あらすじ
密着取材で浮かび上がる「袴田事件」再審の闘い
事件発生から58年を経て、ついに再審判決の時を迎えた「袴田事件」。
支え続けた姉・ひで子さんの献身、死刑判決を書いた
元裁判官の告白と謝罪など、袴田巖さんが確定死刑囚のまま釈放された
2014年以降の密着取材で浮かび上がる、「再審無罪」への長き闘いの物語。
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Posted by ブクログ
なるほど…改めて、こういう事件、こういう経緯だったのですね… こちら、丁寧に取材され、読みやすくまとめられた、労作だと思います。しかし、どう検察寄りに見ても「疑わしきは罰せず」に反しているとしか思えず、それどころか袴田さんが犯人には思えないにも関わらずここまでたどり着くのに58年もかかったとは…
Posted by ブクログ
事件発生後、約60年経っての無罪判決。捏造が指摘された5点の衣類。真犯人は誰だったのか。事実解明のために与えられた捜査権限。警察はその使命を放棄していた。無実の心証を持った1人の判事。それでも死刑判決を書かねばならず、生涯苦しむ。無罪放免となるはずの再審決定と釈放。しかしその確定まではなおも11年を要した。その間、一度の再審棄却さえあった。…優先するのは正義よりも面子。機能していない法の番人。危うい法治国家。閉鎖性と独善性。強大な権力の中に宿る病理。皆がもっと注視しなければ、更なる暴走を招くであろう。
Posted by ブクログ
2025.09.02
これは再審無罪確定前までの袴田事件についての端的なルポ。良作。
まず、国家権力は本当に恐ろしいということ。正義や真実といった「美しい」フレーズは拘置所に合法的な手続きで収容されている死刑囚本人にとっては何の意味もないという冷徹な現実。
自分だったら狂気に陥らないという自信は全く持てない。
しかし、このルポでさりげなく書かれている他の冤罪事件についての言及はいただけない。なんでもかんでも本人が認めないと冤罪としてさらっと書いている。少し、筆致に冷静さを欠く。
人殺しまではしないと自分を信じているワタシのようなフツーの人が参考にすべきは、81頁から取り上げられている「大石さん」の事例。そもそも冤罪なのか大きな疑問を持つが、それは別として、他山の石とすべきは、この人の裁判所における振る舞いである。詳しくは読んでみてほしいが、自分がいくら正しくても、無実でも、裁判官に向かって「ケンカ」をうる態度は何にも良いことにつながらないということ。自分の「正義」からは正しい振る舞いでも、それがもたらしたものは、8年の実刑。
私の個人的には参考になったが、この被告人のエピソードを冤罪であるとして盛り込むことで、冤罪が安っぽくなっている。だから星5つはムリだった、
Posted by ブクログ
確定死刑囚のまま釈放され、無罪を求めた再審の判決が間も無く出る。歴史的な冤罪事件となることが確実視される袴田事件。警察による自白の強要と証拠の捏造、面子を守る為に法の精神を踏み躙る検察。歪んだこの国の司法制度が生み出した惨劇。袴田氏本人や姉ひで子さんに尊敬の念を抱くと共に、国家権力の横暴に激しい憤りと恐怖を覚える。
Posted by ブクログ
袴田事件の裁判を取材してきたジャーナリストの連載まとめ。
無罪確定の直前に出版されたのでもうじき結論が出るよというところで終わっている。
新聞などで細切れにみてきた内容なのでだいたい知っていることが書いてある。だけどまとめて読むことでひどさがよくわかる。
拘禁反応で袴田巖という人格を捨てて、それでも邪神になって世界を呪うのではなく誰も冤罪被害に遭わないように嘘のない社会を守る神として振る舞う。なんてまっとうな人なんだろう。
「袴田事件なんか元々ありゃせんだで」と袴田さんはいう。
一家4人殺害事件が「袴田事件」になってしまったことで人生を狂わされた人は袴田巖さんだけじゃない。
姉のひで子さんはもちろん、息子の死刑判決のあとしばらくして亡くなった両親、無罪を信じた家族、まだ幼かった息子さん。
警察が親切に教えてくれた通りに証言して冤罪に加担してしまったことを悔やんだ金物屋さん、無実を確信しつつ死刑判決を出さざるを得なかった熊本典道裁判官。
この本の中では詳しく触れられていないけど殺害された一家の生き残った娘(故人)さんの遺族は再審の意見書で「まず何よりも第一に、尊い命を奪われた4人の被害者がいることをどうか忘れないでほしい、真実を明らかにしていただきたい」と書いていた。
本来の事件の被害者や遺族も、冤罪事件の犠牲になっている。
検察の再審に対する姿勢、結審後の「謝罪」をみると、当時の科学捜査が未発達でとか戦後のゴタゴタでとかいう理由じゃない。
もっと根本的なところに原因があるし、それを防ぐしくみが必要なんだと改めて思う。