あらすじ
「いいですとも。あした、晴れるようならね」スコットランドの小島の別荘で、哲学者ラムジー氏の妻は末息子に約束した。少年はあの夢の塔に行けると胸を躍らせる。そして十年の時が過ぎ、第一次大戦を経て一家は母と子二人を失い、再び別荘に集うのだった――。二日間のできごとを綴ることによって愛の力を描き出し、文学史を永遠に塗り替え、女性作家の地歩をも確立したイギリス文学の傑作。(解説・津村記久子)
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Posted by ブクログ
一言で言うと、圧巻の構成力と心理描写!
三部構成のうち、一部と三部はたった数時間の出来事と人間関係がめちゃくちゃ丁寧、詳細、重厚に書かれている。対して二部は、一部と三部の間にある10年の時間をつなぐ部分だけど、家主のいない家の荒廃にフォーカスし、「○○が死んだ」など衝撃の事実は非常にさらっとあっさりと述べられていく。紙の本で読むと、一部と三部の長さ(分厚さ)、二部の短さ(薄さ)に驚かされる。実際の時間の長さと、文章量が逆転しているのである。
裏主人公とも言えるリリーが、絵の構図をどう描くか悩む姿は、この物語そのものをどう捉えるか、家族の歴史をどう切り取るべきか、という作者と読者の疑問の反映だと思う。友人として家族を客観的に見つめているリリーが、画家としての視点から最後の語りを任されているという点でも、この物語の構成の巧みさがわかる。
それにしても、男性が女性に対して「憐れみ」を求めてくるというのは、古今東西変わらないんだな…
悩んでいるのはあなただけじゃないわよ、とウルフに元気づけられた気がする。
ウルフが友達だったら、とても心強いなと思う。
Posted by ブクログ
文学史に燦然と輝く、モダニズム文学の傑作。
本当に読んでよかった。
第一部では、主にラムジー夫人の視点から、孤島の別荘を取り巻く人間模様と夫人の思考(意識の流れ)をひたすらに描写し続ける。描かれるのはたった1日なのに、情景と思考の記述が膨大で、この時点で文字どおり「実写化不可能」な作品だと思い知らされる。
1920年代に書かれた作品にも関わらず、男性像と女性像に対して赤裸々な描写が見られ、フェミニズム文学としても記念碑的作品だと言える。
読み始めてしばらくは面白さが全然わからなかったものの、チャプター17の全員での会食から突然面白くなった。ここで描かれる人物像がとても丁寧で、「どこかが残念な奴」ばかりが描かれる。それでいて、どいつもこいつも内心では他人を見下している。最悪な会食を、上品なユーモアとともに描くチャプターで、本作の中でもとても印象に残った。個人的には、バンクスの考えが自分自身にいちばん近かった。
第一部全体を通じて、美しい景色の中に、ラムジー夫人のこどもたちへの愛情と幸福感が伝わってきた。
第二部は、鳥肌が立つほど素晴らしい文章だった。第一次世界大戦の激動の時代に一家が翻弄され、かつての別荘が荒廃している様を描く。10年の月日の間に別荘が朽ち果てていく様子を淡々と描くことで、ラムジー夫人死後の、一家暗い気持ちを完璧に描写している。登場人物の語りがなく、情景描写のみでここまでの寂寥感を表現できたのは奇跡と言っていいのでは。本当に素晴らしい名文だった。「そろそろ小説に飽きたし、「文学」を感じたい」といった変わり者には、真っ先にお勧めしたい。
第三部では、10年後に一家が再び別荘に集まり、灯台へ向かう様子を描く。ジェイムズとキャムの父親(ラムジー)に負けまいとする不屈の精神がユーモラスに描かれる。それと同時に、今は亡きラムジー夫人を忘れることができずに葛藤し続けるリリーが描かれる。リリーが自問自答する下記のシーンに、本作のメッセージが集約されていると感じた。
「往々にして人は年とともにこんな疑問に迫られる。大いなる天啓はいまだ降りきたらず。いや、大いなる天啓なんてものは決して降りないのかもしれない。その代わりにあるのは、暗闇のなかで不意に灯されたマッチの炎のような、日々のささやかな奇跡と光明だ。」
(単行本p.208)
日々のささやかな奇跡と光明を、暗闇の中のマッチに喩える最高の文章だ。