あらすじ
コロナ禍のステイホームで急増したペット需要。
ネット上に拡散される野生動物との触れ合い動画の数々。
容易く供給される「かわいい」「癒される」のその先に、病気や事故、そして決して避けられぬ「死」があることを、私たちはどのくらいちゃんと理解できているでしょうか。
――動物も生きている限り、死に至る。
それは、ごく自然の営みの中で起こることが大半ですが、ロードキルや誤飲、中毒、寄生虫やウイルスへの感染、栄養不足、虐待や飼育放棄といった、直接・間接的に人間が関わっていることもあります。
そのことに目を背けず、「かわいい」だけではない動物たちの現実を知るということ。
本書は、「死んだ動物を診る」病理学専門の獣医が、遺体と向き合う日々の中で学んだこと、感じたこと、最後の診断で聴いた動物たちからのラストメッセージを綴ったエッセイ。
起きた出来事をただ嘆くのではなく、たくさんの「生」につなぐために−−「命」への希望と責任を問う一冊です。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
人間を対象とした病理学や法医学の本は数多くあるが、この本は動物を専門とする病理獣医師の本で、さまざまな動物の遺体にまつわるエピソードが読める点が面白い。文体も平易ながら読み応えがあり、病理獣医師の仕事ぶりには好奇心をくすぐられる。小学生から社会人までオススメ出来る本だと思う。
犬猫だけでなく、エキゾチックアニマルの話も盛りだくさん。自分はエキゾチックアニマルを飼育しているのだが、そういった非主流派の動物についても分け隔てなく紙面が割かれていることに嬉しさを感じた。
Posted by ブクログ
獣医病理医という職業があることも、その意味も、初めて知った、小さい頃から犬がいる環境で育ってきた自分でも、まだまだきっと知っておかなきゃいけないことがあるんだなと思った、そしてSNSで流れてくる動物たちに対する自分の見方もこれから変わっていくんだろうなと、ありがとうございます。初めて聞く専門的な言葉が多いけれど、分かりやすく言い換えていたり、読みやすかった、ペットを飼ってる人、飼いたい人はもちろんだけど、子供から全ての人にオススメしたい。
Posted by ブクログ
獣医病理医の存在を初めて知った。考えてみれば、人間と同じように動物の死因を調査するために剖検を行う人がいるのは当然なのだが、具体的な存在としてイメージが及んでいなかった。
死から学ぶことで、生をより良いものにする。人間も動物も変わらない。うちで飼っている猫が死ぬことは想像したくないが、生き物は必ず死ぬ。私も死ぬ。死から学べるものがあるなら真摯に学びたいという著者の思いは、共感できるものだった。
Posted by ブクログ
獣医病理医という分野があることすら知らなかった。
動物に関わる職業を希望する若者などにお勧めしたいと感じた。
我が家で亡くなった小さな家族の事を思い出しながら読んだ。
言葉で伝えられない全ての動物たちが、健やかに過ごせる様にと思いました。
Posted by ブクログ
著者は獣医病理医。病理医は、試料を顕微鏡で観察して病気を診断したり、遺体を病理解剖して死因を調べたりするお医者さんのこと。著者の場合は、その対象がヒトではなく、動物全般である。
前著(『獣医病理学者が語る動物のからだと病気』)をおもしろく読んだので、近著も読んでみた。
ペンギンの胃癌。
アフリカゾウの解剖。
リスザルの連続死。
正体不明の謎の死体。
エピソードの数々は、獣医病理医の著者にとっては「日常」なのだろうが、読者にとっては聞いたこともないようなびっくりする話も多い。
普通の人はアフリカゾウの解剖を見ることはないだろうが、へぇ珍しい、楽しそう、では済まないすさまじさである。
また、物言えぬ動物の診断はヒトにも増して難しい。一見、ありふれた病気だったとしても、思い込みから結論を出すのは病理医としってはあるまじきこと。慎重に判断し、検査を行い、仮説を確かめる。このあたりはちょっとしたミステリのようでもある。その結果、さらなる連続死を抑えられたと思われるケースもある。
著者に病理診断を頼む依頼人の多くは、動物病院や動物園・水族館などの臨床獣医師なのだが、飼い主が自身のペットの病理解剖を頼む例も少しずつ増えてきている。
かわいがっていたあの子はどうして死んでしまったんだろう。自分が何か悪いことをしてしまったのだろうか。
そんな切実な思いが透けて見える。
よかれと思ってしていたことが、実はペットの寿命を縮めていたことが判明することもあるのだが、著者はそれを飼い主にきちんと伝えることをモットーにしている。そうした積み重ねが不幸な動物を救う一助になると信じて。
昨今、変わった動物、いわゆる珍獣(エキゾチックアニマル)を飼う人も増えているが、なかなか難しい問題も多い。彼らがペットになってこなかったのは、それなりの理由があるわけである。餌が変わっている、なかなか人に慣れない、あちこちに糞尿をする、凶暴性があるなど。特性をよく理解せずに飼うと、人も動物も不幸である。そんな実例もいくつか挙げられている。
死んだ動物を調べることは、「死」を知ることであるが、同時に「生」を知ることでもある。
死んだ彼らの声なき声を拾い上げ、いま、そしてこれから、動物と人のよりよい関係に向け、動物の死から学べることを皆に伝えていくこと、それが著者の姿勢である。