あらすじ
「叱らない」教育に現役スクールカウンセラーが警鐘を鳴らす一冊。なぜ不登校やいじめなどの問題は絶えないのか。叱ること、押し返すことの意義を取り戻す。現在、不登校状態の子どもは小中学校合わせて約30万人。これまでは「無理させず休ませる」支援が主流でしたが、それだけでは改善しない事例が増えてきていると、現役のスクールカウンセラーが警鐘を鳴らします。
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Posted by ブクログ
タイトルから、「子育ての指南書かな?」、「イチローも『最近の子どもは大変だ。なかなか強く指導されることがないから、よほどのガッツがある子しか成長していけない』と言っていたな」、「経済学者の成田さんも、子ども時代に否定されることの経験は重要と言っていたな」など思いながら手にしました。そうしたことも含みますが、本書の大筋は、不登校を取り巻く環境の変化についての指摘でした。スクールカウンセラーと心理学の先生との共書です。
【はじめに】
「褒めて伸ばす」が定着しているが、それは万能ではない。「褒めて伸びるものもあれば、それでは伸びないものもある」「適切に叱ることで、子どもの成長を促すことができる」
【第1章 子どもの不適応が変わってきた現代】
・時代によって不登校の原因は変遷してきた。〔戦後〕病気や経済的困窮→分離不安(親から離れて過ごすことの不安)→「学校恐怖症」→「登校拒否」→〔1960年代〕低学年から高学年、中学生へと拡大:心理的つまずき→〔1975年以降〕受験などの教育体制の問題「不登校」→『登校刺激を与えず待つことが大切』支援方針→ひきこもり
・「学校には行くべき」価値観をもつ児童にとって、不登校は「抑え込んだ気持ち」が症状として表れたもの=学校を休むことが有効⇔「学校に行くべき」価値観をもたずに欠席+教育機会確保法(2016年)=やりたくないことはやらない
・小学生59人に1人、中学生17人に1人が、不登校(1年間に30日以上欠席)
・この10年で不登校の小学生は4.9倍、中学生は2.1倍
・社会的学習(他の人がやっているのを見て自分も真似る)も要因
【第2章 成長に不可欠な「世界からの押し返し」の不足】
・不適応の特徴の一つ「思い通りにならないことに耐えられない」
・基本的信頼感(世界に対して安心できるという実感)+能動的な力の感覚(積極的に世界に働きかけていく力)+「世界からの押し返しの経験」が子どもには必要。適切に叱られる、諫められることによってもたらされる「子どもの心の成熟」も絶対に必要。
・「思い通りにならない環境に出会った時の不快感」を親子の関係性の中で納めていくという作業は「子どもが幼い時期の方がやりやすい」→社会的な存在として成長
・「〇〇が怒るから」という他力本願ではなく、共感的に受け止めつつも親自身が押し返すことが大切。
・学校も含めて、その子どもの発達段階に応じた「自然な枠組み」を提示するべき。
・子供時代に押し返された経験がないと、大人になって押し返すことができない。
・「ネガティブな自分」に出会った時に、それを回避したり周囲のせいにしたりするのではなく、それも「自分の一部だ」と認める「こころの強さ」が必要。
・「理解できた時の喜び」が学びの意欲として機能するのは、「未熟であることへの不全感」を感じている人⇔自らの未熟性から目を逸らす人にとって学校は「耳にしたくない情報を与えられる場所」
・社会全体的に、子どもの万能的な自己イメージを下方修正する機会が少なくなり、「ネガティブな自分」を共有する経験がない。その経験不足から、自己イメージが棄損されることへの回避(人のせいにする、問題から目を逸らす)に走りやすくなる。
・「他の児童が叱られているのを見て怖がって学校に行けない」のは、「自他の境界線の薄さ」や「こころの奥底にある自信のなさ」が本質的な原因の時が多い。本質的な改善が必要。
・保護者自身が、子どもの不穏感情と向き合うことが苦手であるということが大きな原因。
【第3章子どもの「不快」を回避する社会】
・△幼少期の万能感に親が共感的に反応しないことで自己愛が適切に発達できず未熟?⇔◎「世界からの押し返し」の経験が少なく自分の不穏感情と付き合うことが難しくなった。
・子供の不快を見分けることが重要。「要らない不快」は不要。「成長のための不快」は必要。
・自分の+-両面を肯定できることが「自己肯定感」。親は子どものネガティブな面をきちんと「押し返し」つつ、「そういうあなたが大切だ」と伝えることが大切。
・児童期の子どもが身に付けるべきは「協力・競争・妥協」(米精神科医ハリー・スタック・サリヴァン)。
・「自分に合わせて環境を変えろ」ではなく、本当の個性は「他の人と同じことをしていても滲み出るもの」であり環境に関わらない、もしくは環境をも自分で変える。
・「自分のことをバカにする」と思う人は、同じ状態の他者をバカにしている人。
・親が課題の分離をきちんとしておかないと、子どもは干渉を不快に思いつつ、全ての課題は親が抱え込んでくれると思ってしまう。
【第4章子どもが「ネガティブな自分」を受け容れていくために】
・「弱くてダメなところのある自分」も自分自身の一部であると認め、受け入れることができる状態を目指して支援をする。
・子どもに「ネガティブな側面」があったとしても関わり続ける、子どもが「ネガティブな自分」を感じている時の不穏感情を大人との関係性の中で納めていく(ごちゃごちゃとしたやり取りを根気強く続ける)ことが大切。その時大人に大きな負担がかかるので、こうした親の窮状を支援することも大切。
・「思い通りにならないこともある」というメッセージを、折に触れて言葉で伝え続ける。
・子どもたちがこの世界で生きていくのに必要なのは、この世界と折り合いをつけながら「うまく巻き込まれていくこと」
・10歳前後を境に「ネガティブな自分にむき合わせる」というアプローチがやりにくく、またその効果が出にくくなる。
・子どもにネガティブな側面があってもそれを認め、「それを含めたあなたが大切」と伝え続けることが大切。
・カウンセラーは、まず「ネガティブなことをやり取りできる関係性を構築すること」が一歩。「あえて触れない」と「触れる覚悟がない」は天地の差。伝えにくいことは「一般論で言えば」と前置きする、相手の発言に「びっくりするという反応」で違和感を伝える、等の手法がある。
・問題のある親は、家庭での対応を変えず、学校のせいにすることが多い。学校に罪悪感や無力感を覚えさせる、「子どもが望んでいる」と訴える等。学校の枠組みを明確に示し、情報共有して社会的に適切な対応を心がける。
・「〇〇してはダメ」ではなく「私は〇〇してほしい」というI messageを送る。他人の言動を変えるのは難しいが、自分の言動を変えるのは比較的簡単。
【第5章予防のための落穂拾い】
・ゲーム内のキャラクターを自身と同一視することで「万能的な自己イメージ」を満たしている場合、家庭で適切な制限がかけられるかが重要。「万能的な自己イメージ」によってゲームにのめり込んでいる子どもほど、傍若無人に振舞い、家族との関係性が遠ざかっていることが多い。親は「好き放題させてしまっている」という状況に目を向け、その中から少しでも押し返せるポイントを探し、親子のコミュニケーションを復活させることから支援を開始する。
・「発達障害だから合理的配慮をする」ではなく、様々な要素を見極めて適切な「押し返し」をすることが大切。
・家庭内のルールの設定も大切だが、それをどのようにして関わっているかも考えて支援。家庭ルールに「通常から逸脱した緩さ」があるから改善しないことも多い。
・①10分を超えて叱らない、②人格を否定しない、③他の子どもと比べない、④子どもはすぐには変わらないし、親の思い通りにもならないと考える。
Posted by ブクログ
最近不登校の子どもが増えているのは、褒めて育てる子育ての弊害によるものである。親が子へ間違いや苦手を指摘しなくなり、個を重視するあまり、子どもが社会に適応できなくなってきている。
親は子どもを不快にさせないことが重要なのではなく、不快(思い通りにならない)になった時にどうやっておさめるかを、幼児期に教える必要がある。
Posted by ブクログ
叱らない育児が主流の現代を生きる親世代へオススメ。「〈叱る依存〉がとまらない」という本とセットで読むとバランスが良い。
子どもが社会化するということは、世界から押し返された経験を自分の中で昇華し、その上で自分を表現できるようになるということ。
世界からの押し返しを経験せず、ネガティブな自分を受け入れずに社会化することは難しい。
そのためには親が、社会から押し返されて不機嫌になっている子どもをなだめる必要がある。そうして、子どもは自分でなだめ方を学んでいく。
「不機嫌になられるのが面倒臭い」と思っていた私が、「これも大切なプロセス」と思えるようになった本。
Posted by ブクログ
現場で不登校の子どもたちとかかわる中で感じていた違和感の正体が少し見えたような気がします。
「叱らない子育て」や「褒めて伸ばす」というキャッチーなフレーズだけが一人歩きし、「叱る=悪いこと」という誤解
叱ることは、そのあと訪れるであろう子どもの不穏な感情とも向き合う覚悟がなくてはできないことで、ただそれを丁寧に行なっていくことで、自分自身で感情をコントロールできる人間になっていく。当たり前のことのように聞こえますが、前述した耳障りのよいフレーズを盾に、不穏感情を引き受けて来なかったツケが回ってきているのだろうな、と。
さて、これをどう現場で活かすか、、、
読み込んで、自分の目の前の状況とリンクさせていきたいです
Posted by ブクログ
押し返される経験はたしかに大切かもしれない。何でも自分の思い通りにいくわけではない。大人になってからもそう。きちんと叱ることも大切だと思うが、自分の失敗体験も子どもに語り、押し返されたがそこからどう立ち直ったかという事例を示してあげたいとも思った。
Posted by ブクログ
不凍港になる子どもたちは、周囲の価値観や欲求を読み取る技術が強い場合が多く、併せて読み取った価値観や欲求に対して「自分を抑えて合わせようとする才能」を持っていることが多い。この結果、限界を超えたりバランスが崩壊したりすると、様々な症状や問題が出てくる。だから、そういう人に対しては「投稿刺激を与えず、ゆっくり休ませる」という方針は非常に有効。
最近の学校で現れる子どもたちの不適応の特徴の一つに「思い通りにならないことに耐えられられない」ことがある。この背景には、親を中心とした「外の世界」から子どもたちの行動に対して適切に押し返される経験が不足していることが挙げられる。
内田樹「自分の無知や幼児性が自分の成熟を妨げているのではないかという漠然とした不安が学びの起動になる」
よって、「自分は未熟だ」という前提がないと学べない。この「自分の未熟さ」を認められない状態になると、学校は「未熟であるという不全感を解消する場」ではなく、「耳にしたくない情報を与えられる場」になり、教員は「未熟であるという不全感から解き放つ導き手」という尊敬の対象から「不快な情報を送ってくる人間」に成り下がる。
間違えた個所について消しゴムで消さないことは、間違った自分と向き合うことである。辞書を引くという時間は、ずっとわからないことと向き合って体験している時間である。