あらすじ
芥川は殉教者の心情や、東西の異質な文化の接触と融和という課題に興味を覚え、近代日本文学に“切支丹物”という新分野を開拓した。文禄・慶長ごろの口語文体にならったスタイルで、若く美しく信仰篤い切支丹奉教人の、哀しいが感動的な終焉を格調高く綴った名作「奉教人の死」、信仰と封建的な道徳心との相剋に悩み、身近な人情に従って生きた女を描く「おぎん」など、11編を収録。(解説・小川国夫)
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近代日本文学の面白さのひとつが、東洋と西洋の文化のぶつかり合い、そこから発するところを知ること。
鷗外や漱石もその文脈から読み解くと面白いし、そのスタンスは各々特徴がある。
また、白樺派や社会主義者もキリスト教の影響を受けているが、宗教として定着したかは疑わしい。
芥川龍之介のこの短編集は上記にある時代背景から、テーマを切支丹物とし描く。ただ、キリスト教の良し悪しきを問うものではなく、且つ一方的な視点から描いているものでもない。読者側の解釈が求められるので、それが面白い。
芥川龍之介自身は、聖書を常に身近に置いていたようだ。彼にとってのキリスト教がどのような位置づけにあったのか、これはもう少し深掘りしてみたい。
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芥川の代表作と言えば、一般的には『羅生門』、『地獄変』、『河童』などが取り上げられることが多い。しかし、私は芥川の最高傑作は『奉教人の死』だと思う。著名な小説家のうちで、この作品を高く評価したのはノーベル賞作家の川端康成である。川端は、この作品を「多くの人に愛される美しい作品である」と評価している。この作品の魅力は、なんと言ってもその物語性である。また、『天草本平家物語』の文体に倣ったその文章は、芥川以外の誰も書くことができないものである。これは、芥川の実力のすべてを出し切った、だれもが感動するであろう傑作短編小説である。
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奉教人の死
(和書)2010年04月30日 20:17
1968 新潮社 芥川 龍之介
坂口安吾の切支丹ものは面白かったけど、芥川竜之介の切支丹ものも相当面白かった。
これはいいね。
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収録:「煙草と悪魔」「さまよえる猶太人」「奉教人の死」「るしへる」「きりしとほろ上人伝」「黒衣聖母」「神神の微笑」「報恩記」「おぎん」「おしの」「糸女覚え書」
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芥川の切支丹ものといえば有名なジャンル。読んだことのない私はてっきり「耶蘇教っていいよね!」みたいな感じな話かと思いきや、思い切り・ある種痛快に異教を皮肉っている感じがしました。「おしの」なんかそんな感じ。でも「奉教人の死」や「きりしとほろ上人伝」とかは純粋に感動できる。でも何といっても秀逸なのは「神々の微笑」でしょう。芥川よくぞこれを書いた!と日本文化(というか、何でも取りこんでしまう日本の風土・風習)が好きな私は少し嬉しくなりましたよ。
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煙草と悪魔/さまよえる蕕太人(ゆだやじん)(世界滅却の日)/奉教人の死/るしへる/くりしとほろ上人伝/黒衣聖母/神神の微笑(これすごく好きや…!)/報恩記
>表題の作品はもうどうしたらいいんだろう。神神の微笑がだいすきだ。黒衣聖母のあの美しい悪意をどうしたらいいのか。
芥川アアアア!(20060709)
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芥川さんの文章が好き。今は漢字も少なく会話多めですいすい読めるものが主流ですが、芥川さんの作品は、熟語や言い回しが丹念に練られていて、華美になることなく、かつたっぷりと表現されていて、1ページに詰め込まれた「内容」の密度が素晴らしい。それでいて難解ということもない。ペルシャ絨毯みたいな緻密さだけど、素材はウールじゃなくて麻でスッキリ、みたいな。
この本は、芥川さんの作品のなかでも比較的ライトな(?)ラインナップなので、重たすぎず、繰り返し手に取りたくなる。日本語の魅力が詰まっていると思います。
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悪魔の賭けと煙草の伝来を描いた「煙草と悪魔」、題の通りさまよえるユダヤ人当人の語った話を描いた「さまよえる猶太人」、「ろおれんぞ」と呼ばれる少年がキリスト教寺院を追われ薨るまでを描いた「奉教人の死」、悪の権化として単純に描かれがちな悪魔の奥行きを描く「るしへる」、「強い者に仕えたい」と考え、高名な王、王が恐れる悪魔を経て主上へとたどり着く山男の「きりしとほろ上人伝」、黒衣の観音像とそれに纏わる親子の祈りの話を描く「黒衣聖母」、キリスト教の伝来を阻害あるいは侵食しようとする日本の神々の攻防のさまを描く「神神の微笑」、大泥棒の恩返しと、更にその恩に報いる男の「報恩記」、洗礼を受けた少女と養父母の信仰的転落を描く「おぎん」、息子の病の治癒を求めて神父を訪れた女の心変わりを描く「おしの」、細川ガラシャの最期を描く「糸女覚え書」を収録している。
いずれもキリスト教の伝来に伴っての伝説、また信者の興味深い話について描かれたもので、時折古風な文体に苦労させられつつも楽しく読めた。しかし、表題作「奉教人の死」のオチについては、現代的価値観によるものではあろうが、「ろおれんぞ」が隠し通したかったであろう秘密を、その身体性とともに暴いている様子にやや不快さを覚えた一方で、話としては確かに面白く、複雑な腹立たしさを感じた。
細川ガラシャに興味を抱いていたため、「糸女覚え書」については、その内容の壮絶さはさておき面白く読めた。
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長崎旅行を前に、長崎切支丹を描いた「奉教人の死」と「おぎん」の短編を読むために手に取りました。芥川の切支丹物を集めた短編集です。芥川がキリスト教に対して思う本音が垣間見えて、どの作品も面白く読みました。文体が古い物は難解ですが、諦めずに読んで良かったです。表題の面白さは格別でしたが、脇の教徒たちの冷酷さ愚かさに「宗教って何だろう」とその意味を熟考したくなります。讃えられることの多い細川ガラシャを、侍女の立場から激しく罵倒し皮肉っている「糸女覚え書」は笑ってしまいました。面白かった。
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芥川龍之介の、キリシタンの話をまとめた本。基本的には信心深い方が出てくるのですが、それ故の大きな葛藤や苦難、献身、棄教など、とてもスケールの大きな話が詰まっています。悪魔なども出てきてファンタジックな所も。実際の資料半分創作半分などを、わざと古語体にして実話の様にしたり、資料を混ぜ込んできたり、構成も凄く巧みだなぁと感心するばかり。物語調の物も多いので、日本、正義、誠実さ、など、幅広い事に関する寓話もとても深みがあった
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「切支丹もの」短編集
「煙草と悪魔」
神と悪魔がワンセットで日本に来る話
おかげで人生の悩みが増えました
「さまよえる猶太人」
イエスの呪いをある種の特権としてむしろ誇らしげに語る男
しかし彼が最後の審判で天国の門をくぐれるという保証はない
「奉教人の死」
人間はおろかでみにくい存在だが
神の使いはそんな人間のために身を投げ出すという話
「るしへる」
神に仕えるのがバカバカしくなってしまった人の話
ある意味「奉教人の死」と相対する内容
「神々の微笑」
ぬかみそのような日本文化
「報恩記」
善意の交換がなぜか憎しみを生む
「おぎん」
無知は罪か
「糸女覚え書」
細川ガラシャについての創作ゴシップ話
神に祈ってる間に事態がどんどん悪化する
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キリスト教を主題とした短編数編。キリスト教伝来時の日本人と宣教師の姿、キリスト教の本質、日本人の宗教観がそこに垣間見える。芥川氏独特の悪魔の定義が面白い。悪魔なのに人間味があるというか・・・。
「悪魔が日本にタバコをもたらした」という説を小説風に仕立てた短編や、悪魔の言い分を書き上げた短編など非常に読み応えがある。明治、大正という時代背景を考えると、芥川氏こそが近代文学の萌芽であると言えるだろう。
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奉教人の死。
小学校のころに朝読があり、そこではじめて読んだかな。
内容も素晴らしいが、語り手に力量があればここまで小説は昇華される。
そんな一例。
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思いがけず面白かった!一編が10~20ページ台の短さな上、文章が現代風で、教科書に載っているような古典的なイメージとは違いました。
聞き語りや小説、記録調など形を変えて語られる「切支丹物」。
作者が書く人間の感覚、鋭くも皮肉に、また斜めからも切り込まれるような文章の力に引き込まれました。言葉への注解が多いが、いちいち巻末を見なくても流れで理解できるし、細かいことをあまり気にせずに読んでもいい。
切支丹や宣教師を扱っているというのに、逆に強く「日本」を浮き彫りにさせるものが多いです。
目当ての『神神の微笑』も期待以上の面白さだったが、表題作の『奉教人の死』や『煙草と悪魔』『黒衣聖母』『おぎん』『おしの』など、他の作品も意外なほど楽しめた当たり本。
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煙草と悪魔 11/21
さまよえる猶太人 11/22
奉教人の死 11/21
るしへる 11/22
きりしとほろ上人伝 11/23
黒衣聖母 11/22
神神の微笑 11/21
報恩記 11/22
おぎん 11/4
おしの 11/5
糸女覚え書 10/23
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芥川は殉教者の心情や、東西の異質な文化の接触と融和という課題に興味を覚え、近代日本文学に“切支丹物という新分野を開拓した。文禄・慶長ごろの口語文体にならったスタイルで、若く美しく信仰篤い切支丹奉教人の、哀しいが感動的な終焉を格調高く綴った名作「奉教人の死」、信仰と封建的な道徳心との相剋に悩み、身近な人情に従って生きた女を描く「おぎん」など、11編を収録。"
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芥川の「切支丹物」作品集。「煙草と悪魔」「さまよえる猶太人」「るしへる」「神神の微笑」「おぎん」が面白い。実存が信仰を決断しそれを意味あるものたらしめるのだろうか。或いは、信仰そのものが信仰に報いるのだろうか。実存が信仰に意味を与えるのか、信仰の中で実存は意味を与えられるのか。実存/信仰、個人/神。難しい問題だ。