習しないのか…」vs. 巨人OB「早く落合をクビにしろ!」「4億円の値打ちない」
あれから30年――。巨人にとって落合がいた、あの3年間とは何だったのか? なぜ「巨人・落合監督」は誕生しなかったのか?
vs. ライバル原辰徳
vs. 松井秀喜「不仲説」
vs. 清原和博「FA移籍騒動」
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
中日の監督を引退してからはすでに10年以上が経ち、その後に務めたGM退任からも5年以上が経とうとしているのに、落合博満という野球人はノンフィクションの題材であり続けているようだ。
彼が監督を辞めてから一度も優勝していないこと、特に落合時代にレギュラーを剥奪された立浪が監督だった直近3年間はすべて最下位だったこともあり、監督時代の彼に注目が当たるのはわかる。ところが、本作はその落合が中日を出てから3年間在籍した巨人時代を描こうというのだ。巨人時代の落合といえば、すでに40歳を超えていたにもかかわらず、初のFA選手として巨人に加入して優勝の立役者になったというイメージがある。すでに衰えが見え始めてもおかしくない年なのに、相変わらずバットマンとしては一流だった彼は、同時に、口うるさい巨人のOBたちから常に批判を受けていた。
そんな「巨人での」落合博満を描こうとしたのは、『プロ野球死亡遊戯』でノンフィクションライターとして著名となった中溝さん。『プロ野球死亡遊戯』は、彼のあふれる巨人への愛がほとばしるようなブログで、私自身もまだ彼がプロになる前からよく読んでいたサイトの1つだ。普通のノンフィクションライターやルポライターというのは、ネタ切れを恐れてカバー範囲を広げていくものだが、今のところ彼は未だに巨人を中心に書き続けているようだ。そのマニアックな視点とあふれる愛は、ある意味ではノンフィクションライターの1つの理想形と言えるかもしれない。
その彼が巨人の落合を描くにあたってとった手法が、徹底的に過去の記事を読み漁るというものだった。ノンフィクションを通常書くときには、ライターが自分で取材をしたり、あるいは一次情報に当たったりして、他の人がまだ見つけていない情報をもとに書くことが多い。ライターにとってはオリジナリティーは非常に重要だし、わざわざ書くのであれば、新しい情報を付け加えることに意味があるからだ。
ところが、本作の場合は、著者は自分で取材をしたり、あるいは一次情報を探しに行ったりといったことはほぼしていない。その代わりに彼がしたことは、当時の落合のことを報道した週刊誌や新聞を徹底的に洗い直すことだった。言ってみれば、彼は当時のメディアのあふれる情報を再構成して、落合博満という人間像を描き直したのだ。もちろんそれは、彼が巨人をずっと見続けてきて、頭の中に確固としたストーリーがあるからこそできたことだろう。
そして、その彼が浮かび上がらせる落合像は、一般的に言われている「俺流」ではなく、長嶋茂雄という1人の野球人に憧れ続けた1人の男であり、周囲への気遣いをした上で、なお自分の主張を貫く孤独な人間だった。彼が、実は常に熱い人間であることは『嫌われた監督』を読んだ人はすでに知っているだろうし、最近のYouTubeを観ていれば、彼が本当は温かな人間であったことも知っているはずだ。それでも当時、そのような情報が流れなかったのは、本書でも触れられているように、OBたちのやっかみがあまりにもひどかったということと、当時のメディア人たちが売れるために戦略的に落合を叩いたということだろう。もちろん、メディアに対して積極的に対応しなかった落合にも原因があるとは言える。
また、本作は『落合博満と巨人軍との戦い』というタイトルとなっているだけあって、当時のジャイアンツに在籍していた原や松井、長嶋や清原といった様々な人間を同時に描く群像劇のような形になっている。その中心にあるのは、巨大な重力を持った落合という人間ではあるが、原のように彼と距離を取ろうとして、引退まで追い詰められてしまう男もいれば、同じように、才能を持ち続けているがゆえに適切に距離を取ることができた松井という存在も出てくる。
その中で、やはり人間ドラマとしてひときわ輝くのは、落合という人間が長嶋に憧れているがゆえに巨人に入団し、そしてその落合を慕っていた清原が巨人に入ってくるがゆえに、落合が巨人を去ることになるという流れだろう。まるでこのように書くと因果応報のように聞こえてしまうかもしれないが、実力と人情が複雑に絡み合うプロの世界では、こういったことは落合の例だけではなく、他にもあったのだろう。そもそも、ベテランに憧れて成長してきた若手が、ベテランを引退に追い込むのがプロスポーツの世界なのだから。
本書を読むと、日本ではJリーグやBリーグのようにプロスポーツが根付いたとはいえ、書き手側としては、まだ圧倒的に野球を題材にした方が面白いのだろうと思う。本書のような吸引力のあるノンフィクションが、他のスポーツでももっとたくさん出てくるようになれば、日本のスポーツはもっともっと面白くなるだろう。
Posted by ブクログ
50年来の巨人ファンです。
落合が移籍してきた頃から数年間はファンとしても複雑な思いを抱きながら応援していたのを思い出しました。球団にお金があるだけに極端な方向に行ってしまった感が否めませんでした。
落合も偉大な選手ではあると思うし今作品で彼の努力や悩みも分かり、興味深く読めました。