【感想・ネタバレ】人間そっくり(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなってゆく……。異色のSF長編。(解説・福島正実)

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「こんにちは、火星人」というラジオの脚本家は、ピンチに陥っていた。
"存在するはずのない火星人をネタに日本を風刺する"番組はこれまで順調にやってきたが、火星にロケットが軟着陸することになり、火星のことが明らかになると世間の目は厳しくなると予想されるからだ。

そんな彼が部屋で鬱々としていると、突然自らを火星人だと名乗る男が訪問してくる。
その男の妻から電話もあり、30分後に迎えに行くが、気違いで暴力的なため逆らわずに話を聞くようにと言われ、家に上げてしまう。

最初は気違いの戯言と聞き流していたが、相手は意外と論理的で適当な相槌は見逃してくれず、真剣に向き合わざるを得なくなり、ああ言えばこう言うの応酬が繰り広げられる。

男は自分を火星人と言い張ったかと思いきや、気違いと思ってくれていいと譲る。しかし、やはり本当は火星人で地球に調査にきていると明かす。しかもいちいち科学的な難しい理由をつけて。
それに振り回されるうちに、「先生」は何が常識で、何が真実なのかわからなくなっていき、自分を見失ってしまう。


読みながら「先生」と同じように混乱し、結末の病院はどこの星にあって、先生はいったい何人なのかわからなかった。
部屋の中でほぼふたりきりの会話だけなのに、コロコロと状況や価値観が変わり、ミステリーとは違うけれどどんでん返しが起こるのがすごい。

人は理由をつけて説明されると納得してしまうし、納得したはずのこともまた覆されてしまうこと、また、常識だと思っていることは実は根拠も理由もなく証明するのは難しいということを、短時間で痛感させられる一冊だった。

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2025年03月07日

Posted by ブクログ

ネタバレ

映画の箱男を観たので安部公房の本を探していて、箱男は無かったが、人間そっくりを読んでみた。
少し言葉が難しいけど、物語が短くサクッと読み終わってしまった。最後の数ページで急激にこわくなる。
結局人間そっくりな火星人なのか、火星人そっくりな人間なのか、分からないのがいちばん怖い。

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2024年10月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

読んでいて、段々訳が分からないものに足元を掬われる思いがしてきた。

人間そっくりだと言う、火星人を名乗る男と、放送作家の男の会話で物語は進んでいく……が。
火星人を名乗る男の目的が全く分からない。分からないのに、それを回避してひたすら喋っている。作中で本人も言っていたが、大きな嘘を隠すために小さな嘘を沢山ついている。だから、何が本当か分からない。

最後の最後まで、訳が分からない。
放送作家は、自分が段々何者か分からなくなっていったと思うが……
以前、カンガルー・ノートを読んだ時も、何が現実で、何がそうじゃないのかが分からなくなってきたみたいな感想を書いたが、今回もそんな感じだった。

これ、二人の男の一人称がどっちも"ぼく"なんだよな。だから、ラストが余計に混乱するんだよ。どっちの"ぼく"なの?みたいな。

会話が多くて、割と読みやすいとは思うけど、本当…何が本当なのか分からなくなってくる……

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2020年05月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

天才。ページをめくる手が止まらなかった。会話文が多くて飽きない。

この物語を読み終えた人は全員ゾッとするはず。主人公の体験は誰にでも当てはまる話だから。宙ぶらりんになった後は、自分の存在自体について必ず考えてしまうはずだ。

トポロジーなどよく分からないこと以上によく分からないことが多過ぎる。それなのに感覚として分かってしまうこともある。それがこの小説の良さ。

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2020年04月30日

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