あらすじ
幕末の英雄と言えば、西郷隆盛、坂本龍馬、勝海舟ら。だが歴史を動かしたのは彼らだけではない。幕府と反幕府勢力の戦いの背後では、世界の覇権を争うイギリスとロシア、そしてフランス、プロイセンなどの列強が、日本への影響力強化を目論み、熾烈な攻防を繰り広げていた。各国の思惑、幕府軍・新政府軍への介入はどんなものだったのか。日本はなぜ独立を守れたのか。国内外の最新研究や機密文書を踏まえ、地球規模で歴史を俯瞰するグローバル・ヒストリーの視点で、黒船来航から戊辰戦争終結までの激動の十六年を描き出す。
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
薩摩藩と長州藩を中心とした官軍が徳川幕府を打倒して天皇を中心とした新政権を樹立した、というのが一般的な明治維新の理解だと思うが、そこにイギリスやフランス、ロシアといった欧州列強の思惑が実は大きく働いていたことが近年の研究によって明らかになってきた。ハリスやパークスなど、イギリス外交官からの報告文書が相次いでイギリス王立博物館などで見つかったことを受け、海外から見た日本や江戸幕府がどのようなものだったかが説明される内容となっている。
1800年代はイギリスがいち早く産業革命を達成し、世界各地に植民地支配を広げていた時代である。イギリスに負けじと欧米列強も支配地拡大に乗り出す中で、当然極東の日本にもその手が伸びてくる。日本人にとってはアメリカのペリー提督による黒船来航がショッキングな出来事として語られるが、実際のところアメリカは南北戦争が勃発して海外どころではなくなり、日本の開国に対してはイギリスの思惑が大きく作用することとなる。
対する日本側の交渉役は、幕府で外国奉行や勘定奉行を歴任した小栗上野介忠順であった。大老井伊直弼の独断によって不平等条約を結ばれるも、その後の経済政策や賠償金問題を乗り切りながら海外から最先端の武器を調達する辣腕を発揮していく。しかし小栗忠順がイギリスに支払った資金は、薩摩藩に融資されて武器購入に使われ、それらが長州藩に流れて幕長戦争に発展し、敗れた幕府の威信が大きく低下したというのは皮肉な流れである。
一方でイギリスが日本の植民地化を企図していたかと言えば、日本の地政学的な立地と世界に先駆けて民主主義化したイギリスの議会の反対によってその意思はなかったと考えられる。むしろ賠償金や武器売買による経済的利益を最大限得るために、日本の金など鉱山資源開発を後押ししつつ幕府と各藩の対立構造を煽っていったと見るのが、イギリスが日本を金の卵を生む存在として見ていた理由であろう。
イギリス軍艦に搭載されていたアームストロング砲や、奇兵隊が用いたミニエー銃などライフル構造による長射程と命中率向上を実証的に証明して、この戦力差が幕末維新の趨勢を決したと断じる説明には説得力があり、また維新三傑をはじめとした志士たちの英雄的活躍よりもこれら技術革新の賜物であるという面において、この日本における革命もイギリスをはじめとした西欧列強の思惑によって進んだと見るのが妥当なのだろう。
Posted by ブクログ
幕末史を列強間のグレートゲームの切り口から分析したもので、端的に言って新鮮であり、納得感もあって非常に面白い。
既存の歴史のナラティブの疑問として、1850年代の黒船来航から修好通商条約のラッシュがあるが、そこから一転して開国派対鎖国派、幕府対薩長、佐幕対新政府、西対東、と対立軸は様々あるもののフォーカスが国内に向き、戊辰戦争が終わると近代化や外交など一気に西欧列強や清国、朝鮮との関係や、内政も諸外国の制度や技術の導入による近代化という流れになる。
では、維新の時代は外国が日本を敬遠していたのか。全くそんなことは無かったことがわかるのが本書の視点。前半は1853-1856のクリミア戦争に続く英露のグレートゲームが対立軸になっており、西で進出を止められたロシアが東側に不凍港を求めて対馬や蝦夷地を虎視眈々と狙い、イギリスがそれに対抗する。
イギリスは自由帝国主義であり、自由貿易を求めて工業製品を売り、障壁があるなら工業力転化した武力で突破するのが基本作戦。幕府に当事者能力が無いと見切り、薩長そして新政府が天皇の下で国内を安定化してくれると見て、パークス公使の下、そのバックアップが基本政策。といって完全肩入れではなく、江戸城無血開城の裏には英国はじめとした諸国が横浜に艦隊を集結させて恭順した慶喜に武力行使しないように西郷に圧力をかけていた(勝海舟云々の前に話は決していた)。
一方、フランスは幕府に与力して安定化させることを目指す。オランダも軍艦の提供により同様の行為に出る。純粋国力からすればそれも一つの方策であった。完全に決別するのは、奥羽越列藩同盟が綻び、箱館政権も末期になってからのこと。それでも軍事顧問団の一部であるブリュネ中尉らは最後まで榎本らと行動を共にする。
プロイセンも面白い。公使のブランドは英仏の目を盗み、シュネル兄弟という武器商人を使って、新潟港を活用して長岡に武器を売っていた。また、会津・庄内から支援の見返りに蝦夷地租借の約束を取り付け、ビスマルクに介入と蝦夷地租借を上申。その時期は、本国が1864年のデンマーク戦争、1866年の普墺戦争、1870年の普仏戦争を通じてドイツ帝国を統一する時期であり、大国である英仏露の耳目を集める行為には消極的だった。しかし、蝦夷地の租借はプロイセンがロシアとの緩衝になることで英国にも利益があると説き、ビスマルクから会津・庄内との交渉権限を与えられるが、新政府の迅速な攻略により頓挫した。しかし、箱館政権に最後まで望みをかけたのもフランス以上にプロイセンだった。
アメリカは、南北戦争を1861-1865までやっていた結果、影が薄いが、その使用済み武器が大量に日本に流れ込むという意味で影響を与えた。特に、幕府に売る予定のストーンウォール号(後の甲鉄)は、列強の不介入宣言で日本側への引き渡しを中止するが、奥羽越列藩同盟の崩壊後、新政府に渡り、これが箱館戦争において陸戦支援で決定的な役割を果たすことになる。
ロシアは戊辰戦争や箱館戦争で日本側の抑止力が低下したことにより、樺太まで降りてきて蝦夷地にも虎視眈々としていたが、イギリスの新政府支持で早々と戦争集結したことからその道を閉ざされている。榎本も自らの役割をプロイセンのそれと同様に対露防壁として英仏の理解を得ようとしたが将軍が降伏している中で理解を得られなかった。榎本は、新政府ではなくイギリスに負けたと述懐している。
というわけで非常に面白かった。
Posted by ブクログ
幕末について執筆されている時代(期間)を明確にしてくれて、各国の国際的視野も入れつつ実際に足を運んで調べているところに凄く感心した。再度読みたいと思った本。幕末好きには読んでほしい
Posted by ブクログ
すごく良い本。
やはり、小栗上野介忠順は救国の英雄だった。だからこそ、イギリスから警戒され、薩長軍の暗殺対象になったのか。
日本の幕末の話は、鎖国した日本から見た世界と日本に限られている。英米露がどのように日本を見ていたのか、今も見ているのか、日本人は知っておくべき。当時も今も、地政学的状況は変わらない。
Posted by ブクログ
幕末好きには面白い一冊。
この時期の海外との関わりを一緒に考えると、確かにそれぞれの藩、勢力の動きが、わかりやすくなる。
そして改めて、日本が今現在まで完全な植民地化しないでこられたのは、奇跡みたいなもんなんだなぁと思ったり。(ま、植民地化については色々考え方の違いは在るだろうけど、、表面上は、という事で)
そんでもって、グローバル視点で見ても、土方歳三の生き様は格好良かった、ということにちょっと感動してたりする。ドラマチックな人だよね~。大好き。
Posted by ブクログ
幕末の動乱、戊辰戦争をイギリスとロシアの対立構造を中心に列強国の思惑という目線で分析、描かれており面白かった。新政府を勝たせたのはイギリスだった(パークスだった)と言っても過言ではない。
Posted by ブクログ
幕末、開国と攘夷の狭間に揺れた日本。その動きは単なる国内の激動ではなくグローバルな歴史の一環であった。欧米列強の圧力が世界の中での日本の位置づけを問うた時代。最新の研究では日本が取った選択は偶然ではなく地政学や経済的要因、または江戸時代の蓄積による必然であったと示される。西洋技術を受け入れつつ固有の文化を守る姿勢が独自の近代化を生んだ。幕末は世界史の縮図でもあり今も学ぶべき教訓がある。新たな視点で歴史を読み解けば現代への示唆が浮かび上がる。小説ではない学問研究の最新知見。
Posted by ブクログ
幕末史を英国やフランス、プロイセン、ロシアなどの動きや視点を用いて捉えなおすという本。
大英帝国の自由貿易帝国主義が、結果としてロシアやプロイセンなどの侵略から日本を守る結果になった話は面白い。
もっとも、イギリスも国益を追求した結果そうなったというだけの話であるが。
明治新政府の勝利という結果から捉えられがちな戊辰戦争も、一時は旧幕府側が優勢であったことや、それもまたイギリスの暗躍によってひっくり返されたことなど、知らない話が多く楽しめた。
Posted by ブクログ
幕末の英雄と言えば、西郷隆盛、坂本龍馬、勝海舟ら。だが歴史を動かしたのは彼らだけではない。幕府と反幕府勢力の戦いの背後では、世界の覇権を争う列強が、日本への影響力強化を目論見、熾烈な攻防を繰り広げていた。国内外の最新研究や機密文書を踏まえ、歴史を俯瞰する。
Posted by ブクログ
幕末の日本を世界的に視点から俯瞰して説明している。
イギリス、フランスの介入は知っていたが、南下政策を目論むロシアに加えて鉄の宰相ビスマルク擁するプロイセンも絡んでいたとは知らなかった。
単純に薩長対幕府と見ていたが、イギリスを中心とした世界のグレートゲームとしての視点は非常に興味深くて今までの認識を大きく変えた。4.2
個人的には日本史としての幕末史を読んでからの方がより視野が広がって良いと思った。
Posted by ブクログ
明治維新の推移に、列強の思惑が、どのように関わっていたかがよくわかる。
覇権を握っていたイギリスは通商の安定・日本政府の安定を望み、一貫して、日本が早期に安定する道を探った。
一方で、新興のプロイセンやロシアは、日本の政情不安を長引かせて蝦夷地を得ようと動いた。フランスのロッシュは、やや情緒的に、幕府を支持した。
イギリスのお陰で、日本は早期に安定したといえる。
また、ターニングポイントは、鳥羽伏見の開戦から慶喜の大阪城脱出までであり、それ以降は新政府が勝つべくして勝ったといえる(逆に、幕府軍が史実以上に粘っていたら日本の統一は危うかった)。
Posted by ブクログ
<目次>
第1章 英露の覇権争いと対馬事件
第2章 イギリスの対日全面戦争計画と下関戦争
第3章 マネー・ウォーズと改税約書
第4章 武器商人の暗躍と幕長戦争
第5章 英仏露の知られざる攻防と大政奉還
第6章 列強のパワーゲームと鳥羽・伏見の戦い
第7章 プロイセンの野望と奥羽越列藩同盟
第8章 イギリスの逆襲と幻の植民地化計画
第9章 世界のグレート・ゲームと箱館戦争
<内容>
近年欧米から見つかった新しい文書と幕末の動きをつないだ歴史書。幕府と薩長の争いが、列強のパワーゲームの中で、危うい橋を渡りながら、植民地化を免れ、明治時代を作っていったことがわかる。叙述がやや恣意的な部分も見られるが、授業に厚みを加える知識が増えた。