【感想・ネタバレ】鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年03月19日

「幻の湖」の謎を解くカギがすべて描写されている。成功の陰になったあらゆる可能性の裏面がすべて噴き出した壮絶なギャンブラーの溜息だったのだ。

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Posted by ブクログ 2024年03月13日

とめどなく俗物根性で駆け抜ける橋本忍の足跡は、映画を芸術ではなく興行の媒体としてどうすれば儲かるのか、その徹底した分析力をギャンブルの糧として活用していく。腕力で面白く脚色していく橋本の興行収入や名声を欲する姿はあまりに人間臭くてグイと惹き込まれていく。栄光と凋落。この振り幅も賭博師として自覚してい...続きを読むたのではないか。輩出する脚本に共通する主題同様、苦悩に満ちた半生は彼の宿命でもあったと感じる。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年02月21日

脚本家といえば、倉本聰や山田太一を知っている人は多いと思うが、橋本忍の名前は、映画マニア以外では、余り知られていないと思います。

橋本忍は、戦後サラリーマンをやりながら書いた脚本(芥川龍之介の「藪の中」)が、黒澤明監督の目にとまり、黒澤が手を加えて、映画「羅生門(1950年)」となり、いきなり「ヴ...続きを読むェネツィア国際映画祭」でグランプリを受賞した。
以後、黒澤明・小国英雄の3人で共同執筆を行い「生きる」「七人の侍」等の脚本を書いていたが、徐々に黒澤から離れて独立する。
黒澤から離れた理由は、完璧を目指す黒澤は、通常の脚本の3倍以上の労力と時間がかかり、しかも映画のクレジットは、黒澤との連名になるので、全ての評価は黒澤になってしまうことへの不満があったそうだ。

その後、「真昼の暗黒」「ゼロの焦点」「切腹」「白い巨塔」「日本の一番長い日」「日本沈没」「私は貝になりたい」等の脚本を手掛け、論理的で確個とした構成力で、高い評価を受けるようになった。
当時、斜陽の映画界にあって思いうように映画化が出来ないので、自ら「橋本プロダクション」を設立し、「砂の器」「八甲田山」「八つ墓村」等を成功させたが、「幻の湖」で失敗した後は、体調不良などもあり、事実上引退した。

著者は、12年間に渡って、橋本忍の子供時代からの晩年までを追い求め、9回ものインタビューを行い、橋本が残した「創作の裏側」という備忘録を丹念に読み解き、ハードカバーで500ページに近い本書を著した。

橋本忍の脚本の例として「砂の器」(野村芳太郎監督)が興味をひいた。
松本清張が書いた原作の中の捜査会議で報告される犯人の生い立ちの説明で「父親と全国を放浪していた」という4行程度のさりげない記述に注目し、脚本では、この父子の放浪を、映画の終盤に据えて、一気に画面を盛り上げてゆくシナリオに作り替えている。
ハンセン病を患ってしまったために理不尽な差別を受け、お遍路姿で流浪することになった父子。行く先々で邪険にされ、それにめげない父子の触れ合いが、時に美しく、時に厳しい日本の四季折々の風景をバックに映し出されていく名場面を作り出していく。それを犯人の終盤の回想録として描いている。
私もこの映画の記憶として、厳冬の竜飛岬、春の信州やこの本の表紙(上掲)に載っている場面しか残っていないし、これが松本清張の原作本にも書いてあると思っていた。
この手法は、競輪でゴール直前に一気にピッチを上げて追い込んでゆく「まくり」という戦法と同じだそうだ。こういう橋本のセンスを、著者は父親譲りのギャンブラーとしての勘の冴えをあげている。事実橋本も父親同様に競輪が好きであった。

このように、橋本のオリジナル作品も面白いのであるが、原作がある作品でも、原形を殆ど留めない形に仕上げているのには驚いた。
因みに「砂の器」は原作をはるかに上回った映画作品として評価されている。

またエピソードとして、橋本が有名になった後に映画会社から「忠臣蔵」の話が何度か持ち込まれた時に「一人が四十七人を斬った話なら面白いけど、四十七人が一人のジジィを斬って、どこが面白いんだ」という父親の話を持ち出して、全て断っている。

本書では、こういう話が丹念に書き込まれてあり、映画ファンなら、一読をお薦めします。

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Posted by ブクログ 2024年02月07日

橋本忍は「観なきゃいけない」と思いつつ、未だ鑑賞していない作品の多い脚本家のひとりだ。本書で触れられている大作のうち、1/3くらいしか観ていない。観る前に膨大な取材のもとに書かれた本書を読んでしまうことで、すべてネタバレにならないかと心配していたが、決してそんなことはなかった。作品をちょっと観ただけ...続きを読むでは掴みきれない製作の裏側が見えてくる。むしろ、一連の作品にこれだけの準備があった事を知ってから映画を観た方が、より深遠なところまでいけるような気がする。
なぜ映画も観ずに本書を読んだかと言えば、「幻の湖」があったからである。なぜ晩年期にあのような作品が出来上がってしまったのか。はっきり言って本書の内容でも納得いかない。もっとキャリアの手前で失敗があっても良かったのではないか。
しかし、本書の最後の方で触れられていた、時代が橋本忍作品を必要としなくなった、というような指摘はまさに同意できた。80年代とそれ以前との、水と油のような関係の犠牲になったような気がする。春日太一さんには、オーラルヒストリーとしての作家論だけでなく、映画史全体としての橋本忍論にも期待したい。

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Posted by ブクログ 2024年02月03日

今問題になっている原作者と映像化の問題、
橋本忍が原作を読み込むことなく「砂の器」を書いたことを考えると、複雑な気持ちになる。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年12月05日

 これまでに一番泣けた映画と言えば「砂の器」。その後、原作も読んだのですが、映画の方がよっぽど感動的。11月27日付け日経新聞のコラム「春秋」で、この映画の脚本を書いた橋本忍の評伝が出たとあり、早速読んでみました。

 橋本忍の名は知らなかったのですが、稀代の脚本家ということがわかりました。「砂の器...続きを読む」だけではなく、「七人の侍」「生きる」「ゼロの焦点」「八甲田山」など、自分でも見た数々の名作の脚本を手がけていたそうです。

 ほぼ全編にわたって「砂の器」が出てきます。原作で、「その旅がどのようなものだったか、彼ら二人しか知らない」という、たった26文字の部分を人形浄瑠璃の手法で大幅に脚色。ところが、どの映画会社に持って行っても、「おまえ、頭どうかしているんじゃないか。今時、乞食姿が白い着物を着てあちこち歩き回るって、それが売り物になるとおもっているのか」と断られ、遂に自分のプロダクションを設立して制作。千代吉を生存させるなど、原作とは違う設定もしていますが、「映画は絶対、原作に依りかかってはいけない」のだそうです。

 「字を書く仕事」であり、毎日、原稿用紙30~40枚は書いていたというのですから、まさに鬼才。取材から12年をかけた力作で、黒澤明監督との確執、俳優選びやチーム編成が映画の出来にも影響するなど、映画制作の裏話も満載。思い入れが強いせいか、「あとがき」にあるように「混沌をそのまま」書いた風でもありますが、「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」と言いたくなる一冊です。

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Posted by ブクログ 2023年11月27日

春日太一さんの12年間に及び橋本忍というストーリーテーラーに春日太一が苦心して対峙していく様子が痛いほど感じられる大著。

後追いで橋本忍脚本映画を観てきた自分には浅い映画歴にどんどん線が引かれていく感覚で一日で500頁級の本書を読み切りました。

ただ読後感として、映画脚本・ビジネスマン両面の才能...続きを読むに恵まれた人物の栄光と挫折ではまとまらない、描かれていない余白があるのではないか、まだ橋本忍はわからないのではないかという感覚も残りました。

春日さんには迷惑な期待かもしれませんが『続・鬼の筆』というより『鬼の筆・ビヨンド』があるのではないかと読者としては期待せざるを得ないです。

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Posted by ブクログ 2024年03月04日

日本映画史に名を残す脚本家橋本忍。結核療養生活、伊丹万作への師事、黒澤明との「羅生門」でのデビューから日本映画黄金期を駆け抜けた華々しい作家生活。独立プロの立ち上げなど経営者としての顔、晩年の創作など実に楽しく読むことができた。
砂の器、八甲田、八つ墓村の後の凋落ぶりが切ない。
圧倒的な事実と本人へ...続きを読むの取材の前に、ちょつと構成が弱く、淡々と続きクライマックスの盛り上がりには欠ける。

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Posted by ブクログ 2023年12月06日

最近、昭和30〜40年代の日本映画を追いかけている。橋本忍の作品もいくつか観たが、力作揃いだった。この本が話題になると、さらに回顧上映の機会が増えるだろう。楽しみである。

「八甲田山」「幻の湖」の舞台裏を興味深く読んだ。

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Posted by ブクログ 2024年04月12日

『七人の侍』『私は貝になりたい』『白い巨塔』『日本のいちばん長い日』『砂の器』など歴史に残るような映画の脚本家である橋本忍さんの評伝。権力に抗うような作品が多いので社会派かと思いきや、ご本人は売れる作品を生み出すことが目的だったとのこと。作品の本質を見抜くことにとても長けていると思う。『八甲田山』で...続きを読むは、多くの死者を出した青森第五連隊は自然を征服しようとして、死者を出さなかった弘前三十一連隊は自然には逆らわず折り合いを付けようとした、と的確に捉えている。また、脚本の内容もまるで小説を読んでいるかのように場面が思い浮かぶ詳述ぶりだった。映画の利潤は自身の会社の資本の蓄積にせず、みんなで分配したというエピソードも凄いなと思う。これらのことがbackboneにあって上記のような作品が生み出されたという事実は、いわゆる社会派という考え方にもいろんなアプローチがあるんだと気づかされた。

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