あらすじ
生きることは、まだ許されている。
明治18年初夏、瀬戸内巽は国事犯として徒刑13年の判決を受け、北海道の樺戸集治監に収監された。同房の山本大二郎は、女の話や食い物の話など囚人の欲望を膨らませる、夢のような法螺ばかり吹く男だった。明治19年春、巽は硫黄採掘に従事するため相棒の大二郎とともに道東・標茶の釧路集治監へ移送されることになった。その道中で一行は四月の吹雪に遭遇する。生き延びたのは看守の中田、大二郎、巽の三人だけだった。無数の同胞を葬りながら続いた硫黄山での苦役は二年におよんだ。目を悪くしたこともあり、樺戸に戻ってきてから精彩を欠いていた大二郎は、明治22年1月末、収監されていた屏禁室の火事とともに、姿を消す。明治30年に仮放免となった巽は、大二郎の行方を、再会した看守の中田と探すことになる。山本大二郎は、かつて幼子二人を殺めていた。
「なあ兄さん。
石炭の山で泣いたら
黒い涙が出るのなら、
ここの硫黄の山で涙流したら、
黄色い涙が出るのかねえ」
感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
ともぐいより面白かった。
あらすじで最後の最後までしっかり展開をネタバレするのをやめてもらってたら今年1番だったかも!そこまで書かないと読もうって思わないと思ってんのかな〜。
そこまでネタバレされても中身はしっかり面白いので途中からは忘れてたぐらい。
巽と大二郎コンビと看守の中田の3人からみる監獄生活。
時代も相まって囚人の扱いはおとぎ話みたいな酷さ、作業中も相方と縛られたまま、足には鉄球。
何をしてる時も2人一緒だから、だんだん運命の人みたいになって、片方が居なくなっても囚われたまま強い因果により探さずにはいられない。
そして看守の中田がまたいいです。
悪役ではないのがこの小説の面白いところ。
巽たちへの扱いから公平な人だとわかる。
俳優さんだとクリーピーの時の東出昌大をイメージして読んだ。
ラスト近く巽と2人で探す展開があるのが嬉しい。
表紙から面白そうだと思ってたけどやっぱり面白かった。
次の新作も楽しみ!
Posted by ブクログ
何に1番驚くかと言うと、男性の描写の違和感の無さ。男性作家だと錯覚する。『ともぐい』は野生の男だったが、今回は囚人2人と看守。看守の中田は某有名北海道漫画のOさんで脳内再生していた。
主人公の囚人、瀬戸内巽は赤狩りかなんかで捕まり、山本大二郎は隠されていたが人殺し。鉄仮面の中田看守は愛情不足の潔癖ワーカーホリック。
樺戸集治監から硫黄採掘の外役への移送の際に移送隊が遭難し、この3人だけが一緒に難を逃れ、馴れ合うわけではないのだが奇妙な絆が生まれる。労役で死にかけるもなんとか命拾いしたところへ大二郎が突然脱獄。いつもひょうけてた大二郎って一体なんなんだ?と探査が始まる。
人によっては長冗と感じるかも知れない。大二郎の罪状が細部まで暴かれなくても人となりの印象は変わらないと思うし、むしろ深まった気がする。ちょっと書きすぎてる感じがするけど、この3人の雰囲気が、ベタついてなくて、私には好もしかった。
罪とか罰とか善とか悪とか、あるにはあるけど、明確な形を持ってない。愚か者の意志探し。
表紙の絵もとても良く合ってる。
最近、昭和の小説家達に心惹かれてる私に、河崎秋子さんは別格の光を放っている。作家になる前にこれを読むと良いと、勧められたのが、木内昇さんの『ある男』だという文を読んで、なるほど納得。
エッセイも買ったのでこれから読むのが楽しみだ。
Posted by ブクログ
明治時代、士族の家系で苦労知らずに育った主人公巽は、国事犯(政治思想犯)として懲役13年を申し渡され、北海道の樺戸集治監(監獄)に収監される。
そこでともに鎖につながれた大二郎という男、そして冷徹な刑務官中田と過酷な環境と労働を過ごす。
前半から中盤にかけ、激烈過酷な収監生活の描写が続く、特に釧路の硫黄採掘現場の、囚人ばかりでなく刑務官すら健康を損なう人権などという言葉がクソの役にも立たない現場の壮絶さは記憶に刻み付けられる。
後半大二郎が脱獄し、恩赦で囚人生活を終えた巽と中田が大二郎の足跡を追う部分、いわば回収パートを読み進めていくうちに、生きることの虚しさ、それでも生きていくことの素晴らしさを感じた時、この本の良さが身に沁みてくる。
犯罪者の更生には、監視付きの厳格な生活、無駄のない規則正しい生活と、世間に役立つ労働、華美さのない質素な食事と、最低限の衛生環境、自分の罪を見つめなおし贖罪を考える時間と空間を与えることが大切なんだと思えた。
犯罪者でなくても、そのストイック生活習慣は参考になる部分も多いと思えた。服役中の巽が白米のおにぎりや饅頭を食うシーン、出所後はじめての食事やセックスシーンを読むと、過度の贅沢を知るのは実は不幸なんじゃないかと思えたり。
とはいえ、最早取返し(更生)のできないレベルの罪人、最近でいうと闇バイトで暴行や殺人を犯したクズどもなんかは、硫黄掘ったり、原子炉掃除したり、その死刑のかかる費用すら勿体ないクソ命を少しでも使い切ったたらエエと思った俺は、やっぱり俗物の偽善者やなぁ
Posted by ブクログ
なんとも言えない読後感だが、後半1/3 がとても良かったので星5つに。
初めの方は飽きてしまい、どうしてそんなに評価高いのか不思議ではあったが、淡々と読み進めると、樺戸集治監の看守中田と、大二郎と、瀬戸内巽たつみ。この3人の三者三様の生き様がよかった。
東京大学で学徒の運動員に関わり、国事犯として徒刑13年の巽。たまたま隣にいた山本大二郎と部屋も同じ、鎖で繋がれる仲になり、いい加減な軽口で嘘つきの大二郎に心を許していく。硫黄の採掘で過酷な釧路集治監へ移送される途中の吹雪では生死を分ける体験を共にして、小さな絆のようなものが生まれる。
釧路は過酷で日に何人も亡くなっていく状態…あまりの酷さに声を上げた典獄のおかげで途中で作業が中止になり元の樺戸へ戻ることに。最後大二郎が大切にしていた石からの発火で火災が起き脱走となり、巽は裏切られた気になるが、勤め上げ晴れて自由の身に。そこからが面白かった。自由になったものの長期の習慣からか質素に日雇いで暮らし、突如監獄への差し入れを思い出し行動すると中田にであう。
その後は共に行動し脱走した大二郎の行方を一緒に探す。
農家が大変なのは分かるが折角脱走しても一般のイジメで亡くなった大二郎はやるせない。それを告白した青年のおかげで出土も捕まった経過も分かったのだった。
辛い。でもどこまでフィクションなんだろう、と思ってしまうほど後半はリアルだった。
罪人の気持ちなんて知らんわ、と思い読み始めたが途中からは夢中になっていた。不思議な魅力のある話だった。