あらすじ
芥川最晩年の諸作は死を覚悟し、予感しつつ書かれた病的な精神の風景画であり、芸術的完成への欲求と人を戦慄させる鬼気が漲っている。出産、恋愛、芸術、宗教など、自らの最も痛切な問題を珍しく饒舌に語る「河童」、自己の生涯の事件と心情を印象的に綴る「或阿呆の一生」、人生の暗澹さを描いて憂鬱な気魄に満ちた「玄鶴山房」、激しい強迫観念と神経の戦慄に満ちた「歯車」など6編。(解説・吉田精一)
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Posted by ブクログ
芥川は「河童の世界」を通じて痛烈に日本のありさまを問うてきます。
ひとりひとり(一匹一匹?)の河童がなんと個性的でユーモラスなことか。そして、なんと不気味なことか・・・。
これが芥川龍之介の決死の抗議、人生最後の警告の意味も込めての作品だったかと思うとぞっとします。彼はこの作品の発表後一年も経たずして自殺してしまいます。
芥川龍之介の死から間もなく100年になります。ですが100年経っても芥川の作品は決して色あせません。文学の力は連綿と今を生きる私たちに受け継がれています。
Posted by ブクログ
「ある若い狂人の話」だと思って読み進めると、あまりの描写の緻密さと精巧さに「この人は本当に狂人なんだろうか」と疑問を持ち、最後には何が虚構か真実か分からなくなりました。流石としか言いようがない。藪の中と少し似た読後感でした。
Posted by ブクログ
高校生のときに読んだ本。
芥川、最後の作品ではないだろうか?
当時はなぜ彼は死を選んだのか?手がかりがあるような気がしたが、作風は彼らしく物語調にまとめられていた記憶
”ぼんやりとした不安”のフレーズが頭に残っていて、
自死を選ぶ人にも明確な理由がないことも多いのかもしれない。逆に生を選ぶ人にも明確な意義を確信しているのは少数派な気もする。
彼ほどに頭のキレるひとでも、劣等感や不安感がつきまとうのは、いかにも人間感あふれる作品であった
Posted by ブクログ
芥川龍之介最晩年の苦悶の短編集。こちらの気持ちが下降気味だと引きずられてしまう。
何故そこまで死を希望したのか、理由は幾つか読んでみたけれど、本当のところはわからない。ただ、相当な遅筆だった事、スペイン風邪に2度かかり、2回目はかなり重症だった事は、今回知った。
たぶんこの本はもう読まないと思うので覚書です。
「大導寺信輔の半生」
芥川の半自伝的小説と言われている。精神的風景画として6章からなる。未完らしい。
本所 出身地への嫌悪・恨み
牛乳 母乳への憧れから牛乳への嫌悪
母親は身体が弱く信輔に母乳を与えず
貧困 幼児期の貧困への嫌悪・敵意
学校 中学校での孤独 規則への嫌悪 教師への
敵意
本 小学生から本を愛すが、貧困の為欲しい本を
手に入れる事に難儀する。物語の中に転身
する。
友だち 頭の良い人・頭脳のある人を好む。
社会的階級の差別に壁を感じる。
芥川の作品が高尚であるので、それと決めるには難しいけれど、資金的な悩みは大きなものだったのかもしれない。
「玄鶴山房」
この家の主人玄鶴は結核で、もう最期は近い。その家族と看護師の平穏を装う生活の中での心理描写。
『家政婦は見た』を何故か思い出しちゃったよ。
その心理戦が、凄く好きでした。
この頃、芥川は義兄の借金をも背負い込み、困窮を友人らに訴えていた。
「蜃気楼」
たぶん芥川本人が、鵠沼の海岸を散歩する。蜃気楼は見えず、水葬の亡骸を見つける。ただ、それだけなのに、全体的に暗鬱な感じ。
「河童」
物語は精神病患者の思い出話として語られる。河童の国に迷い込み、そこでしばらくの間生活する。河童の国は社会が成立していて、そこでの出来事の描写が現実社会への批判になっている。出産や結婚については、なかなかシビア。胎児が産まれたくないと答えればそこまでとなる。同胞を食用にしたりする。人間社会に戻ったその患者は、再び河童の国に行くことを望む。
で、芥川の命日は『河童忌』。
「歯車」
歯車は偏頭痛が始まるサインのように「僕」の視界で回り始める。これはちょっとわかる。頭痛が始まるサインって人それぞれだけど、私は首の辺りで音がする感じ。
物語の始まりにホテルが出てくる。そのホテルに幽霊が出るという。その辺りの描写は、村上春樹の『ダンスダンスダンス』と重なった。
結局、幻想とか妄想が語られていて小説ではない感じ。何かを誰かにわかって欲しかったのかしらね。
「或る阿呆の一生」
自殺後見つかった51の項目からなる作品。
自身に関係した物事について、端的に回想している。ラストは敗北。
こんなに冷静な文章を書けていたのに、何故、死を選んだのか。もう作家として文壇で認められていたのに。書けば、売れる。が、かなり推敲するタイプだったので沢山書けない。収入は増えない。家族は増える。女性にモテてしまう。
もう少し、中期のような作品を書いて欲しかった。