あらすじ
ある朝、突然自分の名前を喪失してしまった男。以来彼は慣習に塗り固められた現実での存在権を失った。自らの帰属すべき場所を持たぬ彼の眼には、現実が奇怪な不条理の塊とうつる。他人との接触に支障を来たし、マネキン人形やラクダに奇妙な愛情を抱く。そして……。独特の寓意とユーモアで、孤独な人間の実存的体験を描き、その底に価値逆転の方向を探った野心作。(解説・佐々木基一)
...続きを読む感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
三部構成になっているけれど、自分の中で整理ができないまま読み終わってしまった。でも分からないなりに面白かった。
悪い夢を見ているようで何が起きるかまったく分からないし、結末も想像できなかった。悪いことばかり起きるのに不思議と深刻さはなく、独特な形容で、おとぎ話のように美しく印象的な場面がときおり訪れる。
第一部は、穴を降りていった先で裁判をするシーンがあることも手伝って、どこか「不思議の国のアリス」を思い出させた。デタラメな裁判。
人間にはなんらかの罪があるようだし、バベルの塔やノアの方舟やアダムとイヴ、生命や世界の創造まで話はおよぶ。そうやって創世記が絡めてあるので、原初の話をしているのがより神秘的に思えて惹き込まれる。
世界が自分そのものだとしたら、世界の果てとは自分の一番外側なのかもしれない。だとすると世界の果てへの旅は死の文字が頭に浮かんでくるし、あまり突き詰めてはいけない要素に感じる。誰もが壁に囲まれて生きていることが違う意味で見えてきそう。本当に興味深い。
Posted by ブクログ
あまり理解できたとは言いがたい。安部公房のいう壁というものがなんなのか。
第一部の壁は主人公が胸に吸収してぐんぐん大きくなる壁、第二部の壁は本筋からずれているかもしれないが、透明人間になった主人公の、皮膚としての壁、第三部の壁はいろいろあるが、魔法のチョークという話からだと、太陽光に当たらない範囲で絵を本物にする壁という感じだと思う。
正直それが何を意味しているのかわからない。ただ解説に壁の中も外も同質みたいなことが書いてあったからそれがヒントになりそう。また読み直すしかない気がする。
しかし、文章自体とても面白かった。ゾクゾクするような面白さがあった。安部公房は初めてだったから、こんな世界もあるのかと驚いた。
チャットGPTの勧めで、カフカの変身の後に続けて読んだが、カフカのような不条理さがある。解説でもちゃんとカフカを扱ってるし、他の方の感想でもカフカの影響が語られている。チャットGPTって案外正しいこと言うんだって思った。
これから同じく安部公房の箱男を読もうと思うけど不安でしかない
Posted by ブクログ
鬼才・安部公房の芥川賞受賞作。
第一部、S・カルマ氏の犯罪は、名前を失った男が、社会での存在権や帰属集団を無くし、現実世界を不条理でグロテクスなものに感じるようになるという物語である。
社会との接点を無くした人間にとって、社会とは何と残酷な世界であり、不安定なものに映るのかが鋭く抉り出されており、現実から外部世界へと自然に誘って行く安部公房の筆致が際立つ名作であると感じた。
最後にカルマ氏は砂漠の中に佇む壁と化してしまうが、それは何の暗喩なのであろう?社会から疎外され、もはや人間ですら無くなったカルマ氏への鎮魂碑であろうか。
Posted by ブクログ
物語の初めまでは理解できるんだけど気がついたら理解の範疇を超えちゃう。名前を名詞に奪われたあたりまでは理解できるんだけど壁調査団のところはもうわからない。ラクダを針の糸に通すより金持ちが天国に行くのが難しいことを逆転の発想にするところは好き。目に入ろうとしてぐんぐん体が小さくなっていくところはなぜか爽快だった。涙が溢れてその洪水に巻き込まれるのは理解を超えてくる。けど好きな場面。ノアが出てくるけどノアも洪水に巻き込まれる。最終的に主人公は壁となる。どういうこと?なんかの比喩だとしてもよくわからん。
バベルの塔の狸もいい。なんだかワクワクしながら読んだ。影を取られたらその結果の原因である身体まで透明になるという説得力。過去の賢人たちの狸がどうしようもなく低俗なもののように書かれている。面白い。
赤い繭の連作が好き。
主人公の衣服と身体が解けて赤い繭を形成し、自身の自宅を作り上げる。最終的にはその自宅に住まう身体がなくなっているという皮肉。
赤いチョークのお話も好き。