あらすじ
乳幼児は驚異的な「学ぶ力」で言語を習得できる.しかし学校では多くの子どもたちが学力不振に陥り,学ぶ意欲を失ってしまう.なぜ子どもたちはもともと持っている「学ぶ力」を,学校で発揮できないのか.「生きた知識」を身につけるにはどうしたらよいのか.躓きの原因を認知科学が明らかにして,回復への希望をひらく.
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Posted by ブクログ
記号接地の大切さは分かった。
ってか分かってました。
それを記号接地ということは、初めて知った。
勘のいい先生なら何となく分かると思う。
言葉は車輪のようなものなんだろう。
地面についていないと進まない。
空中で回っているようじゃだめなんだ。
使えて初めて役に立つ。
スキーマの間違いは、経験の豊富な先生なら意識して授業していることだろう。それを正そうと工夫して話しているだろう。
「繰り返しやれば、できるようになる」は間違い、には心から賛同。繰り返しやらせる無意味さは経験すれば分かる。
でもなー、
そのために遊ぶのか…。
んー、むずい。
たぶん何でもかんでも遊べばよいのではないに違いない。科学的にちゃんと裏付けのある遊びだ。
分かるんだよなー。遊ぶと覚えんだよ。それは感覚としても分かる。身に付いていることって、「お勉強」したことより遊んだことなんだよな。
むずかしいなー。
何が難しいって、このことを正確に理解して実行できる人がいないと思われること。理解が不正確だったり、あるいは都合のよいところだけを取り上げるような教育になるだろう。教育改革が行われる度に繰り返される歴史だ。
赤ちゃんは学ぶ本能をもっているのに、なぜ子供は学ぶ意欲をなくしてしまうのか、よく分かった。分からない勉強をひたすら強いるのは虐待だと思っている。
これを何とかしなくてはならない。学校が、社会が解決するために不断の努力をしなければならない、一つの答えのない問いだ。
Posted by ブクログ
教育の本質を改めて問い直す一冊でした。認知心理学の知見をもとに、「学力とは何か」「学びとはどうあるべきか」という根源的な問いに対して、明快かつ実践的な視点を提示しています。
本書の中で特に印象的だったのは、「すべての子どもに同じように効く普遍的な方法は存在しないし、存在するべきでもない」という言葉です。教育現場では、特定の実践方法に頼りがちですが、それらはあくまで手段の一つに過ぎません。教師には、目の前の子どもに合わせて方法を柔軟に調整する力が求められます。どんな教育技術であっても、誰かの言葉を鵜呑みにするのではなく、自分自身の判断でチューニングして活用することが大切だと感じました。
また、「わからない問題を繰り返し解かせることが、理解につながるとは限らない」という指摘には、深く考えさせられました。むしろそのような指導が、学習への嫌悪感を生む可能性があるという点は、日々の授業を振り返る上で重要な視点です。漢字や計算などで、無意識に繰り返しを強いてしまっている自分に気づかされました。
さらに、「教育者の役割は、知識を伝えることではなく、子どもが知識を創造できるように導くことだ」という主張には、大きな共感を覚えました。学習内容を生活経験や他教科と結びつけることで、知識のネットワークを広げる指導が求められます。自分の実践を振り返ると、まだ十分にその視点が取り入れられていないと感じました。今後は、教科横断的な単元改革や指導計画の見直しに取り組みたいと考えています。
また、子どもがつまずく原因として「思考力」そのものよりも、「思考の制御」に関わる認知負荷の問題が大きいという指摘も新鮮でした。授業では「わかりやすく教える」ことに意識が向きがちですが、子どもが「自分で学べる」ようになるための工夫こそが重要です。
分数の理解に関する記述では、計算はできても量的な直感が伴わない中学生のふるまいが、生成AIの挙動に似ているという指摘が非常に興味深く感じられました。この「量的直感」は中学以降の数学理解に不可欠であり、小学校段階でいかにこの力を育てるかが重要です。算数の授業では、数の概念が記号接地しにくいという前提に立ち、より直感的な理解を促す工夫が求められると感じました。
教育における生成AIの活用についても、著者は短期的な成果ではなく、10年後、20年後の人間形成という長期的な視点で評価すべきだと述べています。流行に流されることなく、教育の本質を見失わないための重要な視座であり、現在執筆中の原稿にもこの視点を取り入れることで、実践の価値や危険性をより深く検討できると感じました。
最後に、生成AIの効率化に頼りすぎることで、子どもが自分の頭で考える習慣を失い、知識のかけらを求めて情報の海を漂流するだけの存在になってしまうという警鐘には強く同意します。ネット検索の危険性も同様であり、調べ学習にインターネットを活用する際には、事前指導を徹底する必要があります。情報活用に関する学習が、逆に誤った方向に進んでしまう可能性を常に意識しておきたいと思います。
なお、著者が「ChatGPTは超優秀な『次のことば予測マシン』である」と表現した一節は、生成AIの本質を端的に言い表しており、教育現場での理解を促す上でも非常に有効な表現だと感じました。今後の原稿などで、ぜひ引用させていただきたいと思います。
『学力喪失』は、教育者としての姿勢を根本から問い直す力を持った一冊です。方法論に頼るのではなく、子どもと自分自身の特性に応じた柔軟な実践を構築すること。そのためには、認知心理学の知見を踏まえた「学びの設計」が不可欠です。教育の本質を見失わないための羅針盤として、折に触れて読み返したい一冊だと感じました。
Posted by ブクログ
対・子供だけではなく、対・大人(自分自身)にも持っておいて損がない視点。
アブダクション推論
システム1、2の思考
記号接地
誤ったスキーマ
プレイフルラーニング
Posted by ブクログ
学力とは何なのか。
とても考えさせられる話だったし、実例もとても興味深く、そして恐怖すら感じる内容だった。
子どもたちがなぜ躓いてしまうのか。
いろいろな条件がいるわけだが、言葉の意味が分かっていないということが一つに挙げられていた。
しかもその“言葉”というのが、意外な言葉で。
どこで躓いているかは、もちろん人それぞれだから、一般論としての話ではあるが、教育業界の端くれとしてとても勉強になった。
そして管理職として。
部下で、いわゆる“できない”社員がいるわけだが、なぜできないのか、なぜ躓いているのか、といったことを考えるヒントにもなった。
言葉の意味が分かっていない。何のためのものかが分かっていない。など、確かにこういったことをちゃんと導いてあげるべきなんだろうなあと、痛感した。
話は戻るが、いち教育業界に身を置くものとして。
学力とは何か。
これまでは、“学んだ(学んできた)力”なんだろうと考えていたが、この本を読んで、学力とは、“学ぶ(学べる)力”なんだろうと思った。
わたしたちは子どもたちに、“学ぶ(学べる)力”を身につけさせてあげるべきなんだろうと。
Posted by ブクログ
今井むつみ著『学力喪失―認知科学による回復への道筋』は、子どもたちの学力低下問題を認知科学の視点から深く掘り下げ、その原因と回復の方法を示した重要な教育書です。本書の核心は、単なる知識不足や暗記の問題にとどまらず、「記号接地」と呼ばれる言葉や数式と実際の経験や身体感覚が結びついていないことが、学びの本質的な低迷につながっているという点にあります。
まず、算数や数学の学習は単純な暗記や計算だけでなく、前の学びが積み重なってできている体系的な構造です。一部分でつまずくと、そのあとに続く学習全体が理解できなくなります。さらに、文章題の理解には文章を正しく読み解く語彙力や時間・空間の理解、論理的な推論力が不可欠です。そこにおいては、言葉の意味が単なる記号として頭の中にあるだけでは不十分で、実体験や身体感覚と結びつく「記号接地」が必要であると本書は説きます。
この「記号接地」という考え方は、生成AIと人間の理解の違いを説明する重要な鍵になっています。生成AIは大量のテキストデータを学習し、言葉同士の関係やパターンを抽象的に処理することができますが、実際の世界や身体の感覚と結びつけることができません。これが算数・数学に弱い理由だとされています。一方、人間の学習は身体や感覚を伴う体験をもとに記号を理解し、これが「腹落ち」として感じられる深い納得感につながります。
また、本書は教育現場の現状として、こうした記号接地が十分に行われていないことを指摘し、その原因の一つに保護者や教育者の理解不足、そして遊びや体験を通した「コンテキスト・リッチな学び」の欠如を挙げています。遊びは、子どもが言葉や記号を実体験に結びつける重要な機会であり、これが学力向上に欠かせないという点も強調されています。
さらに、学習者の発達段階には大きな個人差があり、一人ひとりの接地の状態や能力に応じた教育が必要です。単にカリキュラムを消化するだけではなく、子どもの内面の動機づけや学習意欲も向上させることが、学力回復には不可欠です。
本書はまた、生成AIの進展を認めつつも、AIには本当の意味での「理解」や「意味の把握」が伴わないことを冷静に分析しています。AIと人間の認知の違いを明確に示しつつ、AIの教育利用の可能性と倫理面の課題にも丁寧に触れています。
総じて、『学力喪失』は学力低下の問題を多面的に捉え、認知科学の理論と実証に基づく具体的な教育改善の方向性を示した良書です。知識の「死活問題」である記号接地の重要性、遊びを通じた体験学習の価値、個別の発達差に対応した教育の必要性など、本書の示唆は現代の教育現場や家庭、さらにはAI時代の学びの在り方を考える上で非常に示唆に富んでいます。背景知識がない人にも理解しやすく、教育関係者だけでなく広く一般の読者にも読んでほしい内容と言えるでしょう。
Posted by ブクログ
学力喪失、というよりも、教育界の何十年もの努力にかかわらず成果を出していない、という、学びの力の養成の課題を指摘している。
喪失しているのではなくて、子どもにとってもともと無い思考法や認知の仕方を、教育の場や日々の世界との触れ合いを通して学んでいて、ということなのだろうと思い、あらためて人間の脳の成長、認知力の発達とその可能性に感心を覚えます。思考停止してしまうのは本当にもったいないから、ぜひその可能性を一人ひとりが活かせられるような教育を施せたら、というような著者の思いを勝手に感じながら読みました。ほんと、これは子どもだけの話ではないですよね。何歳になっても、のびのびと、学びという私たちの脳の弾力性を活かして、いろいろとチャレンジしたいですね。