【感想・ネタバレ】ベル・ジャーのレビュー

あらすじ

わたしはぜんぶ覚えている。あの痛みも、暗闇も――。
ピュリツァ―賞受賞の天才詩人が書き残した伝説的長編小説、20年ぶりの新訳。

優秀な大学生のエスター・グリーンウッドはニューヨークのファッション誌でのインターンを勝ち取ったとき、
夢がついに叶うと信じて喜んだ。しかし、退屈なパーティー、偽善的に感じられる恋人、
空虚なだけのニューヨークでの生活に違和感を覚え、世界が支離滅裂なものに感じられる。
そして、とあることをきっかけに精神のバランスが徐々に崩れていく。

世の中は欺瞞だらけだと感じる人、かつてそう思ったことがある人たちに刺さりつづける、
英米だけで430万部以上を売り上げた世界的ベストセラー、待望の新訳。
海外文学シリーズ「I am I am I am」、第一弾!

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Posted by ブクログ

ネタバレ

優秀な奨学生エスター・グリーンウッドは雑誌社のインターンに選ばれ、マンハッタンにやってきた。しかし社会の厳しさや不条理に触れ、純潔に見えたボーイフレンドは実はそうではなくてモヤつき、ライティングコースにも選ばれなくて将来の設計図がぐらつき、自殺を図って精神病院に入れられる。後半は精神病患者の目から見た周囲の人々や病院の様子が、『赤い花』とかそういう作品と重なった。優秀な女子学生の挫折と、死にたくても死にきれない気だるさと、将来への不安と絶望感を感じた。
訳者あとがきに、この作品の舞台である1953年アメリカは、ソ連のスパイとされた民間人が電気椅子で処刑されることがセンセーショナルに報じられた時代であり、女性差別や人種差別、同性愛者への差別などが入れ子構造で根強く残っていた時代だと書かれていた。精神病を治そうとして脳に電気を流すショック療法がエスターに施される様子や、その失敗からエスターがショック療法をトラウマ的に拒否する様子が描かれているけれど、結局電気椅子もショック療法も同じで、社会から異端とされた人には電気が流されて、その人を排除したり「普通」に戻そうとしたりするってことよね。そしてこの社会で貞操を守り、夫である男を盛り立てて赤ん坊を産むことが理想的かつ一般的な女性のあり方とされる中で、処女のエスターは産婦人科で避妊具をもらって初対面の数学者と関係を持つ。女子奨学生で、精神病院に入院していて、子供を持つことを拒否するエスターはこの社会のアンチであるように見える。生きていたくないのに、首を吊ろうとしても気が遠くなれば首を絞める力は緩むし、溺れようとしても力を抜けば浮き上がってしまう。社会に異端とされながらも人生からはなかなか逃げられない。
ベル・ジャーは、十五章に「ガラスの鍾」のふりがなで出てくる。常に彼女はベル・ジャーの中に座って、すえた自分の臭いをかぎながらくよくよ悩む、ということで、彼女を閉じ込めている自意識であるだろうし、あるいは「ガラスの天井」のような、彼女が囚われる見えない鳥籠でもあるんだろうか。ベル・ジャー自体は実験などで使われる上から被せる形のガラスの容器ということだけれど。エスターは幾度かのショック療法を経てこのベル・ジャーから解放されるというから、「正常」になれば解放されるものなのかもしれない。
「ベル・ジャーの中で、死んだ赤ん坊みたいに無表情で動かなくなった人間にとっては、この世界そのものが悪い夢だ」
そういえばエスターが医学生の恋人バディのもとで、瓶に入れられた胎児(ホルマリン漬け?)をいくつもみる場面があったけれど、エスター自身がその胎児に重ねられているのか。医学生が検体や瓶詰めの胎児を雑に扱うように、社会の中で物のように尊厳なく扱われているしその程度の価値しかない(と自己認識している)対象(オブジェクト)としてのエスター。
バディと一緒に出産を見届けた女性はトモリッロという名前だが、精神病院で隣のベッドに来たのもトモリッロさんで多分同じ人なんだろう。彼女は我慢ならない姑が訪ねてきたことで「めちゃくちゃになって」精神病院に収容されたと語るが、エスターが自殺未遂者だと知ると彼女を無視し始め、医者に頼んで二人の間に白い隔てのカーテンを引く。トモリッロさんは生を絶対善とする「ザ・女」であり、エスターのネガ(いやポジ?)的な対極な存在なんだろうけど、二人ともが精神病院にいるのって男性社会において象徴的、ただトモリッロさんはすぐ退院したのかベッドは空になって次の患者が入っている。

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2025年07月28日

Posted by ブクログ

ネタバレ

1960年代に書かれ、すでに一度邦訳されているアメリカの小説。昨年(2024年)、この新訳が出版され話題になっていた。
1950〜60年頃のアメリカ文学には、時代を超えて読まれてきた有名な作品も多いが、個人的には少し苦手意識がある。それは、社会に適応しきれない若者の肥大した自己意識を、どこまでも一人称の自分語りで書き連ねていくようなタイプ。この小説もまさにそんな作品だった。文中(原文)に出てくる「I am, I am, I am...」という象徴的な一節は、この訳書を第一弾とする海外文学シリーズのシリーズ名にもなっている。

社会の入り口に立って精神のバランスを崩してしまった女子大学生が主人公。見えないベルジャー(ベル型のガラスの蓋)に閉ざされてしまった彼女の心情と、その目に映る周囲の出来事がヒリヒリするような筆致で描かれる。随所にみられる文学的に美しい表現に心惹かれたが、決して読み心地のいい小説ではない。自傷行為や希死念慮の具体的な描写もあり、現に今、精神の状態のあまり良くない人には、読むのをおすすめできないかもしれない。それほど真に迫る力がある。それでも最後に希望がみえるのが救い。

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2025年07月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

書くことで選ばれたのに書けず、恋人へも不信感がつのり友人とも距離を感じ、勉強にもついていけなくなり、という負のスパイラル。お決まりの自殺未遂に精神病院へのコース。読んでいて辛くなるような内面の吐露。この閉塞感がこちらにも伝わってくる。読んでいて嫌な気持ちになるのはそればかりではなく、主人公が他人に対しての容赦ない蔑視が堪らなかった。

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2024年12月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

感想
すべて受け入れると言ってくれた人。包んでくれたはずの人。あの人たちはもういない。だけどせめて感謝だけは忘れずに。前を見て。

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2024年07月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

詩人プラスの最初で最後の長編小説。後半、主人公が感じていた息苦しさや痛みに共感できたとは言えないけど、彼女が死に引き寄せられていく様子は、読んでいて辛くなった。若い頃に読んでいたら、受け取り方がかなり違ったのかもしれない。
フィクションとノンフィクションの間、、、

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2025年03月11日

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