あらすじ
「本をつくり、とどける」ことに真摯に向き合い続けるひとり出版社、夏葉社(なつはしゃ)。従兄の死をきっかけに会社を立ち上げたぼくは、大量生産・大量消費ではないビジネスの在り方を知る。庄野潤三小説撰集を通して出会った家族たち、装丁デザインをお願いした和田誠さん、全国の書店で働く人々。一対一の関係をつないだ先で本は「だれか」の手に届く。その原点と未来を語った、心しみいるエッセイ。(解説・津村記久子)
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本屋で見かけて気になり、直感で、一目惚れのごとく買った本。
読み終わったら売ろうと思っていたのに、気づけば手元に残しておきたい1冊になっていた。それほど、心に残る内容だった。
「本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。」
わたしがまさに思っていたことそのままで嬉しくなった。著者のように、誠実に、ひたむきに、夢中で仕事ができたら幸せだろうなぁ。
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誠実に生きる事を具体的に描いてくれた本。
1人出版社を立ち上げる事になる流れがとてもよくらまとまっている。自分の居場所を求めること、身近な人に誠実に向き合うこと、この2つが重なる場所から自然に導き出せる帰結であり、職業人として素晴らしい自己分析であるように感じた。
ここまで自分と向き合えて確信を持てれば、生き方に迷いはないと思う。
資本主義の短いスパンでの大量消費に疲れた著者を救ったのが、人生のサイクルを早める権化とも言えるネットだったというのはとても面白かった。ネットで盛んに言われたロングテール戦略を見事に体現している。
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50社連続不採用。転職活動でうまくいかず、大好きな従兄も亡くなり、人生の暗い沼の中、本を読むことで自分の居場所を確認し、自分の大好きな本を顔の見える人に届けたいという思いで、古くてあたらしい「出版社」を立ち上げた島田潤一郎さんのバイオグラフィー的なエッセイ。大きな資本にできないことをやる小さな仕事の価値や人の仕事に対する根本的な価値観、本を通じて紡がれる人と人との歴史ともいえる関係性、島田さんの本や人に対する思いなど、正直でか弱く小さな声が、資本主義の大きな声の中で仕事をする自分にとても、響きました。社会的インパクトが大きく顔のわからない顧客に価値を届ける仕事と、小さくとも顔のわかる多様な個人に向けて価値を届ける仕事。どちらもかけがえのない仕事ではある。両者を行き来するような仕事観を持ちたいと思った。
冒頭、小沢健二さん「人は仕事をしたがっている」、「そのことの、圧倒的美しさ。その美しさの前では、それにつけこむビジネスがあるなんてことは、塵のような話にすぎない」と話した。
人に必要とされる、人のために何かをするという仕事の純粋な基本に立ち戻される話から始まる。
従兄がなくなり、僕を必要としてくれる人のために仕事がしたいと思い、真っ先に思ったのは、叔父と叔母だった。ヘンリー・スコット・ホランドの詩を本にして、叔父と叔母に届けたいという思いで、出版社を始めた。
「何度も読み返される、定番といわれるような本を、一冊一冊妥協せずにつくることによって、長期的な利益を確保する。そのために、会社を応援してくれる本屋さんを全国に100店舗開拓し、それらの店を重点的に営業していく」。
事業目的に合わせて、初めに手掛けたのは、絶版書の復刊だ。レンブラントの帽子は、和田誠さんに装丁を依頼。荒川洋治さんに巻末エッセイを依頼した。
途中に挟まれる亡き従兄の遺品を浜辺で焼くシーンは、悲しみの中に笑いがあり、人間の悲哀と喜びが同居していて、胸が打たれた。
本はページを開いた人が居る限り、いつになっても古くならない。夏目漱石もマーク・トゥエインも。本は、誰も拒まない。誤読すら初めから想定されている。
人生に疲れた時、孤独で孤独でどうしようもない時、本はいつでもそこに居てくれる。読書に関する新しい扉を開いてくれるような本だった。
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『長い読書』は、著者にとって本を読むということがどういうものだったか、それによってどう支えられてきたかということが書かれていて、「読書に支えられてきた自分」ということに少しナイーブな印象を受けたが、本書では、読書への想いは変わらず、人のために本を作ること、本を作ることを通して人と関わることなどを通して、「人のために仕事をする」というテーマが懇々と書かれておりナイーブというよりは、体温が感じられる内容でとても良かった。
もともと作家志望であったという島田さんの、誠実な想いが感じられる文体がありつつ、はたらくことは人のために何かすることだ、ということが丁寧に書かれていて良い。
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一人で出版社を作った人の本。
毎日を生きる人にそっと寄り添ってくれる。そんな本。
「今日、だれのために、なにをするのか。」
文筆家を目指していた島田は大学を卒業後もアルバイトなどで食いつないでいた。しかし、時は立ち31歳で就職活動を行うが採用はされない。そんな中、仲の良い従兄が若くして亡くなる。悲しみに暮れる叔父叔母を見て彼は思う。「彼らのためにホランドの詩を一冊の本にしよう」。そして、「夏葉社」ができた。
紙の本は斜陽と呼ばれ、大手の出版社ですら本だけでなく様々なキャンペーンを打ちしのぎを削っている。そんな中、たった一人で紙の本を作る出版社を作った人の話。
そこには、派手な見出しや野望などはない、叔父と叔母を悲しみに寄り添いたい、読んだ人にとって何度でも読み返す本を作りたい。そして、誰かの役に立ちたい。という素朴で、けれど大切で確かな思いから始まっていた。
心に残る言葉が込められているいい本。時々読み返したい。
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知ってる人には有名なひとり出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんの著作。氷河期世代で就職できないなか、兄弟のように仲が良かった従兄弟の死をきっかけにひとりで出版社を立ち上げる経緯が語られている。
全体的にとても静かで熱い。
島田さんの本に対する思いのその言葉の端々がとても静かで熱くて読み終わった後もずっとその熱がとどまっている感覚になっている。
一生棚に置いておきたい一冊。
夏葉社の本を扱っている書店を訪ね歩くのをライフワークにしたい。
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何も言わずにそっと渡して読んでもらいたいと思うくらい素敵な本でした。
何の涙か覚えていないけれど、何度も涙が溢れてきました。
言葉があったかくて寄り添ってくれる本です。
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本屋で偶然出逢った本。
ひとり出版社の人の日常ってどういうものなんだろうという好奇心で読み始めた。
が良い意味で期待を裏切られた。日常を書いているのかと思っていたら、考え方、生き方の本だと思った。
読んでいる途中に、『こういう風な気持ちで仕事をしたい。人と関わりたい。』と自然とじんわり胸に込み上げてくる感情があった。
読んで元気になる本、そっと手元に置いて読み返したくなる素敵な本だった。
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地に足が着いた仕事とはこういうことだと思った。いかに生産性を上げるか、AIにどこまで任せられるか、みたいなことに汲々としている自分には眩しく映った。年始の1冊目に素晴らしいものを読ませてもらった。
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もともとSNSで見かけてなんとなく買っておいた本で、仕事に関してちょっと考えることがあるときに、ふと手に取って読んでみたら、なんだかむちゃくちゃ刺さって、電車の中で読んでいたのにうるうるしてしまった。
わたしも「だれかのための仕事」をする人で、仕事に対して、面倒とか、搾取とか、そういったネガティブな感情はなく、どちらかというと仕事をするのが好きなほうなのね。まぁ大変ではあるけど。
せっかく「だれかのための仕事」をしているのだから、ひとつひとつを丁寧に、この本でいうところの「怠けず、誠実に」を心掛けたいし、それを続けていけば1年後、3年後あるいはもっと先に得るささやかな収穫で喜べる日が来るんだろうなって思えたのがすごくよかった。
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なんかもう最初から最後(文庫版あとがきも解説も)まで、ずっと泣いてた。全部の文に線を引きたい、付箋でも貼りたいほど、ずっと心を掴まれていたし、寄り添ってもらっていた。
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先月とあるトークセミナーで、島田さんのお話を目の前で聞く機会があった。少し震えているようにも感じる緊張の面持ちで話し始めたその様子が、本の印象そのままでした。
その後の販売会で、お声をかけようとして泣きそうになり、言葉が詰まってしまった私を茶化さず慌てずぐっと堪えて、「(話が良かったと聞いて)よかったです。」と落ち着いた様子で応えてくれた、あの空気感が忘れられない。
思い出すたびに、背筋を伸ばすことになると思う。
こんな本に出会えて感謝です。
Posted by ブクログ
古くて、あたらしい。
それはどういうことなのか、と惹かれて手に取った本。
著者が、真摯に仕事に向き合い続ける過程が語られる。
その描写には、本が好きな人間にとって深く共感できる考え方が詰まっている。出版の実務的な流れが見えることもおもしろい。
なぜ本が好きなのか、を言語化してくれている!と感じるのは、著者自身が本が大好きだからなのだと思った。
誰かの役にたつことが、仕事になり得るもので、
どんな仕事も、お客さんがいる。
相手をきちんと見つめて仕事をすると、
向き合い方ややり方はずっと一様にはいかないはずで、
組織の中で働いていて大胆なことはできなくても、
自分のひとつひとつの業務への取り組み方にマイナーチェンジをくわえていく。
出版業界のみならず、
仕事に向かう姿勢について、背中を押してくれる本だった。
ちくま文庫の、『あしたから出版社』も読みたくなった。
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知らぬ間に呑まれていた資本主義。
日々の仕事で疑問を感じていたこと。
そのことが間違いではないこと。
また、それらを肯定してもらえた。
気合い入れて前に出なくちゃ❗
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島田さんの真摯さからは、仕事に向き合う上で大切にしなければならないことを教えてもらえる。島田さんの仕事は一般的なサラリーマンのものとは異なるけど、その心は私の仕事にもあてはまることばかりだった。「本を読むことは、身の回りのことを改めて考えるということだ」という言葉に大きく頷く。わたしたちは本を読んでいる時ほど、自分に向き合っている。
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今でも大企業のサラリーマンだったらな、と思うことがあると著者は言うけど、サラリーマンたちは逆にだいぶ、相当うらやましいと思う。
仕事だけでなく家族のことも愛して、表現して、実行している。
庄野潤三、和田誠、皆川明、好きな人が出てきて嬉しかった。解説は津村記久子だし。
惹かれて読むとこんなふうにつながってるから不思議。系統があるんだろうな。
野球やサッカーの監督たちの言葉も心に残る。
・人から必要とされること
・勇敢になるか、非常に勇敢になるかの違い
弱者の自分がまた救われた一冊
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ひとり出版社を起業した著者。
本をつくると決めた経緯、仕事に対するひたむきな姿に感動する。
一対一の手紙のような本をつくりたいという願いが印象深い。
解説を読み自分が高校生の頃近くで黙って寄り添ってくれた友人を思い出し感傷に浸る。
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夏葉社を2009年にたちあげた島田潤一郎さんは、今やエッセイストとして数冊の本も出している。
出版というビジネスの新しいあり方を提唱する「起業家」としても、名前を知られるようになってきた。
売れる本を作ってガツガツ稼ぐというのと対極にある、少部数でも良質で長持ちのする本を作る、という姿勢は立派である。
そういう出版社は昔から細々と存在してきたが、島田さんのような若い世代(といってももう50代に近いが)がそうした精神を受け継いでくれているのは、本を愛する我々にとって大変に心強い。
私にとっては、なんといっても『庄野潤三の本 山の上の家』が、一番好きな夏葉社の出版物だ。
2019年の秋分の日には生田の庄野家の一般公開にも訪れた。「夕べの雲」や「絵合せ」の舞台となった小さな家、庭の木々、作家の書斎や本棚の様子が、今もありありと目に浮かぶ。
それいらい庄野潤三の本を、古本屋などでコツコツと集めている。
『レンブラントの帽子』もいい作品だ。マラマッドも好きな作家となった。
これからもぜひ、いい本を作り続けてください。
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島田さんのエッセイをはじめてよんだ。1人出版社の大変さがひしひしと伝わるが本を通しての仕事の喜び、自分が喜ぶものを作る、ニッチな商品の粋なところが読んでて気持ちいい文章だった。
従兄弟の別れから仕事を始める経緯など後書きにもあるけどすごい理路整然と理由や理屈が分かりやすかった。
読んでいて優しい気持ちになれる、また本来の仕事の考え方や心意気を学べたエッセイだった。
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この本の親本に対して。
声高ではない。とても穏やかだ。正直でもある。
そして、何より、しずかな反骨心を感じる。
雑にならない。心を込める。
願わくば、一日も早く、新潮文庫に入って欲しい。
少し薄めの一冊になるかもしれないけれど。
無事入った。5年かかったけれども。散文詩のような雰囲気は変わらずに。
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いろいろなことに思い悩んでいるひとに読んでもらいたい一冊。
読み終わると前向きな気持ちになれる。
夏葉社のことはこちらを読むまでは知らなかったけど、夏葉社が出版している本を手に取って読みたくなった。
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パワハラや残業が許されないものになって、余暇を楽しむこと(自分の生活に重点を置くこと)が理想とされている世の中だけど、いざ社会に飛び込んでみると、仕事は想像以上に大変だし、みんな思ったよりかなり頑張っているし、わたしは何のためにやっているかよくわからない。
中途半端な世代だなーと思う。社会は確実に変わっているけど、体質はまだまだ変わっていない…大企業に勤めて大きな成果を出す、こんなのわたしはできないよ!って思ってた。
もっと自分の生活と密接な仕事をしたいと思ってた。
でもこの文章を読んで、必要としてくれる人のために仕事をする、手の届く範囲で仕事をする、自分の仕事を受け取ってくれる人の顔をを思い浮かべることができる…
人間が仕事をする、その一番最初の形を実践する人がいる、そして仕事はこうあるべきだとわたしも考えていたんだ、と気付かされて嬉しかった。
こういう風に考える人がいるなら、わたしもそういう仕事をすることを諦めたくないと思った。
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島田潤一郎さん起業のひとり出版社「夏葉社」。以前、島田さんが書店員の話を聞き取り、1冊にまとめた(共著) 『本屋で待つ』を思い出しました。島田さんの単独著作は初めてです。
作家志望の断念、身近な人の死、転職活動50社連続不採用から、33歳で会社を立ち上げるまで、さらに自分の(仕事をしていく上での)身の振り方が定まり、人との関わり方が綴られ、会社立ち上げまでの経緯や想いについて、十分伝わりました。
ビジネスツールや大量生産商品としての「本」ではなく、1人の作家の魂を大切に扱い、誰かに届けるという姿勢を続けることで、経営の方向性が確立していきます。鬱屈している日々に光をもたらしてくれるもの、その瑞々しさを掬い上げる本屋のあり方の一つの答えが示されている気がします。
選ばれた朴訥な言葉、温かい文章、行間から滲み出る人柄‥、とにかく読めば、島田さんの誠実さが判るし、これがそのまま文芸を中心とする独立系出版社「夏葉社」の本作りの魅力なのでしょう。
レビュー数が多く評価の高いことを、本の選択の指標とするのも大いに結構なことですが、古くて脚光を浴びずに埋もれている多くの本に対して、視野を広げたいと思わせてくれる1冊でした。
Posted by ブクログ
従兄の死をきっかけに、ひとり出版社・夏葉社(なつはしゃ)を立ち上げた筆者のエッセイ。文章があたたかすぎて、心の底から本が好きで、繊細な人なんだろうなあという印象を抱いた。私は本は好きだけど、たくさん読みだしたのはだいぶ大人になってからだし、小さな本屋にそれほど思い入れはないし、ついつい大きな本屋で買ってしまう。この人の志そのものに共感できることは多くはなかったけれど、それでも確かにと思える部分はあった。
例えば、「日用品は気に入ったら愛用し買い足し続けるけど、本はそうではない。同じ本をもう一冊買うことはめったにない。」という部分。私も業種は違えど、ステークホルダーが毎年入れ替わる仕事なので、訴求が難しいと日々感じる。
あと、出版という業界が他の業界に比べて”フェア”であるということも、考えたことはなかったけれどなるほどなと思った。
Posted by ブクログ
1人出版社、夏葉社をつくるまでのいきさつ。営業活動、出会った人。古い作品の復活のスタイル確立。
この人がいるから復活できた本があり、復活した文章に出会うことができた人々がいる。誰か1人がいることによって世界が少し変わる、そんなことを感じた。