【感想・ネタバレ】過去と思索(三)のレビュー

あらすじ

ニコライ一世治下のロシアはその帝政史上,言論統制の最も厳しい時代だったが,皮肉にも,思想の世界には稀に見る豊穣な果実をもたらした.「西欧主義」と「スラヴ主義」という二大潮流が生まれたのである.流刑先から戻ったゲルツェンは,両者の間で繰り広げられた激しい論争で,主役の一人であった.(全七冊)

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Posted by ブクログ

ゲルツェン回想録第3分冊。
全8部にわたる原作の第4部、全62章のうち第26〜33章にあたる。
最初の流刑から解放されモスクワに戻った後で、ペテルブルクに移ったところから。

要点は、当時の彼の周囲の友人知人、つまり所謂19世紀ロシアインテリゲンツィアと呼ばれる思想家たちが、どのような議論を重ねたかと言う点だ。
「西欧派vsスラブ派」という大まかな構図は言わずもがなだが、
西欧派の中でのさらなる個人間の解釈の違いなどが事細かく書かれている。
巻末解説のお力添えも大きく、当時の熱い議論の様子が、完全にとはとてもいかないが、それでもいくらかは捉えられたように思う。

例えばチャアダーエフとグラノーフスキーはともに「西欧主義」と呼ばれる思想であったが、
かたやチャアダーエフが西欧カトリックとの同化を主張したのに対して、
グラノーフスキーはヘーゲルからの影響が顕著で、より民族的な視点を重視する。

熱い議論を面白く読める一方で、ゲルツェンの貴族思想は読むに従って強く感じられ、自分にはその違和感が強まるという側面もある。

教養や仕事の技術・技能的側面への徹底(p140)、
身分や教養の違う結婚への批判的視点(p406 )など、
彼の頭の中はどこまでも貴族主義だ。
しかもゲルツェンの家系はロシアの貴族の中でも特に位が高い。

農民に希望を見いだしながら自身は貴族であり、農民は理想のなかのそれであって現実は見えていない、というのはロシアインテリゲンツィアに共通の特性である。
一方でゲルツェンは、トルストイのようにそのことに苦悩はしておらず、流刑や監視を受けつつもその貴族生活を息をするように謳歌している。

今後の展開でその点がどのように変化するか或いはしないのか、楽しみである。

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2026年08月16日

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