あらすじ
勤め先の社長夫人の仲立ちで現在の妻お延と結婚し、平凡な毎日を送る津田には、お延と知り合う前に将来を誓い合った清子という女性がいた。ある日突然津田を捨て、自分の友人に嫁いでいった清子が、一人温泉場に滞在していることを知った津田は、秘かに彼女の元へと向かった……。濃密な人間ドラマの中にエゴイズムのゆくすえを描いて、日本近代小説の最高峰となった漱石未完の絶筆。(解説・柄谷行人)
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Posted by ブクログ
(個人的)漱石再読月間の15。
2020年5月2日〜19日。
ラストを飾る未完の大作。
何回も読んでいるのにその度に、「清子と会話する場面までよく生きて書いてくださいました」と思ってしまう。清子が姿を見せ、口を開かなかったらまったく次を想像できないから。
水村美苗『続 明暗』をすぐに読みたいが我慢。
『こころ』が米澤穂信なら、こちらは石持浅海だろう(個人的見解です)
相手の裏を読み合うヒリヒリする会話がたまらない。まあ、津田はだいぶ甘いけど。
せっかく中長編15作品を読み終えたので、短編も一気に行ってしまいましょう。
Posted by ブクログ
漱石の死去により未完となった大作。
勤め先の社長夫人の仲立ちで半年ほど前にお延と結婚し、平凡な毎日を送る津田由雄には、お延と知り合う前に将来を誓い合った清子という女性がいた。
ある日突然津田を捨て、津田の友人・関に嫁いでいった清子が、一人温泉場に滞在していることを知った津田は、痔の手術後の湯治という名目のもと、密かに彼女の元へと向かった…。
これまでの漱石の作品には似ていません。大上段に構えるでもなく、飾り過ぎない筆致で描かれる市井の人々の日常ですが、これが滅法おもしろい。
一応、主人公は津田ではあるものの、彼も数ある登場人物たちの一人にすぎないという点で、かなり相対的に描かれています。
そして、登場人物たちが、強烈な個性をぶつけ合う展開は、ドストエフスキーの小説を髣髴とさせるスリリングなもの。
とりわけ、これまでの作品では恋愛の対象として対岸の存在だった女性たちが、いきいきと、饒舌を振るう様子が、先の予測を許しません。
思うとおりにいかない他人の言動。そのしがらみに絡め取られた津田の葛藤が読者のそれとして迫り来る。漱石最後の小説にして、実は漱石の新境地ではないでしょうか。
Posted by ブクログ
一つ一つの会話に意味があって、心理描写も細かい。登場人物がそれぞれ癖があって、一筋縄ではいかない。
くどいなとか、引っ張るなとか思う場面もあるが、どこか軽妙で飽きない。
津田が清子に会って、これから大きく事態が動きそうなところで終わってしまったのは残念。
Posted by ブクログ
お延が悪いとは思えないので、お秀とやりあった後の夫婦2人のかわした微笑がとても良かったのに、話が思いもよらない方向に向かっていき怒りや苛立ちと共に引き込まれた。
これまでお延やお秀や吉川夫人が所謂女の世界というものを表していたけど、本当は清子が一番厄介なのでは。既に清子のことばかり考えている津田が、この未完の先の結末を表している気がする。それを想像するのも良い。
Posted by ブクログ
日常のたった一瞬で10も15も思いを煩わす事がある。この本は、その一瞬を永遠と書きだした本だと思った。その内容は人情とは異なり利己的な指向で描きだされ、粘着性をおび醜悪さを引き出していた。同時に、人の感情の移ろいやすさ弱さも読み取れ、次の展開をみたいという好奇心も呼び起こした。
読み進めるにつれ、自分の場合だったらどうだろうかと考え、胸を突く文章が何度もあった。読むのに苦労するが、その苦労を押してなお魅力的な一冊だった。・・・途中何度も発狂しそうになったが・・・。
完結しなくてよかった。
Posted by ブクログ
漱石未完の長編。
実は未完だというのは本を最後まで読むまで知らなかった僕。
それくらい先入観なしで読んでいたのがある意味奇跡かも。
漱石の小説は結構すきなのね。
なんかニヒリズムがどの主人公にもあるような気がして、
津田もそういう類の人間だ。
自分が本当に好きな女性と結婚できずに、
堕落をしてあげく親の金が支給されないとなるととんでもないことだと言わんばかりの感じ。
一応真面目な僕からすると働けって。
各々の登場人物が非常に特徴あるように描写されていて、
文章の美しさは三島由紀夫ほどではないけれども、
いつも漱石の小説に惹かれるものがある。
たぶん感情移入しやすいのだろうか。そうでもなければすらすら読めないよな。
結局明暗というタイトルの意味が掴めないまま読み終わってしまった。
だけど、それも読者にゆだねる終わり方なので、
こういう本で読書会すると面白いのかもね。