あらすじ
貧しい家に生まれたひとり息子は,両親の愛情をまっすぐに受けとめて育ち,働きづめの母親を懸命に支えた.大好きな体操,個性的な先生たち,つらかったクリスマス,大金持ちになったおじ,母親との徒歩旅行……軽妙かつ率直に語られる数々のエピソードが胸に迫る.ケストナーのエッセンスがつまった傑作自伝,待望の新訳.
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
p.91
記憶は頭の中だけに関係している。~ いい記憶も悪い記憶も、頭の中にあるのだ。
頭の中には、ぼくたちが学んだことをすべて入れておくひきだしがある。 ~
思い出は、ひきだしの中には入っていない。思い出はぼくたちの真ん中に宿っている。たいていはうつらうつらしているが、生きているし、息だってしている。そして、たまに目をあける。 生きていて、息をして、まどろんでいる。手のひらに、足の裏に、鼻に、心臓に、そしてズボンのおしりにだって。ぼくたちがかつて経験したことは、何年も何十年もたってから、突然もどってきて、ぼくたちの目をのぞきこむ。すると、ぼくたちは感じるのだ。そうだ、思い出はなくなってしまったんじゃないんだ、ただ眠りこんでいただけなんだって。
p.228
ルートヴィヒ・リヒターは今も愛され、称賛されている。グスタフ・ニーリツを知っている人はもういない。時は残るべきもの、いつまでもあるべきものを選り分ける。そして、時の選択はたいてい正しい。
p.280 お母さんが下り坂でコースターブレーキをいつも忘れてしまったことについて。
さいわい、ぼくはプロの深層心理学者ではないので、現実の背後にひそむ意味を読み解くこうした論文や解釈は、書かずにすませることができる。ぼくにとっては、人間を描写することのほうが人間を解説するよりもおもしろい。描写すれば、じゅうぶん解説したことになるし。でも、今ぼくがおもしろ半分に書いた一文は、真実のひらめきをふくんでいるんじゃないだろうか。そうだとしても、ぼくは驚かない。
Posted by ブクログ
洒落たまえがきにはじまり、
職人技のような流麗たる筆で語り尽くすラスト、そしてまた飄々としたあとがきで終わる なんともケストナーさんな1冊でした。
ご両親の生まれから 出会い ドレスデンのかつての美しさ。
ケストナーが生まれてからは まるでエーミールと探偵そのままで、下宿人の先生のことなんて懐かしいとさえ感じてしまいました。
でもやっぱりお母さま。
それはそれはやり手なお母さんですが
しっかりと悩みを抱えていました。
クリスマスの贈り物を父と母それぞれが競うように用意していたのを感じ取ってしまう繊細な少年ケストナーには、
何度も母を探し歩く不安な日々がありました。橋の上で川の流れを見つめる母を見つけるまた小さな男の子の姿は、今はもうどちらの気持ちもわかる歳になった読者を泣かせます。
_彼女は完全な母親になろうと思い、そうなったのだから、彼女の賭け札であるわたしにとっても疑いの余地はなかった。つまり、わたしは完全なむすこにならねばならなかったのだ_
つらい…
エキセントリックなフランツおじさんや小学校のレーマン先生とのロッククライミングなどなど ほんとに鮮やかに子ども時代が描かれますが、
1914年の8月 休暇先から満員の汽車に乗ってドレスデンへ帰る人々。
_世界戦争がはじまった。わたしの子ども時代はおわった。_
この悲しみを含んだ鋼のような言葉の後に
おわりのあとがきがあります。
正直私はここが1番好き
猫たちとのたのしい会話で このおはなしに書いたことと書かなかったことを照れくさそうに言い訳しているというか
羊飼いの少年の靴下が下がりそうなことを心配しつつ 飄々とサヨナラするなんて
やはりマエストロでした。