【感想・ネタバレ】神の悪手(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

俺はなぜ、もっと早く引き返さなかったのか――。棋士を目指して13歳で奨励会に入会した岩城啓一だったが、20歳をとうに過ぎた現在もプロ入りを果たせずにいた。9期目となった三段リーグ最終日前日の夕刻、翌日対局する村尾が突然訪ねてくる。今期が昇段のラストチャンスとなった村尾が啓一に告げたのは……。夢を追うことの恍惚と苦悩、誰とも分かち合えない孤独を深く刻むミステリ5編。(解説・斜線堂有紀)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

5つの物語からなる短編集
どれも将棋がテーマでありながら一つ一つ違うストーリー
どれも奥が深く、短編集にするのがもったいないくらい

1話め 弱い者
大震災後の避難所が舞台
被災者を元気づけるための復興支援で将棋を指していた北山八段は、おぼつかない手つきながら時折鋭い手を指してくる少年に惹きつけられる。ところが強いはずの少年が詰めを誤り悪手を打つ。それも二度も。
試合後の表彰式で少年へ「奨励会に入らないか」と提案する北山。さらに「内弟子にならないか」とも。
そこではじめて少年だと思っていたその子が、実は女の子であったことを知る…
避難所で起きていた犯罪。見知らぬ人が夜中に布団に入ってきていた事実。あまりの恐怖に、自ら髪を切り「男の子」になり切って自分の身を守るしかなかった彼女。
悪手を放っていたのは、試合を終わらせないため(彼女につきまとうボランティアが帰るのを待つため)だったことが判明する。

大震災の後の復興には莫大なお金と時間がかかる。地震直後には命が助かった喜びしかないが、長期化するにつれて様々な問題が出てくる。
無いに等しいプライバシー、避難所に持ち込む荷物の差、女性なら月のものも来るし、いびきで寝られないこともある。赤ん坊なら泣かずにいられないし、ミルクやオムツも足らなくなる。持病の薬が足らなくなる人、コンタクトレンズがなくなって目が見えない人… 何日もお風呂に入れず、トイレは汚物で溢れかえり衛生状態は日に日に悪くなる。そんな中で起こる犯罪… これは本当に起こり得る話で、実際起きていた話も聞いたことがある。女性だから男性だから、では済まない話。物語は帰りの空港に向かっていた北山が、迎えの車を断るつもりで口を開くシーンで終わる。その後どうなったのか、は読者に委ねられる。避難所に戻って少女と話をし、内弟子にしたのだろうか。この続きを読みたかった。
2話め 神の悪手
奨励会の三段リーグ。満26歳の誕生日を含むリーグ終了までにプロになれなければ退会を余儀なくされる。その最終日の前日に、啓一の部屋を訪ねてきた村尾は、まさに最後のリーグであり、現在第二位タイ。村尾は、明日の最終戦で啓一が戦う、現在トップの宮内への攻略戦を教え、宮内に勝ってくれと頼む。明日の最終日に啓一が戦うのは、トップの宮内と村尾の2人。
啓一が宮内に勝ち、村尾に負ければ、村尾はリーグ優勝となりプロになれるのだ。
あまりの理不尽な話に、部屋を後にしようとする啓一だったが、村尾に引き止められた腕を振り解いたとき、村尾は大事なトロフィーが宙に舞うのを受け止めようとバランスを崩して転倒し動かなくなってしまう。怖くなってそのまま部屋を立ち去ってしまった啓一。翌日、リーグ開始時間になっても現れない村尾。そして村尾が教えた手の通りに進める啓一。棋譜の通り寸分違わず進んでいく対局。この対局をアリバイに変えるアイデアが浮かび、すがるように棋譜通りに打つ啓一。神が味方している、と思うほどに…
人間の「自分だけが助かれば」という浅はかな願いに、読んでいて胸が締め付けられるような気がした。そして最後。村尾の作った棋譜ではなく、自分の読んだ手を打つ啓一。果たして勝負はどうなったのか…
村尾はどうなったのかも含めて、結末を想像して悶絶する自分がいた。
5話目の恩返しは、将棋の駒を作る駒師の話。タイトル棋将戦で戦うのは、国芳棋将と弟子の生田。使う駒を選ぶ前検分で、兼春の作った駒と師匠の駒が出され、ここでも師弟戦に。一度は兼春の駒が選ばれながら、「もう一度選びたい」と言われ最終的に選ばれたのは師匠の駒であった。一度選ばれ歓喜しながら、最終的に落とされた兼春は、駒を作ることができなくなってしまう。駒師の話は、前に読んだ「盤上の向日葵」でも出てきたが、将棋の駒を作る駒師の凄さがよくわかる話であった。
他の2編も複雑でよくできた話で、全部が良かった。本当に全て長編で読んでみたい作品だった。

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2025年12月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

将棋はまったくわかりませんが、それにまつわる人々の心情が、痛いほど伝わってきました。自分自身がその場面に出くわした時のように、一番辛い未来はどんなものなかの、何通りもの先を想像して、不安が押し寄せる。といった感じの繰り返しで、疲れました(笑)

将棋がわかるともっと面白いんでしょうか。将棋が楽しめる能力が欲しかったです。

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2024年11月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

おすすめのミステリとあったので読んでみた。そうしたらどうやら将棋がメインの話らしく、内容の良し悪しはともかくびっくりした。将棋はちょっと嗜んだくらいで、棋譜も基本的なルールもそこまで分からないものの、物語自体はとても良質な短編集だった。個人的にひとつめとよっつめのお話が好き。ただこれをミステリとして扱うにはちょっと違うかなあということで星は低めにさせてもらった。ミステリではなく最初から将棋ものと書いていてくれたら評価は違ったかも。

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2025年07月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ずっと信じてきたものを周囲のすべての人間から否定され、一から新しい常識を植え付けられる。何が正解なのかが、まったくわからない世界。
怖っ。

考えて考えて、もうこれ以上は考えられないというほど深く考えた上で手を選ぶのに、指した瞬間に間違えたとわかる。
これは分かる。悪手ってこういうことなんだろう。

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2024年08月10日

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