あらすじ
罪を見つめて、人を憎まず――その男、服部惣十郎
浅草の薬種問屋で火事が起き、二体の骸があがった。定町廻同心の服部惣十郎は岡っ引の完治らを使い犯人を捕らえるが、医者らしき指示役の足取りは掴めない。一方、町医者の梨春は惣十郎の調べを手伝う傍ら、小児医療書を翻訳刊行せんと奔走していた。浮世を騒がす事件の数々を追ううちに、惣十郎がたどり着いた驚愕の真実とは。
一人のかすかな心の揺れが、大事を引き起こすこともある。
信じるもののため、それぞれの場であがく先に正義はあるのか――
【読売新聞好評連載】
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
お江戸人情捕物噺…鬼平犯科帳等あまたの傑作を生んだジャンルで、最早出尽くしていると毎度毎度思いつつ、このジャンルからまたしてもとんでもない傑作が生まれた。
まずキャラクター設定が、とにかく絶妙に上手い。シリーズ物で何作も出てきたような個性の味付けを最初からきっちり纏わせるのは相当な力量だと思うのだが、主要登場人物だけでなく結構な端役にまで、その個性を間とさせているのだからすごい。
と書くと、キャラの魅力で読ませる小説かのようだが、それだけではない、ストーリー構成も抜群に上手いのだ
薬問屋の火事に始まる物語は、霊感商法詐欺事件などいくつかの事件を解決していく描写を追いかけていくうちに、当時では絶望的な大病「疱瘡(天然痘)」の治療法や予防法を巡るミステリーとなり、水野忠邦の改革で居心地が悪くなる江戸世相に相まって歴史社会小説と化していく、その化けようが実に巧く築きあげられていて、読み進んでいくときの高揚感というか中毒性がすごいのだ。
疫病、不景気に失政、あらぬ噂に踊らされ小さな失敗で世間に疎まれていく人々、介護問題、…コロナとSNSと無能政治に苦しんでいる今の俺たちにとって他人ごとではないという親近感もあるから余計にのめり込む。
550Pと分厚く、活字も小さめで物量的には読み応えがあるが、文章が上手くて波に乗れたら読みやすいし、考えさせられる言葉や挿話も盛りだくさん。
彼らの活躍をもっと読みたいし、片付いてない恋物語もあるし、是非と続編を読みたいぞ!
Posted by ブクログ
HKさんのおすすめ。
下手人をあげることよりも、手柄を立てる事よりも、
自分がひっかかった何かを追い続ける同心惣十郎。
薬問屋での火事で死んだ二人のうち、
番頭は火事の前に殺されており、主人は別人の疑いがあり、
挙動のおかしい手代に目をつける。
怖がりで人を疑うことを知らない小者と、
元巾着切りで人を見る目のある岡っ引きの二人を使って、
ひとつづつ謎を解いていく。
惣十郎の妻が病死したことは、
あくまでも主人公のサイドストーリーであり、
本筋の薬問屋の殺しや種痘に関わってくるとは思っていなかったので、
もっと面白いと思ってもよいはずなのだがどうもすっきりしない。
それは登場人物の輪郭線がちょっとぼんやりしているせいかとも思ったが、
老いが進んでいく惣十郎の母、
惣十郎にひそかに思いを寄せている出戻りの下女、
家族をみな流行り病で亡くした蘭方医、
惣十郎の義理の父親、そして惣十郎自身と
登場人物が誰も幸せになっていないからだと思う。
能天気なハッピーエンドを望んでいるわけではないが、
誰かは幸せになってほしかった。
浮世とはそういうものだと言われてしまえばそれまでなのだが。
Posted by ブクログ
キャラが良い。お雅のこじらせ具合がかわいい。惣十郎が愛妻家でなかったのが意外。それぞれ良かれと思っての行いが裏目に出たり的外れだったりなストーリーだった。
Posted by ブクログ
新刊紹介の評判がよくて購入したのが昨年7月。少し読んで擱いてしまった。話の流れについていけなかったのと、町医者・口鳥梨春がありえないぐらいの善人だったからだろう。興ざめしてしまいそのままにしたように思う。
今回、急に入院することになってしまい、いくつかの本を持ってきた。気になっていたこの本もその一つ。コロナ禍で大変だった世情を反映してか江戸末期の天然痘が主題として取り上げられているが、蘭学医と漢方医の攻防などが描かれていておもしろかった。また、今でいう認知症の症状をあらわす登場人物もあり時代小説もその時代の影響を大きくうける現代小説なんだなとあらためて思った。
木内昇の小説を読むのはたしか初めてだが美しい文章がちりばめられており今後も読みたいと思う。
小説そのものはNHK連続ドラマの原作に最適でそれ以上でもそれ以下でもなかった。