あらすじ
誠実だが行動力のない内向的性格の須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。愛しながらも彼女を恐れている須永と、彼の煮えきらなさにいらだち、時には嘲笑しながらも心の底では惹かれている千代子との恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます内向的な近代知識人の苦悩を描く。須永に自分自身を重ねた漱石の自己との血みどろの闘いはこれから始まる。(解説・柄谷行人)
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Posted by ブクログ
後期三部作の一つ目。主人公の敬太郎がいろんな人の話を聞いていく話。
もう面白かった‼︎ 最初のほうは「何じゃこりゃ…」といった感じで、なかなか読み進められず、夏目漱石のせっかくの作品なのに好きじゃないわと周りにも言っていたくらい、もう義務感でじりじり読み進めてたんだけど、須永くんとか千代子ちゃんとかの話が出てきたあたりで止まらなくなっちゃって、最終的には読んで大満足の作品になった。須永くんの、なんか内気な一人で考えて一人でうじうじして一人で怒って一人で完結しちゃうとこなんかは自分にもこういうとこあるよなあ…と自分を振り返らずにはいられなかったし、須永くんと千代ちゃんがまとまらないのには切なくなったし、松本のおじさんが捉えどころなさそうなのに須永くん思いですっごいいい人でかっこよかったし、須永くんの口を通して出てきた夫婦評にやられちゃって、もうどうしよう。
本ってこういう出会いがあるからいいよね。読めてほんとよかった。
Posted by ブクログ
この本は1910年に大病を患った夏目漱石が、復帰後に最初に書いた長編小説であり、後期三部作の一冊と言われています。
長編小説といっても、この物語は6つの短編から成っています。短編がひとつの話にまとめ上げられ、長編小説になったものなのです。夏目漱石は当時新聞でこの作品を新聞で連載していました。毎日少しずつしか進まない物語を短編として仕上げていきながら、その短編を さらにまとめ上げたときに、長編小説が現れる。夏目漱石がかねてより思い描いていたというこの構想は、なんとも素晴らしく粋で素敵なものに思われるでしょう。
この物語は、主人公、そして聞き手に田川敬太郎がおかれ、様々な登場人物から話を聞いていきます。オムニバス形式のような形で、田中敬太朗視点で物語は進められながら、しかし様々な立場の登場人物、それぞれが語る短編からひとつの長編の話が出来ています。
登場人物は多くはありません。しかし、それぞれの関係性が複雑で、さらには語られる時系列もバラバラな為、少し話を整理しにくいように思います。一度読むだけでは所々分からなくなってしまう部分もあるかもしれません。しかし、だからこそ読み応えも十二分にあるでしょう。特に、後半になればなるほど、ややこしかった前半の内容が伏線となっている部分や、こういうことかと得心する箇所が多く出てくると思います。前半でついて行くのが大変だと思っても、後半では気付かぬうちに彼岸過迄の世界に引き込まれて読む手が止まらなくなりました。
また、前述の通り、主に主人公が聞き手となっています。そのため、物語世界に存在していない私たち読者も、主人公と同じように、語り手となる登場人物の話をダイレクトに肌に感じ、のめり込んで聞くことが出来ます。ゆえに『こころ』のように、語り手となる登場人物の胸に秘めた葛藤や、苦しみが生々しく味わうことが出来るのです。
しかし、最終章に「敬太朗の冒険は物語に始まって物語に終わった。(中略)彼の役割は絶えず受話器を耳にして、「世間」を聴く一種の探訪に過ぎなかった」という文があります。また、同じく最終章に、松本が「自分自身がひがんでいる理由がわからない」と涙するシーンがあります。
これらの文は、いずれも現代に生きる我々の胸の内に波紋を呼ぶものではないでしょうか。非現実な物語の中で、誰もが一度は思ったことのある問いに改めて立ち返ることもできる。そんな物語のように思います。
それらも踏まえ、夏目漱石の世界観を十分に感じられる作品でもあると思いました。
Posted by ブクログ
後期三部作の1作目。
短編が集まって長編の形式を取っているし、序盤は割とお気楽な感じだから読みやすい。
中盤からとても濃ゆい。前期三部作とは全然違う。
あれも恋愛の話には違いないが、こちらの方がズドンと迫ってくる。
男の嫉妬心と猜疑心がとても良く描かれている。
私個人としては、須永の気持ちも分からんでもないけれど、千代子とくっついた方が幸せになれると思う。
ただ、千代子の気持ちに応えられるか分かんないんだよね須永は。
何だか二人の関係がもどかしくてもどかしくて。
これは、現代人が読んでも十分に楽しめる。
印象的なシーンも多々。
楽しかったり、悲しかったり、物寂しかったりもするけれど、漱石の書く日本語は美しい。
Posted by ブクログ
(個人的)漱石再読月間の11。あと4!
短編をいくつか重ねてひとつの主題に迫るという手法。当時は新しいものだったらしいが、現代の小説で普通に慣れ親しんだ形なので、さすが。
主題は「嫉妬」
ひとつひとつがとてもクオリティが高く、特に幼児が突然亡くなる話しは緊迫感がすごい。
漱石は探偵という職業をとても卑しいものと考え、何度も作品中登場人物にそう語らせていたが、それを遂に形にした話しもとても良かった。ポンコツ見習い探偵ものとして、むりやりミステリーだと言ってみようか。
所々覚えてる箇所もあるが、ほとんど忘れている…というかこんなに面白かったっけ?
Posted by ブクログ
主人公敬太郎は、大学を出ても定職に就かず、ふらふらしている。
しかし人生にどこか浪漫を求めており、波乱万丈な生活を送る友人森本の昔話に憧れている。
いくつかの章に分かれているこの作品は、主に敬太郎の周りの人の語りによって進んでいる。
特に市蔵と千代子の幼なじみ同士の恋愛話はかなり現代っぽいのめり込める内容だった。
お互い素直になれない、少しひねくれた性格で、でもあえて素直になるのも今更何か違う…というもどかしい気持ちになる。
市蔵の、自分自身のことについて考えすぎてしまう性格はその出生の秘密からきている、という展開はかなり気の毒で苦しい気持ちになった。
Posted by ブクログ
印象に残っているのは宵子の死の場面。漂う線香の煙が見えるようだった。骨を拾う時の、もうこれは人じゃないという感じがリアルで、市蔵の言葉があまりに冷淡で少し気になる。
読み進めていくうちに市蔵に対するイメージが変わり、次第に共感を覚えるようになっていった。空虚な努力に疲れていた、という一文が刺さった。
Posted by ブクログ
戦前の小説は、「難しい」というよりも「まわりくどい」。なので読むのに時間がかかる。
本書は『こころ』のような悲壮感はあまりなく、呑気な雰囲気で読みやすかったが、終わり方は良くない。ついでに恐れ多くも文豪の小説に突っ込むのなら、最初の森本のくだりはいらないんじゃないかと感じた。
この話は須永夫人、田口夫人、松本の3姉弟を中心とした松本家の物語。日本の家庭制度は表向きは男系で男が嫁をもらい親の名前を継ぐ。しかし現実は女系。親戚付き合いは母親の親族と係りが深い。現代はそうだが、漱石の時代もそうだったのかと思わされた。
自分の子どもが生めないばかりに夫の愛人の子どもを育て、自分の妹の子どもを一緒にさせようとする。婚家の血筋ではなく実家の血筋、自分の血筋を残そうとする須永夫人がなんとも不憫に感じた。