あらすじ
幕末の英雄と言えば、西郷隆盛、坂本龍馬、勝海舟ら。だが歴史を動かしたのは彼らだけではない。幕府と反幕府勢力の戦いの背後では、世界の覇権を争うイギリスとロシア、そしてフランス、プロイセンなどの列強が、日本への影響力強化を目論み、熾烈な攻防を繰り広げていた。各国の思惑、幕府軍・新政府軍への介入はどんなものだったのか。日本はなぜ独立を守れたのか。国内外の最新研究や機密文書を踏まえ、地球規模で歴史を俯瞰するグローバル・ヒストリーの視点で、黒船来航から戊辰戦争終結までの激動の十六年を描き出す。
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Posted by ブクログ
幕末史を列強間のグレートゲームの切り口から分析したもので、端的に言って新鮮であり、納得感もあって非常に面白い。
既存の歴史のナラティブの疑問として、1850年代の黒船来航から修好通商条約のラッシュがあるが、そこから一転して開国派対鎖国派、幕府対薩長、佐幕対新政府、西対東、と対立軸は様々あるもののフォーカスが国内に向き、戊辰戦争が終わると近代化や外交など一気に西欧列強や清国、朝鮮との関係や、内政も諸外国の制度や技術の導入による近代化という流れになる。
では、維新の時代は外国が日本を敬遠していたのか。全くそんなことは無かったことがわかるのが本書の視点。前半は1853-1856のクリミア戦争に続く英露のグレートゲームが対立軸になっており、西で進出を止められたロシアが東側に不凍港を求めて対馬や蝦夷地を虎視眈々と狙い、イギリスがそれに対抗する。
イギリスは自由帝国主義であり、自由貿易を求めて工業製品を売り、障壁があるなら工業力転化した武力で突破するのが基本作戦。幕府に当事者能力が無いと見切り、薩長そして新政府が天皇の下で国内を安定化してくれると見て、パークス公使の下、そのバックアップが基本政策。といって完全肩入れではなく、江戸城無血開城の裏には英国はじめとした諸国が横浜に艦隊を集結させて恭順した慶喜に武力行使しないように西郷に圧力をかけていた(勝海舟云々の前に話は決していた)。
一方、フランスは幕府に与力して安定化させることを目指す。オランダも軍艦の提供により同様の行為に出る。純粋国力からすればそれも一つの方策であった。完全に決別するのは、奥羽越列藩同盟が綻び、箱館政権も末期になってからのこと。それでも軍事顧問団の一部であるブリュネ中尉らは最後まで榎本らと行動を共にする。
プロイセンも面白い。公使のブランドは英仏の目を盗み、シュネル兄弟という武器商人を使って、新潟港を活用して長岡に武器を売っていた。また、会津・庄内から支援の見返りに蝦夷地租借の約束を取り付け、ビスマルクに介入と蝦夷地租借を上申。その時期は、本国が1864年のデンマーク戦争、1866年の普墺戦争、1870年の普仏戦争を通じてドイツ帝国を統一する時期であり、大国である英仏露の耳目を集める行為には消極的だった。しかし、蝦夷地の租借はプロイセンがロシアとの緩衝になることで英国にも利益があると説き、ビスマルクから会津・庄内との交渉権限を与えられるが、新政府の迅速な攻略により頓挫した。しかし、箱館政権に最後まで望みをかけたのもフランス以上にプロイセンだった。
アメリカは、南北戦争を1861-1865までやっていた結果、影が薄いが、その使用済み武器が大量に日本に流れ込むという意味で影響を与えた。特に、幕府に売る予定のストーンウォール号(後の甲鉄)は、列強の不介入宣言で日本側への引き渡しを中止するが、奥羽越列藩同盟の崩壊後、新政府に渡り、これが箱館戦争において陸戦支援で決定的な役割を果たすことになる。
ロシアは戊辰戦争や箱館戦争で日本側の抑止力が低下したことにより、樺太まで降りてきて蝦夷地にも虎視眈々としていたが、イギリスの新政府支持で早々と戦争集結したことからその道を閉ざされている。榎本も自らの役割をプロイセンのそれと同様に対露防壁として英仏の理解を得ようとしたが将軍が降伏している中で理解を得られなかった。榎本は、新政府ではなくイギリスに負けたと述懐している。
というわけで非常に面白かった。
Posted by ブクログ
<目次>
第1章 英露の覇権争いと対馬事件
第2章 イギリスの対日全面戦争計画と下関戦争
第3章 マネー・ウォーズと改税約書
第4章 武器商人の暗躍と幕長戦争
第5章 英仏露の知られざる攻防と大政奉還
第6章 列強のパワーゲームと鳥羽・伏見の戦い
第7章 プロイセンの野望と奥羽越列藩同盟
第8章 イギリスの逆襲と幻の植民地化計画
第9章 世界のグレート・ゲームと箱館戦争
<内容>
近年欧米から見つかった新しい文書と幕末の動きをつないだ歴史書。幕府と薩長の争いが、列強のパワーゲームの中で、危うい橋を渡りながら、植民地化を免れ、明治時代を作っていったことがわかる。叙述がやや恣意的な部分も見られるが、授業に厚みを加える知識が増えた。