あらすじ
ナポレオン侵攻前夜にモスクワで生まれ,「パリ・コンミューン」前夜にパリで没したアレクサンドル・ゲルツェン(一八一二―一八七〇).近代史のこの転換期に「人間の自由と尊厳」の旗を掲げてロシアから西欧へと駆け抜けた,一人の亡命者の壮烈な人生の幕が今開く.第一分冊は生い立ちから政治に目覚めた青年時代まで.(全七冊)
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Posted by ブクログ
19世紀ロシアの思想家、アレクサンドル・ゲルツェンの回想録である。
1852年、ゲルツェン40歳のとき、亡命先のロンドンで、妻の死を機に己の来し方を振り返る。
19世紀ロシアは極めて不安定かつ複雑な状態にある。
ロマノフ王朝による圧政、
過酷な農奴制、
前世紀ピョートル大帝時代からの西欧文明への憧れと劣等感(=サンクトペテルブルク的西欧派)、
ロシアの伝統への愛着と後進性への嫌悪感(=モスクワ的スラブ主義)、
ナポレオン戦争を機に芽生えた貴族と農民の身分を超えた連帯、
変わりゆく周辺国と革命への予感。
この多層的な世紀に於いて、
その矛盾ある社会のあり様を変えたいと模索した貴族の青年たちが、所謂「ロシアインテリゲンツィア」と呼ばれる人々である。
ゲルツェンはその筆頭と言うところ。
全七巻と長い回想録ではあるが、彼の緻密な描写をもってこの19世紀ロシアを描くには、必要なボリュー厶であろう。
本書に限らずこの期間のロシア史全般について、自分の関心として二点ある。
まず一つは、
ロシアの歴史が20世紀の社会主義体制に辿り着く道筋、
そしてその体制が崩壊した今後辿る展開、
というところに注目している。
ゲルツェンは宗教(ロシア東方正教である)には比較的否定的であったが、
ロシアの農村共同体と正教の教えなどは不可分と思われるし、
個より全体を重んじる価値観は、20世紀の社会主義体制のずっと前からそこに存在したものである。
この点も含め、ロシアがはたしてヨーロッパなのかアジアなのか、と言うところも興味深い。
もう一点は、自分の写し鏡としてである。
ゲルツェンをはじめとするロシアインテリゲンツィアと呼ばれる人たちには、深く共感するところがある。
この第一巻を読んでも、幼い頃の教育方針など、思い当たるところがある。
一体何故自分のパーソナリティに19世紀ロシアとの共通点を見出すのか。
ごく個人的な興味ではあるが、読み進めることで理解したいと思う。
ロシア史は、知れば知るほど興味を刺激して愛着を感じさせる。
現代日本でこの名著を読めることは幸福であり、編集者と訳者の皆様に感謝しかない。