【感想・ネタバレ】学力喪失 認知科学による回復への道筋のレビュー

あらすじ

乳幼児は驚異的な「学ぶ力」で言語を習得できる.しかし学校では多くの子どもたちが学力不振に陥り,学ぶ意欲を失ってしまう.なぜ子どもたちはもともと持っている「学ぶ力」を,学校で発揮できないのか.「生きた知識」を身につけるにはどうしたらよいのか.躓きの原因を認知科学が明らかにして,回復への希望をひらく.

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

 オーディブルで

とても興味深く読んだ。
ぜひ、教育関係の方達、現場の方にも、教育行政に携わる方達にも知っていただきたいと思う内容だった。

算数文章題が解けないのは、国語力、読解力が弱いせいと思っていたが、それだけではなかった。
そもそも、数学にまつわる基本的な概念(例えば、分数であったり、1、0、マイナスなどの数の概念など)が記号接地(この言葉も今回初めて知った)できていないことにも原因がある。

ただ、闇雲に学力テストをやって、点数を出しても仕方がない。間違った問題の何が理解できていないのか、そこを明らかにしてアプローチしていかなければ根本的な解決には至らない。

そして、学習のための基本的な概念をきちんと記号接地していくために、ゲームなど遊びの要素がある中で繰り返し鍛え定着させていくのは良い方法だと思う。

この本を読んでいて、ふと思い出したのはシュタイナー教育の小学校での教育課程について書いた本(子安美智子さんのものだったと思う)
朧げな記憶なので、勘違いしていたら申し訳ないが、シュタイナーの特に低学年の課程では、園芸、美術、ダンス、手芸や工芸的なものが授業の大きな部分を占めて、実際に自分の手や体を動かしながらその中で、算数国語理科社会などの要素を合わせて学んで行ったりしていたが、あれは実体験で記号接地しているということだったのだなと改めて腑に落ちる思いであった。

0
2025年11月17日

Posted by ブクログ

『言語の本質』は共著であったこともあってかオノマトペについての内容が非常に多かったが、こちらは小中学生の、特に学力低位層におきている言語を通した知識が記号接地できていないことについて丁寧に書かれている。
教育者は、PBLや自由進度学習などの著書だけでなく、やはりこういった認知心理学の著書にも手を伸ばしていけるとよい。

0
2025年11月06日

Posted by ブクログ

『言語の本質』で一斉を風靡した今井むつみ氏による、子どもの「学力」とはなにかという根底を問うた本。
今井氏が強く推す「記号接地」という概念、ここに大きな社会課題解決があると感じます。

0
2025年10月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

記号接地の大切さは分かった。
ってか分かってました。
それを記号接地ということは、初めて知った。
勘のいい先生なら何となく分かると思う。
言葉は車輪のようなものなんだろう。
地面についていないと進まない。
空中で回っているようじゃだめなんだ。
使えて初めて役に立つ。

スキーマの間違いは、経験の豊富な先生なら意識して授業していることだろう。それを正そうと工夫して話しているだろう。

「繰り返しやれば、できるようになる」は間違い、には心から賛同。繰り返しやらせる無意味さは経験すれば分かる。

でもなー、
そのために遊ぶのか…。
んー、むずい。

たぶん何でもかんでも遊べばよいのではないに違いない。科学的にちゃんと裏付けのある遊びだ。

分かるんだよなー。遊ぶと覚えんだよ。それは感覚としても分かる。身に付いていることって、「お勉強」したことより遊んだことなんだよな。

むずかしいなー。

何が難しいって、このことを正確に理解して実行できる人がいないと思われること。理解が不正確だったり、あるいは都合のよいところだけを取り上げるような教育になるだろう。教育改革が行われる度に繰り返される歴史だ。

赤ちゃんは学ぶ本能をもっているのに、なぜ子供は学ぶ意欲をなくしてしまうのか、よく分かった。分からない勉強をひたすら強いるのは虐待だと思っている。

これを何とかしなくてはならない。学校が、社会が解決するために不断の努力をしなければならない、一つの答えのない問いだ。

0
2025年10月10日

Posted by ブクログ

「学力喪失」、すなわち「学ぶ力」の喪失ということで、学ぶことに焦点を当て、それは記号を接地することなんだ、ということ。記号接地はおそらく「腹に落ちた」とか「手足のように使える」とかそういう感覚なんだろう。子どものまなびを主題に据えているが、これは大人でも変わらない構図であり、そして大人でも遊ぶように学ぶことを意識した方がいいのかもしれないな。

0
2025年09月29日

Posted by ブクログ

記憶とは何か、学力とは何か、知識とは何か。
人間が生きた知識を身につけるプロセスとともに、なぜ子供が学校の授業に躓いてしまうのか、どうすれば躓きを解消して知識を身に着けていけるのか。
子どもたちがどれだけ難しいことをしているのかがよくわかる。
どうしてこんなこともわからないのか?と思うこともあるが子供からしたら「そんな事」がいかに難しいか。

0
2025年09月27日

Posted by ブクログ

全ページが面白くて貪るように読んだ。知育とかって言うけど目指す先はどこなんだろう、ということを考えるきっかけになったし、乳幼児が言語を習得するプロセスについても学びを得られる。去年の本なので、生成AIとの付き合い方など鮮度の高いトピックがあるのもいい。認知科学という分野が面白すぎて、心臓がバクバクしてる。今井さんの著書は全部読んでみたい。

0
2025年09月24日

Posted by ブクログ

子どもはなぜ文章題が読めないのか。

そもそも文字の理解とは?みたいなところから進めていってめちゃくちゃ面白かった。
後半の実践も事例が多くてとても勉強になった。

0
2025年09月02日

Posted by ブクログ

初年次教育に携わるようになり、「学力とは何か」「なぜ分からないのか」に直面する機会が増えた。
本書はその疑問に認知科学の視点から丁寧に応えてくれる一冊。

具体的には「どうしてわからないのか?」という問いへの解像度が上がる。
『言語の本質』でも印象的だった「記号接地」という概念が、学習における「わかる」の本質を考える手がかりとして本書でも中心に扱われている。
また、生成AIの限界やハルシネーションの話も、人間の学びと対比する形で明快に解説されており、非常に興味深かった。

「時間」の概念につまずく娘のサポートにも役立つヒントがあり、教員としても親としても気づきをもらえた点がありがたい。

アクティブラーニングや授業設計に活かせる知見も多く、監修中という知育教材も期待している。
それまでに娘が時計を克服してくれていたら…と願いつつ、折に触れて読み返したい一冊。

0
2025年08月29日

Posted by ブクログ

認知科学に関する見慣れない語句が頻出.しかし、人間が言葉を覚えて駆使する過程が綿密に描写されており非常に楽しめた.記号接地という語句も児童が分数を理解できていない文脈で登場したが、面白い概念だと感じた.人工知能との関連も興味深い内容だった.「たつじんテスト」「時間どりじゃんけん」「時計カルタ」「分数のたつじんトランプ」など工夫された教材の紹介も良かった.p298にある‘’子どもが基本概念に自分で接地をし、アブダクションによって知識を拡張していくことができるなら、何から何まで直接教えてもらわなくても、自分で新たな知識を、それも「生きた知識」をつくっていける‘’が核心だと思った.

0
2025年08月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 教育の本質を改めて問い直す一冊でした。認知心理学の知見をもとに、「学力とは何か」「学びとはどうあるべきか」という根源的な問いに対して、明快かつ実践的な視点を提示しています。
 本書の中で特に印象的だったのは、「すべての子どもに同じように効く普遍的な方法は存在しないし、存在するべきでもない」という言葉です。教育現場では、特定の実践方法に頼りがちですが、それらはあくまで手段の一つに過ぎません。教師には、目の前の子どもに合わせて方法を柔軟に調整する力が求められます。どんな教育技術であっても、誰かの言葉を鵜呑みにするのではなく、自分自身の判断でチューニングして活用することが大切だと感じました。
 また、「わからない問題を繰り返し解かせることが、理解につながるとは限らない」という指摘には、深く考えさせられました。むしろそのような指導が、学習への嫌悪感を生む可能性があるという点は、日々の授業を振り返る上で重要な視点です。漢字や計算などで、無意識に繰り返しを強いてしまっている自分に気づかされました。
 さらに、「教育者の役割は、知識を伝えることではなく、子どもが知識を創造できるように導くことだ」という主張には、大きな共感を覚えました。学習内容を生活経験や他教科と結びつけることで、知識のネットワークを広げる指導が求められます。自分の実践を振り返ると、まだ十分にその視点が取り入れられていないと感じました。今後は、教科横断的な単元改革や指導計画の見直しに取り組みたいと考えています。
 また、子どもがつまずく原因として「思考力」そのものよりも、「思考の制御」に関わる認知負荷の問題が大きいという指摘も新鮮でした。授業では「わかりやすく教える」ことに意識が向きがちですが、子どもが「自分で学べる」ようになるための工夫こそが重要です。
 分数の理解に関する記述では、計算はできても量的な直感が伴わない中学生のふるまいが、生成AIの挙動に似ているという指摘が非常に興味深く感じられました。この「量的直感」は中学以降の数学理解に不可欠であり、小学校段階でいかにこの力を育てるかが重要です。算数の授業では、数の概念が記号接地しにくいという前提に立ち、より直感的な理解を促す工夫が求められると感じました。
 教育における生成AIの活用についても、著者は短期的な成果ではなく、10年後、20年後の人間形成という長期的な視点で評価すべきだと述べています。流行に流されることなく、教育の本質を見失わないための重要な視座であり、現在執筆中の原稿にもこの視点を取り入れることで、実践の価値や危険性をより深く検討できると感じました。
 最後に、生成AIの効率化に頼りすぎることで、子どもが自分の頭で考える習慣を失い、知識のかけらを求めて情報の海を漂流するだけの存在になってしまうという警鐘には強く同意します。ネット検索の危険性も同様であり、調べ学習にインターネットを活用する際には、事前指導を徹底する必要があります。情報活用に関する学習が、逆に誤った方向に進んでしまう可能性を常に意識しておきたいと思います。
 なお、著者が「ChatGPTは超優秀な『次のことば予測マシン』である」と表現した一節は、生成AIの本質を端的に言い表しており、教育現場での理解を促す上でも非常に有効な表現だと感じました。今後の原稿などで、ぜひ引用させていただきたいと思います。
『学力喪失』は、教育者としての姿勢を根本から問い直す力を持った一冊です。方法論に頼るのではなく、子どもと自分自身の特性に応じた柔軟な実践を構築すること。そのためには、認知心理学の知見を踏まえた「学びの設計」が不可欠です。教育の本質を見失わないための羅針盤として、折に触れて読み返したい一冊だと感じました。

0
2025年08月11日

Posted by ブクログ

子どもたちのわからないがわかり、それは大人にも当てはまることだということがわかる本だと思います。

テストの点数が悪い子どもたちにドリルをやらせても学力は上がらない。そもそも学力ってなんだっけ?というところからとても丁寧に述べられています。学ぶとはなにか、子どもたちのわからないは何がわからないのか。5つ星はこれだ!という本に出会った時のためにとってあり、いつもは星4つのことが多いのですが、これは迷いなく星5つでした。

0
2025年08月08日

Posted by ブクログ

教員として「どれだけわかりやすく伝えられるか」と日々悩んでいたが、スキーマの構築過程と、知識は「教えてもらうことが当たり前」と子どもたちに感じさせてしまっていることが定着に至らない原因と考える新しい視点をもらえた。

0
2025年08月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

対・子供だけではなく、対・大人(自分自身)にも持っておいて損がない視点。

アブダクション推論
システム1、2の思考
記号接地
誤ったスキーマ
プレイフルラーニング

0
2025年07月28日

Posted by ブクログ

学校教育では、教科の授業を通して過去から継承された知識を一方的に教え込もうとする傾向があるため、子どもたちに誤ったスキーマが形成され、それが知識の活用を妨げているのではないかと感じた。もし、幼児期にスキーマの土台となる体験を通して学ぶ機会が豊かにあれば、学力喪失の問題は起こらないのではないか。本書を通じて、学力のつまずきの背景にある認知的な仕組みや、意欲ある学びを支える方法について深く考えさせられた。

0
2025年07月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

学力とは何なのか。
とても考えさせられる話だったし、実例もとても興味深く、そして恐怖すら感じる内容だった。

子どもたちがなぜ躓いてしまうのか。

いろいろな条件がいるわけだが、言葉の意味が分かっていないということが一つに挙げられていた。
しかもその“言葉”というのが、意外な言葉で。
どこで躓いているかは、もちろん人それぞれだから、一般論としての話ではあるが、教育業界の端くれとしてとても勉強になった。

そして管理職として。
部下で、いわゆる“できない”社員がいるわけだが、なぜできないのか、なぜ躓いているのか、といったことを考えるヒントにもなった。
言葉の意味が分かっていない。何のためのものかが分かっていない。など、確かにこういったことをちゃんと導いてあげるべきなんだろうなあと、痛感した。

話は戻るが、いち教育業界に身を置くものとして。
学力とは何か。
これまでは、“学んだ(学んできた)力”なんだろうと考えていたが、この本を読んで、学力とは、“学ぶ(学べる)力”なんだろうと思った。
わたしたちは子どもたちに、“学ぶ(学べる)力”を身につけさせてあげるべきなんだろうと。

0
2025年07月21日

Posted by ブクログ

タイトルは学力の低下を嘆くような形になっているが、どちらかと言うとその原因を突き止め、解決策を実践を通して考えていく建設的な内容となっている。また子どもたちだけではなく、大人にとっても「学ぶとは何か?」を考えさせる一冊だ。
大人の我々は殆どが「1/2と1/3のどちらが大きいか?」「5時間10分は何分なのか?」といった問題に対して短い時間で答えられるだろう。しかし分数や時間の概念が与えられていない子供はどうだろうか?すぐに理解できる者はごく少数であろう。これらの概念を掴めないうちに勉強が嫌いになってしまうことは大きな損失ではないだろうか?こういった概念を子供達に思考させながら学ばせることはとても重要であると感じる。

0
2025年06月22日

Posted by ブクログ

スキーマとは言語化できない直感的な理解。暗黙の知識。今までの経験から学習者が無意識のうちに作り上げた「知識の塊」これがスキーマ。概念を理解するための枠組みとなる知識。
スキーマは情報を選択する。スキーマに合わない情報はすぐ目の前にあっても、丁寧に説明されても頭に入ってくることはない。学び手のスキーマと合致していなければ、内容はスルーされるか捻じ曲げられてしまう。誤ったスキーマを持っている場合、それを修正するところから始めないと、理解に結びつかない。

読解の中身
①文字の認識→単語の認識→単語の音声変換
②脳内の意味貯蔵庫にアクセスし、言語の意味を想起
③文法の知識と単語の知識を組み合わせ、文としての意味を解釈。しばしば文脈に合わせて単語の意味を拡張したり変えたりする必要あり。
④テキストの内容に関するスキーマを想起。スキーマによって行間を補いながら文章を理解していく。
⑤テキストの字面の意味、解釈を超えて書き手の意図や意見、感情などを推測。
壮大ですな。

子供が本を読むには?
読むことを始める前に、文字を覚えることを始める前にどれだけ耳から聞いた単語をたくさん知っているかが読めるようになるには必要。
意味を汲み取れない原因は語彙が足りないこと。

算数ができるようになるには
単位、時間、空間などの算数概念の言葉と比較、分ける、などの動詞の理解、割合、比率、等しい、曲線、直線などを理解しないといけない。

語彙力だけでない。視点を柔軟に変えることができること。自分以外の視点で物事を見る力。
読むのが上手い人は、まず自分の想定している単語の意味がその単語の前後の文脈に合うかどうか考える。合わない時は文全体の意味あるいは文章の流れを優先し文章の意味を解釈する。同時にそれまで自分が認識していた単語の意味を修正したり、拡張したりする。そのようにして、文脈から単語の意味の知識を広げ、単語の種を理解して自分の知識を豊かにしていく。

言葉の習得と概念の習得は「比較」に仲介されながら共に発達していくのである。このことも、学校で抽象的な概念の学習に苦労する子供たちに、大人が何をするべきなのかについて、貴重なヒントを与えてくれる。
知識を大きく育てたい。そのためにアブダクションは欠かせない。そうすると間違うことを避けられない。しかし間違いは修正しなければならない。大人が正解を言っても間違いは簡単に修正されない。子供が自分のスキーマの誤りを修正することに自分で納得できるような状況を作り、子供自身がスキーマの誤りを認めること。これは言わば、記号接地をして直すことである。これが習慣化されると、アブダクションがどんどん洗練され直感が磨かれる。学力向上に役立つ力。
記号接地、概念を生活経験に紐付けることから始める。人間の知識を拡張させる推論がアブダクションだと言うことに立脚すれば、遊びが学びになると言うことは自然なことである。
子供たちに必要なのは、頭でなんとなくわかりかけた、つまり接地しかけている概念を何度も使い、体の1部にすること。いろいろな遊びをして接地を確実にする。記号接地をするためには演繹推論ではなく、アブダクション推論が必要。身体化された生きた知識になること。

0
2025年12月07日

Posted by ブクログ

内田洋行さんのプロモーション案件。というのは冗談だけれど、小学生の保護者向けというより学校向けの内容でした。今井むつみ先生の開発した『達人テスト』はぜひ我が子に受けさせてみたい〜と思ったけれど、個人利用は想定されていないようでちょっと残念でした。(いくつか例題は載っているので参考にさせてもらっています)

「(子供たちがどう間違えているか、どういうスキーマを形成しているか、を観察することなく)わかりやすく問題解説しただけで満足していないか」という指摘には親としてドキッとしました。これからの家庭学習(宿題の丸付け)に活かせそうです(^o^)

0
2025年11月30日

Posted by ブクログ

ノリと雰囲気で語られがちな、「学力が追いつかないとはどういうことか?」を、構造的に言語化してくれた良書。という意味で、学校教育にかぎらず、むしろ仕事における「日々学んでいくために何をどうすべきか?」の補助線を示してくれる一冊でもある。

ただ、AIと人間の差分についての語りが、既に古びて見えてやしないか?それこそ「AIは自ら思考できない」というスキーマに入れ過ぎじゃないか?と思える主張が目立った点は気になった。

0
2025年10月07日

Posted by ブクログ

子供が算数などの義務教育についていけないメカニズムを、認知科学の視点で興味深く解説してくれる本です。一方で、大人になっても物事を理解できずに仕事で困るケースはあるもので、子供の話だけではないな、と感じる面もありました。社会に出て仕事を始めると、いろんな業界用語を使ってかかれた文章を目にすることになります。それらを「記号接地」せずになんとなく使って、なんとなく議論に入ることもできてしまいます。その結果どこかで行き詰まって、最終的に失敗するということが少なくありません。子供の教育の話ですが、大人としても考えさせられる部分が多かったです。


AIが記号接地できていないこと、算数の問題が解けない子供がChatGPTに似ているという話が目から鱗でした。生成AIの進歩はすごいので、いつかそれも克服してしまいそうです。そうなった時に、著者にはぜひ人間とAIについての議論を更新していってほしいな、と思いました。

0
2025年09月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

今井むつみ著『学力喪失―認知科学による回復への道筋』は、子どもたちの学力低下問題を認知科学の視点から深く掘り下げ、その原因と回復の方法を示した重要な教育書です。本書の核心は、単なる知識不足や暗記の問題にとどまらず、「記号接地」と呼ばれる言葉や数式と実際の経験や身体感覚が結びついていないことが、学びの本質的な低迷につながっているという点にあります。

まず、算数や数学の学習は単純な暗記や計算だけでなく、前の学びが積み重なってできている体系的な構造です。一部分でつまずくと、そのあとに続く学習全体が理解できなくなります。さらに、文章題の理解には文章を正しく読み解く語彙力や時間・空間の理解、論理的な推論力が不可欠です。そこにおいては、言葉の意味が単なる記号として頭の中にあるだけでは不十分で、実体験や身体感覚と結びつく「記号接地」が必要であると本書は説きます。

この「記号接地」という考え方は、生成AIと人間の理解の違いを説明する重要な鍵になっています。生成AIは大量のテキストデータを学習し、言葉同士の関係やパターンを抽象的に処理することができますが、実際の世界や身体の感覚と結びつけることができません。これが算数・数学に弱い理由だとされています。一方、人間の学習は身体や感覚を伴う体験をもとに記号を理解し、これが「腹落ち」として感じられる深い納得感につながります。

また、本書は教育現場の現状として、こうした記号接地が十分に行われていないことを指摘し、その原因の一つに保護者や教育者の理解不足、そして遊びや体験を通した「コンテキスト・リッチな学び」の欠如を挙げています。遊びは、子どもが言葉や記号を実体験に結びつける重要な機会であり、これが学力向上に欠かせないという点も強調されています。

さらに、学習者の発達段階には大きな個人差があり、一人ひとりの接地の状態や能力に応じた教育が必要です。単にカリキュラムを消化するだけではなく、子どもの内面の動機づけや学習意欲も向上させることが、学力回復には不可欠です。

本書はまた、生成AIの進展を認めつつも、AIには本当の意味での「理解」や「意味の把握」が伴わないことを冷静に分析しています。AIと人間の認知の違いを明確に示しつつ、AIの教育利用の可能性と倫理面の課題にも丁寧に触れています。

総じて、『学力喪失』は学力低下の問題を多面的に捉え、認知科学の理論と実証に基づく具体的な教育改善の方向性を示した良書です。知識の「死活問題」である記号接地の重要性、遊びを通じた体験学習の価値、個別の発達差に対応した教育の必要性など、本書の示唆は現代の教育現場や家庭、さらにはAI時代の学びの在り方を考える上で非常に示唆に富んでいます。背景知識がない人にも理解しやすく、教育関係者だけでなく広く一般の読者にも読んでほしい内容と言えるでしょう。

0
2025年09月10日

Posted by ブクログ

言葉の習得、数字や記号の理解について、すごく丁寧に解説されていて面白い。
大人が社会で教養を身につけるには、、というような流れを想像していたけれどそんなことはなく、
子育ての前に一読しておきたいと思うような本だった。
とはいえ子供の教育だけでなく、日常のいろんな未知のことについて学ぶ場面でアブダクション推論とブートストラッピングはキーワードになりそうだし、
その一例としてAIの活用への問題提起がされている。
安易なAIの利用、デジタル教材化をして満足するのではなくて、うまく付き合っていけるように、人間らしく思考し続けられるように、必要な学ぶ力を意識して育てていきたい。

0
2025年08月22日

Posted by ブクログ

「プレイフル・ラーニング」という考え方と、その事例の紹介がよかった。遊びの中で「記号接地」や「生きた知識」の習得が可能なことを説明している。

学生時代の「受験勉強」の影響で、私はどうも「学び = 苦行」という知識観をみにつけてしまっているようだ。大人になってから学ぶ楽しさを実感する機会は増えたものの、自らに苦行のような学び方を強制してしまうことも多い(そして続かなくて自己嫌悪する)。

「効率性」を求めるための学びを一度やめてみよう。まずは今の知識観を「学びは遊び」に修正することを目標にして、学び方に工夫を凝らしてみようか。長い目でみれば、これが自分の生活を真に充実させるこに繋がるように思った。

0
2025年08月03日

Posted by ブクログ

「算数文章題が解けない子どもたち――ことば・思考の力と学力不振」を読んで、今井さんに俄然興味を持った私は、この本を手にしました。
 上記の本は、認知科学の知見から、学習に躓く原因を事細かく分析していました。初めて知ることの連続で、学びの多い本でしたが、どうやって学力を伸ばしていくのかには、ほとんど触れられていませんでした。よって、本書には具体的な方策が語られることを期待していました。
 具体的な提案がなされていたのは後半の一部だったので、少し残念でしたが、授業作りのヒントを得ることができました。

 ●プレイフル・ラーニング
 遊びを通して学ぶこと。人間は遊びから学ぶ。なぜか?遊びは楽しいからである。
 人は楽しいから学ぶ。学ぶために遊ぶわけではない。そこに功利的な目的はない。功利的でないから、遊びに子どもは夢中になる。
 遊びは生活と深く結びついている。遊びの中でことばを使う。記号も使う。しばしば数や量を比べ、競う。つまり、遊びの中にはことばや数・量について記号接地し、探求をしていくための種がいくらでもあるということ。
「問題が解けた!」「答えが合っていた!」ではなく、「意味がわかった!」という瞬間、「学びは遊び」が実現する。
 プレイフル・ラーニングを実現するために欠かせないのは、子どもの学びをサポートする、ファシリテータとしての大人(先生)と、子どもが安心し、リラックスして「わからない」「なぜ」を質問でき、間違いや失敗をすることができる学校の環境である。
 ◇「時間どりじゃんけん」(パターンブロックを使ったゲーム)
 ◇「時計カルタ」
 ◇「分数のたつじんトランプ」

【本書に登場した難解な言葉】
○スキーマ・・・ 経験を自分で一般化・抽象化してつくった暗黙の知識。人は「スキーマ」を使っていることに気づかずに、外界の情報を選択し、行間を埋めて理解し、記憶する。

○アブダクション推論・・・正解が一義的に決まらない、論理の跳躍を伴う非論理推論。
アブダクションの3つの働き
 ①点(1事例)を面に広げる→知識の拡張
 ②すぐには結びつかない離れた分野・領域の知識を結びつけること→新たな知識の創造
 ③時間を遡及して目に見えないメカニズムや因果関係を考える→科学的発見

○記号接地・・・人は持って生まれた自分の知覚能力と認知能力と思考バイアスを使ってことばを自分で見つけ、その意味に自分に気づき、意味の推論のしかたを自分で発見し、修正しながら語彙を増やし、言語を身体化している。同時に自分の知覚能力や認知能力、推論能力も拡張している。それが、記号接地。

0
2025年08月02日

Posted by ブクログ

乳児期は言語を学ぶというとんでもない力を有しているのに、どうして小学生になると学びが苦手になるのか。子どもたちのテスト解答例を通して、いかに数の概念自体が理解されないまま子どもが勉強している状況かを紹介し、記号接地の重要性が書れている。
学力喪失を嘆くのではなく、今何が不足していて何が必要なのか書かれているのがよかった。

中でも直感的で非論理的なシステム1と呼ばれる思考と、批判的で論理的なシステム2の思考の説明が面白かった。
基本人はシステム1で生きているが、学力高層位はシステム2を発動させやすい。システム2を発動できないと、誤った知識や自分のスキーマを修正できず、学力につながる思考力はシステム1の思考をどれだけ工夫で制御できるかで生まれる
という一文が興味深かった。

0
2025年06月27日

Posted by ブクログ

現代っ子の学力は喪失しているのか?
著者は大人たちが子どもたちの学ぶ力(=学力)を喪失させているのではと疑問を持つ。著者らが考案、実施した「たつじんテスト」の結果を元に、知識の獲得とそれを活用できるようになるために必要なことは何かと迫る。
前著「言語の本質」でも語られた「アブダクション推論」「記号の接地問題」。生きた知識の獲得には自分の身体で世界を探索が重要だと説く。大人から正しい知識を教えられるだけでなく、子どもたちが自分でやってみる、試してみる、そういう環境なり状況が学ぶ力を引き出すために必要になるのだが…そういう場が以前より失われているのかもしれない。

0
2025年06月22日

Posted by ブクログ

ネタバレ

学力喪失、というよりも、教育界の何十年もの努力にかかわらず成果を出していない、という、学びの力の養成の課題を指摘している。

喪失しているのではなくて、子どもにとってもともと無い思考法や認知の仕方を、教育の場や日々の世界との触れ合いを通して学んでいて、ということなのだろうと思い、あらためて人間の脳の成長、認知力の発達とその可能性に感心を覚えます。思考停止してしまうのは本当にもったいないから、ぜひその可能性を一人ひとりが活かせられるような教育を施せたら、というような著者の思いを勝手に感じながら読みました。ほんと、これは子どもだけの話ではないですよね。何歳になっても、のびのびと、学びという私たちの脳の弾力性を活かして、いろいろとチャレンジしたいですね。

0
2025年07月26日

Posted by ブクログ

昔と今、子ども達の学力は変化しているのだろうか?
子ども達の宿題の量などをみていても、どう考えても私が子どもの頃より勉強させられて(笑)いるように思える。
昔と違うことは、調べたいなと思ったらネットで検索したり、AIに色々調べてもらったり何かを作成して貰っていて…これからどんどん、自分で調べて分かったときの喜びとか達成感、意欲等なくなってしまうのかな~っと便利な世の中ではあるけれど…っと考えさせられた。

0
2025年07月06日

Posted by ブクログ

学力とは「学ぶ力」であって、学校の成績ではない。
子どもたちの学力をのばす学びについて考える本。

実際に子どもたちに解いてもらった「たつじんテスト」の問題を例に出しながら解説されていて、分かりやすかったし面白かった。ただ、話の大筋としては聞いたことのある内容だったかも。

特に印象に残ったのは、学習と生成AIについて書かれた部分。著者は否定派として次の一文を書いていた。「子どもが自分の頭で考えずにすぐに答えを求めることが習慣になったら、本当に大事なことにも記号接地できなくなり、つねに知識のかけらを求めて情報の海を漂流するだけの人間になってしまう。」
子どもに限らず、自身も刺さる一言だなぁと思ったり。


以下メモ
・生きた知識:必要な時にいつでも使える知識、教えられることでは獲得できず、自ら試行錯誤することで得られる。
・死んだ知識:テストではこたえられるが実際には使えない。
・死んだ知識でもないもの:テストのために詰め込んだ情報、記憶(すぐに消去される)

・プロ棋士が盤面を覚えているのは暗記ではない。これまでのデータから現在の駒の配置が浮かび上がってくる。生きた知識を使っている。これが「スキーマ」

・算数の文章問題につまずく理由の一つは、「ひとしい」「直線」など、日常会話に出てこない単語の意味がそもそも分からないから。

・記号接地:言葉(記号)の持つ意味を真に理解すること。抽象的で本質的な概念として理解すること。

・自分でスキーマの誤りに気が付ける能力(メタ認知)を育てることが必要。

0
2025年06月22日

「学術・語学」ランキング