あらすじ
たまたま台所にあったボウルに入っていた食用かたつむりを目にしたのがきっかけだった。彼らの優雅かつなまめかしい振る舞いに魅せられたノッパート氏は、書斎でかたつむり飼育に励む。妻や友人たちの不評をよそに、かたつむりたちは次々と産卵し、その数を増やしてゆくが……中年男の風変わりな趣味を描く「かたつむり観察者」をはじめ、著者のデビュー作である「ヒロイン」など、11篇を収録。
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
映画「PERFECT DAYS」を観て、興味を持って読んでみた。
「パトリシア・ハイスミスは不安を描く天才だと思うわ」
「恐怖と不安は別の物だって彼女から教わったわ」
これは、この本を買った客に対して古書店の店主が発したセリフ。
読んでみて改めて、このような短くてピリッとしたセリフを書く脚本家はすごいと思った。
確かに、「不安」はほとんどの作品で一つのテーマになっていたように思う。といっても似た作品は一つもない。
特に良かったのは、
・かたつむり観察者
・モビールに艦隊が入港したとき
・ヒロイン
・空っぽの巣箱
いただけなかったのは
・クレイヴァリング教授の新発見
・野蛮人たち
全体的によいんだけど、古いだけにやや粗さが感じられた気がする。
かたつむり観察者
The Snail-Watcher
意外で恐ろしい結末。かたつむりが増殖していく描写がまさしく秀逸。
恋盗人
The Birds Poised to Fly
恋人からの手紙を待つ男女は、今にも飛び立とうとしている小鳥たち。
返事さえ来ればすぐに飛んでいこうと待ち構えている。
ラブレターを盗んだことにより遭遇した女の、
何があっても相手を信じる気持ちに男は触発される。
邦題を恋盗人にしたのは、ややずれている気がする。
すっぽん
The Terrapin
子供の言うことに耳を貸さない母親が怖い。
そして最後はスプラッター。
アメリカでもすっぽんを食べるとは知らなかった。
モビールに艦隊が入港したとき
When the Fleet Was In at Mobile
最初は主人公の女性の行動が理解できないが、
回想が進むにつれて次第に同情してきてしまう。
艦隊が入港したときは、彼女の運命を分けたとき。
結末は殺人犯として逮捕されるよりもずっと怖い。
クレイヴァリング教授の新発見
The Quest for Blank Claveringi
またカタツムリ。
パニックアクション映画のような感じだった。
愛の叫び
The Cries of Love
友達同士がホテルの同じ部屋で暮らしているという状況が分からないが、好きな友達にいたずらをしては仕返しされるという、子供じみた老婦人のめんどくさい関係。
アフトン夫人の優雅な生活
Mrs Afton, among Thy Green Braes
精神科医に夫について相談に来た有閑マダムの正体が最後に明らかになる。
ちょっと気の毒な話。
原題は、18世紀のスコットランドの詩人 Robert Burns の代表作の一つ "Afton Water”の冒頭を引用したものっぽい。詩では「アフトン川よ、緑の丘をぬって(やさしく流れよ)」のような感じ。
夫人がこの詩から名前を取ったのかは定かではない。
緑の丘の間を流れる優雅なアフトン川と、実はそうではないアフトン夫人の間にアイロニーを感じる。
ヒロイン
Heroine
人の役に立つ行動をするために、自ら災いを引き起こしてしまう少女。
過去の家庭環境や、シッターになってからの行動の端々から危なっかしさが感じられ、不安を煽られる。
もう一つの橋
Another Bridge to Cross
イタリアの海沿いの明るく牧歌的なロードムービー的な短編だが、死のイメージが全体を貫いているのが対照的。主人公からも、死の世界に取り込まれそうな危うさが何となく感じられる。その中で、泥棒の少年だけはいきいきとたくましい。
野蛮人たち
The Barbadians
近所で騒がしくキャッチボールをする大人げない男たちに石を落として追いやったかに思えたが、彼らはまた集まってキャッチボールを始める。男たちにいらつくばかりであった。
空っぽの巣箱
The Empty Birdhouse
過去の行動に対する後悔や不安が幻覚を見せるのか。妻だけではなく夫も見ることで、現実だったのかと思えば安心するが、やはり現実ではなさそうな描写もあるので、そうだとするとなおさら怖い。途中から不気味な猫も出てきて、何が不気味なのかもはっきり書かれないのだがやっぱり不気味で、強さを助長する。結末に至っても話が終わらないところも怖い。
Posted by ブクログ
ヴィム・ヴェンダース監督「PERFECT DAYS」(パーフェクトデイズ)にて、平山(役所広司)の妹の娘ニコ(中野有紗)が、平山の部屋の文庫本を読んで、
「おじさん、わたし、この『すっぽん』って話好きかも。ヴィクターって男の子の気持ちがわかるっていう意味」
母が迎えに来たとき、
「おじさん、ねえ、おじさん。わたし、ヴィクターみたいになっちゃうかもよ」
という場面が強烈だったので、積読を崩してみた。
勝手に初読のつもりでいたが、実は「厭な物語」(文春文庫)で「すっぽん」のみ既読だった。
再読してみて、確かにこの作品への言及は大きい要素だなと思った。
また、他の短編も読んでよかった。
作者が同性愛者で、雌雄同体のかたつむりへの興味が云々ということは知っていたが、「かたつむり観察者」、「「クレイヴァリング教授の新発見」が強烈に恐ろしい話で、むしろ笑ってしまった。
また、「恋盗人」、「ヒロイン」、「からっぽの巣箱」のような主観の歪みというか偏りがポイントになる話も多く、好みだった。
奇妙な話という点で藤野可織とか、謎動物が象徴になるという点で小山田浩子とか(特に「からっぽの巣箱」)を連想した。
◇序――グレアム・グリーン
■「かたつむり観察者」‘The Snail-Watcher’
■「恋盗人」‘The Birds Poised to Fly’
■「すっぽん」‘The Terrapin’
■「モビールに艦隊が入港したとき」‘When the Fleet Was in at Mobile’
■「クレイヴァリング教授の新発見」‘The Quest for Blank Claveringi’
■「愛の叫び」‘The Cries of Love’
■「アフトン夫人の優雅な生活」‘Mrs. Afton, Among thy Green Braes’
■「ヒロイン」‘The Heroine’
■「もうひとつの橋」‘Another Bridge to Cross’
■「野蛮人たち」‘The Barbarians’
■「からっぽの巣箱」‘The Empty Birdhouse’
◇解説 関口苑生