あらすじ
九州北部にある人口三百人ほどの星母島。子どもについての願い事なら何でも叶えてくれるという「母子岩」があり、近年有名になっている。そこで〝モライゴ〟として育てられた千尋は、一年前に戻ってきて、託児所を併設した民宿を営んでいた。子どもにまつわる様々な悩みを抱え、母子岩のご利益を頼りやってきた宿泊客に、千尋は淡々と為すべきことを為し、言うべきことを言う……。簡単な癒しではない、でも大切なことに気づかせてくれる、宝物のような小説。
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Posted by ブクログ
九州にある星母島。託児所付きの民宿が舞台。
そこに泊まりに来る客たち。皆んな事情は違えども「子供」との関係に悩んでいる。
夜寝ない、育てにくい子、敏感な子、癇癪、喋らない…などなど
子供を自分の天使のように思い過ぎる毒親…
現在3歳1歳子育て中の私は、出てくる親たちに何度も共感し、痛いほどわかる苦しみに少し泣きました。
「親になったからって急に別人になれるわけじゃない」
「板の間で良いから大の字で1時間寝たい」
「子供が嫌いなわけじゃない。可愛くて仕方がない。この感情に名前はつけられない。だって子供を産むまで知らなかった感情だから」
あーーーわかる。泣
民宿の千尋、麦生、政子さんがあまりにも大きな器で子供を包んでくれるから、一瞬自分がダメに感じてしまいそうになるけれど、
この本のすごいところは、綺麗事はひとつもないところ。
なんというか、民宿の全員のことを信用できてしまう。本当にこの民宿があったら、私も絶対行きたい!そう思ってしまうほど、読み終わる頃には皆んなのことが好きになっています。
「子供を産んでも産まなくてもその人の価値は変わらない。やったことがないからわからないでしょ?という人は嫌い。」
「みんなの話は聞いてません。私とは違う」
そう言い放った千尋はかっこよかった。
Posted by ブクログ
連作短編集のタイトルでもある「彼女が天使でなくなる日」。
彼女というのが宿泊客だったのが違和感だったけど、ラストで「神は絶対であり、その神に仕える天使は善であり、対抗しうる力を持つものは悪とされる」ということを踏まえて「天使になどならせてはいけない。誰ひとり」になるんだな。すごい仕掛けだ。
理津子が民宿えとうみたいな場所を作る話も読みたいな。
途中で出てきた蜂蜜は「今日のハチミツ、あしたの私」の蜂蜜かな?他は気付けなかったけど、こんな仕掛けがあるなら理津子さんの話もある気がしてしまう。
「倦怠期真っ最中の恋人に抱かれながら昔の恋人を想う女のように、からあげを咀嚼しながら寿司と刺身のことを考え続ける。からあげのことは好きだし長い付き合いだが、今いちばん会いたいのは寿司と刺身なのだ」
やはり寺地さんの文章は素晴らしい。
Posted by ブクログ
寺地はるなさん3作目。
その中で1番良かった。
ずけずけ常識や普通に異を唱える千尋の心に刺さる言葉や、見事だなと思う表現がいくつもあった。
特に心に残ったのは
「多くの人は友達を良いものだと思い過ぎなんじゃないでしょうか。そうでもないことをあなたが身をもって証明してくれています。」
私も破綻したけど、ずっと引っかかる友達関係があって、麻奈のようにその子を親友と思い続けてきた長い期間が過去にあったからすごくモヤモヤしていたが、それを客観的な視点で見れてなんだか少しスッキリした。
もう一つは、
「願うだけなら誰でもできる。願いは全ての種子だ。種子がなければそこから芽を伸ばし、葉を広げることもできない。枝を沿うようにして、世界は広がっていく。そこでふたたび蒔かれた種子が、また新たな誰かの世界を広げていく。」
という表現。
タイトルの意味について考察してみた。私なりの解釈では、千尋が言っている彼女が天使でなくなるというのは、子供が自分で自分のためになる道を考え、その考えを行動に移して自立することではないかと思う。