あらすじ
大人だって道に迷うことあるよ――。
離婚を機に実家へ戻ったシングルマザーの詩織は、両親や友人たちとゆるやかに繋がりながら、七歳になる息子・翔との日々を積み上げていく(『可及的に、すみやかに』)。引きこもりの息子・蒼汰を案ずる幸子は、些細なきっかけから万引きに溺れていく。罪を重ねていく幸子を待つものとは(「掌中」)。ままならぬ日々を、それでも進むひとたちへ。純文学界注目の書き手が母と子を描く中編二編。
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Posted by ブクログ
『掌中』と本タイトルの2話連作。『掌中』は、ある家族の母親が万引をするようになり、次第にエスカレートしてゆくのだが、今度こそ捕まるのではないかとハラハラしどうしだった。息子が引きこもりになったことで、精神の均衡を崩す母親の様子が、痛いほど伝わってくる作品だった。二作目は、息子の幼馴染の女の子の話で、出戻り中。本人自身も考えが甘いところはあるものの、人には明かせない思いを抱える胸の内が見え隠れする。
どちらの作品も、ネガティブな思いを抱え込む心理が、実によく描かれていて心に響いた。
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「掌中」
かつて友達だった人の子どもは結婚し、孫までいる人もいる中、自分の子どもは引きこもりで、これと言った楽しみもない。そんな中、スリルを求め万引きに走ってしまう女性が描かれていた。自分の大切に育てて来た息子が世間から見たら「失敗作」のようで、それが受け入れられなくて、どうしたら良いか分からない。親が1番乗り越えるのが難しいことそれは、子どもが自分たちの思い通りにならなかったことだと聞いたことがあるが、それが引きこもりとなると、四隅が塞がった感じがし、救いようのない印象を受ける。あの時、ああしていれば、こうしていれば、過去の楽しく、輝かしい記憶が邪魔をし、それが現在との対比で苦しくなる原因にもなる。過去に固執するなというけれど、過去の思い出が現在を作っているのも事実で、かつての息子の影を探すことが、自分たちが育てた息子は存在しているという、生存確認のようなものになっていたのかもしれない。節さんが、幸子が自分の家に入り、物を盗んでいくことに早々から気づき、ボケた振りをしていたとしか考えられなくなった。
「可及的に、すみやかに」
かつての旦那が、自分の1番親しい友達と付き合っているという複雑な状況の中、母親とも上手くいかず、息子を1人で育てることに苦労し、仕事もない。自分が描いていた理想とは程遠く、宝物は息子だけ。というような詩織の小さく萎んだ心が写っていた。息子が大きくなるに連れ、自分の知らないことまで知っていく、そして、学校で明かされる息子の真の性格。息子まで自分の知らないところまで行ってしまったような感じがしたのかもしれない。実家で子どもを育てるなんて、親に協力してもらえ、手間が省けると思ったが、それは親と関係が上手く行っていないとしんどいものであり、ストレスも溜まる。猫の事件は母親にイライラしたし、母親の機嫌を伺う父親にもイライラした。自分の唯一の味方であった旦那が、せっかく会える機会でも、紗希を優先し、自分に見せなかった笑顔を見せている。そこには、私が愛していたかつての旦那はおらず、まるで自分と息子が最初からいなかったような印象を受けたと思う。息子の行動を愛おしく思いながらも疲れ、自分より旦那の家族と上手くいっている紗希に嫉妬し、悲しくなる。涙を流していることさえ気づかず、唯一気づいてくれたのは息子だけだった。という事実がとても悲しい。親から見た子、子どもから見た親、どちらの視点からも描かれていて、子育ての大変さ、旦那と上手くいかなくなったときの絶望感、1人親の大変さ、親との関係。どうしようもないけれど、息子を育てていくしかないという希望もあるが、捨てることのできない使命感に狩られ、日々を闘っているような詩織にエールを送りたくなった。大丈夫。あなたは上手くやっているよ。そんな言葉をかけてもらいたいという人は大勢いるのではないだろうか。必ず、頑張りを見ている人がいる。そう信じていないと、何の原動力もないし、頑張る気力も湧かなくなる。誰か1人でも味方がいれば、頼れる人がいれば。私にはそんな人がいるだろうか。私は、法律上では大人だが、私はまだモラトリアム人間で大人になり切れていない。大人になるということは、ある程度のことは許す。自分のことを後回しにできる人間なのかなとも思った。子どもが生まれると子どもが宝物で優先すべきもので、自分の感情なんてどこかに置いてきぼりにされるのだろう。でも、気づいたらバロメーターはゼロになって、なんならマイナスになっていて…。
誰かに伝えたい。あなたは大丈夫。上手くやっているよ。
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「掌中」日々の鬱憤やちょっとしたストレスが自然に描かれてて単純に主婦って大変だと思った。空想か幻覚かわからないけど引きこもりの息子と一緒にショッピングモールに行く場面が切なかった。
「可及的に、速やかに」実家なのに出戻りってだけでこんなに居心地悪いものなの…って思ったが、なんだかんだ言ってお母さんも2人のことを気にかけている様子を感じて家族という繋がりの強さを感じた。息子との楽しく戯れる場面が可愛くて救われた。
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全2編。最初は、引きこもりの息子がいる母の話。息子には無視され、夫には頼れないという境遇は辛いが、万引きをしている間はそれだけに集中していて、まるで全て忘れてしまいたくてやっているように思えた。
補導されて息子が迎えに来たのには驚いたが、彼女の孤独感は薄まりそうもない。明るい未来はあるのだろうか。
次は、離婚して実家に住む女性の話。息子と父母と暮らすが、母親とは折り合いが悪い。
こちらの境遇も辛いな。息子とスキンシップを取っているシーン以外は、辛い。息子がいるからまだ孤独ではない気もするが、やるせない気持ちになったときに話をする相手がいないのは可哀想に思う。
日常の裏にある隠された辛さは、他人から見ても分からない。皆、いろいろあるよね。
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「掌中」「可及的に、すみやかに」二話収録。
以前読んだ『エラー』『あくてえ』で強烈なインパクトを残してくれた山下紘加さん。
今回も読ませる。
表題作もいいが一話目の「掌中」が凄い。
主人公は引きこもりの息子を持つ主婦の幸子。
魔が差したなんて言葉では形容出来ない程、万引きに溺れていく姿に恐怖すら覚える。
人生に絶対はなく、自分が理想とする未来と現実とのギャップに苦しむ人は数限りなくいるだろう。
こんなはずじゃなかった…、彼女の心で荒れ狂う感情の波が伝染して来て胸が苦しい。
掌中に収めたかったのはきっと別の物だったはずだ。
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生きていくのは切なく,苦しい。そう簡単にはいかないものなんだな,と思う。思い通りにいかないけれどなんとか踠きながら,生きていくのが人生なんだなぁと。
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うまくいかないことがあると、どこかで発散したくなるよな。誰かに理解してもらえたら、もっと楽になるのかも。他人に気づいてもらうために起こす行動って人それぞれなのかもしれない。
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人とひとの関係は、見る方向(立場)が変わると全く違ったものとなるのだろう。相手の立場で考えることは重要だが相手になって見ることは不可能であり、想像するのが精一杯。そういった意味からも考えさせられる作品であった。
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ふたつの話が入っていた。連作。
表題作の『可及的に、すみやかに』は子どもが小さかった頃を思い出した。
『掌中』はもやもやする話だった。万引きを繰り返してしまう初老の女性と引きこもりの息子。
おそらく認知症のふりをした(もしくはまだらボケ)の高齢女性。出てくる人たちの誰にも共感することができず、きみの悪さにゾッとした。