あらすじ
2021年4月、私は突然膵臓がんと診断された――。夫とふたりで無人島に流されてしまったかのような日々を、作家は日記として綴った。痛み、吐き気、発熱に悩む毎日。食べもののおいしさや本の面白さに喜びを感じる時。振り返るこれまでの人生。夫への感謝と心配。「書きたい」という尽きせぬ思い。別れの言葉は言っても言っても言い足りない。58歳で急逝した著者からのラストメッセージ。(解説・角田光代)
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Posted by ブクログ
山本文緒の突然の訃報はショックだった。
彼女が直木賞を受賞し、順風満帆といわれていたさなかに鬱病を発症したと知った時から、彼女の作品及び生き方は、結構私の支えだった。
体調が悪いらしいという噂も、単なる読者である私にまで届いたのだから、相当悪いのだろうとは思っていたけれど、まだまだ時間はあると思っていた。
この本を読むと、がんと診断された時点でもう手の施しようはなかったという事実にうちのめされる。
タバコを吸わず、暴飲暴食もせず、毎年きちんと健康診断を受けていて、なお。
余命4カ月。
どうすることもできない無情。
私が毎日本を読まねばいられないことを「業」と言っているように、彼女にとって書くことは「業」だったんだろう。
5分とソファに座っていられないような日のことも、日記には書かれている。
なぜ『無人島のふたり』なのかといえば、コロナ下で、軽井沢という移住した矢先の土地で、極力在宅で生きようとするふたりは、さながら無人島にふたりきりの心持だったのだろう。
週一の訪問看護の先生のことを、無人島に毎週物資を届けてくれる本島の人と表現している。
だるくて苦しくて辛いとき、読書もSNSもできなくて「頭が暇」という感覚は私もわかる。
テレビなどを見て「手が暇」な時は、編み物などをしたりしていたこともあるけれど、手作業をしていて「頭が暇」な時は本当に困る。
体力が落ちるということは、頭の暇とも戦わなくてはならないのか。
それでも『逃げても逃げても、やがて追いつかれることを知ってはいるけれど、自分から病の中に入っていこうとは決して思わない』と、そう書ける強さを彼女が持っていてよかったと思う。
緩和ケアを選んだところで、病気はやっぱり辛くて苦しい。
突然の発熱、嘔吐、不眠、倦怠感、赤裸々に書かれるそれらは、どれほど精神的にも苦痛をもたらしただろうと思う。
けれど彼女は『未来はなくとも本も漫画も面白い』と書いてくれた。
また彼女から支えをもらった。
Posted by ブクログ
最近読んだ中では、かなり衝撃的に感情を動かされた1冊となった。恐らく昨年何かのネットニュースで山本文緒さんのことを扱った記事を読んでいたから、書店で手に取った時にはピンときていた。読み始めて、ところどころ涙がぽたぽたとこぼれてしまう部分もあった。だけれど、解説に角田光代さんが書かれているように、私たちはこの本を読むことで人生が終わりに向かっていく感情を追体験することになるのだ。私自身は、6年ほど前にサイレント癌で50代でなくなった叔母のことを思い返しながら読んでいた。山本文緒さんご自身も、亡くなられる数年前から、身近な編集者やお父様を失くしていて、死というものはそれなりに近くに感じていたはずだ。でも、まだ自分には命がある、そう思って疑わないときにブラックホールのように死は迫ってくる。
口先だけでいつ死んでも良いように悔いなく生きるとか言っていても、本当に直面した人の気持ちは分からない。この本は、それを追体験させてくれ、まだ命のある私たちに励ましさえ与えてくれる。