あらすじ
廃止予定の宇宙停留所には家族の星へ帰るため長年出航を待つ老婆がいた……少数者に寄り添う心温まる未来を描く短篇集、文庫化!
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Posted by ブクログ
SFでありながら、読み終えた後に胸に残ったのは不思議な「ノスタルジー」だった。
技術が光の速さで発展しても、誰かを思う人間心理や、ままならない人間関係そのものは変わらない。著者のその丁寧な眼差しが、未来の物語に温かさを与えているのだと感じた。
特に印象に残ったのは、表題作『わたしたちが光の速さで進めないなら』。
新しい技術の発見によって、家族との関係が引き裂かれてしまう理不尽さ。それが宇宙レベルにまで広がる「怖さ」と、それでもそこで待ち続ける「静けさ」に胸を打たれた。
また『スペクトラム』では、色彩言語や個体の入れ替わりといった、自分の想像の範疇にはない異星人の生態に最初は不気味さすら感じた。しかし、主人公が最後まで彼らの居場所を明かさなかった結末に、相手の世界を壊したくないという深い「愛」を感じた。
『館内紛失』や『共生仮説』など、私たちが常識だと思っている母性や記憶のあり方を問い直す視点も面白く、静かに熱く心に残る一冊だった。
Posted by ブクログ
SF系の短編集の中で最高傑作かもしれない。
SF的な世界観と退廃的な雰囲気や少しディストピア的な要素の中に、愛や優しさというものがここぞとばかりに詰まっている。
この世界観とテーマの親和性が素敵で、読後に胸に温かさが残る素敵な物語ばかりだった。
Posted by ブクログ
「巡礼者たちはなぜ帰らない」の中での、出産に際してのリリーの葛藤、「自身の人生を呪っても自身の存在を呪うことはできなかった」という一文が印象に残った。
ありのままで存在すること肯定する、ということは大切だと理解できるが、現実では困難を伴う。それでもそれを乗り越えて成長したい、という主人公の強い決意に勇気づけられた。
Posted by ブクログ
初めてSF小説を読んだが、未来技術が多く登場するため想像するのが難しかった。別世界を描いているように思えた。しかし読み進めるうちに、それらは決して遠い世界の話ではなく、現代の人々が抱える問題について深く考えさせられた。
「共生仮説」というテーマでは、人間性は他の惑星から来た存在が脳に共生し、働きかけた結果生まれ、7歳を境に幼少期の記憶を失うのは“彼ら”が脳を去るからだという発想には驚き、本当にそうなのかもしれないと思った。
また、「物性」というテーマも印象に残った。電子書籍やデジタルデータが普及しても紙の本を欲しがる人、コンサートのチケットを捨てずに取っておく人、そうした行動は物が持つ存在感に惹きつけられるからだという指摘には共感した。自分もアニメで推しキャラができたとき、理屈では不要と分かっていてもグッズを欲しくなる経験があり、物そのものの力に抗えない自分を再認識した。
全体を通して、キム・チョヨプさんの物語は「人間の悩みや葛藤は、舞台が地球であっても宇宙であっても本質的には変わらない」ことを教えてくれた。未来を描きながら、現代の私たち自身を映し出すSF小説の魅力を初めて実感できた。次の作品も楽しみ。