あらすじ
死刑執行まで残り12時間となったアンセル・パッカー。彼は「完全な善人も、完全な悪人もいない、だれもが生きるチャンスを与えられてしかるべきだ」と信じている。獄中で密かに温めた逃亡計画もある…。この〈連続殺人犯〉の虚像と実像を、アンセルの母親であるラヴェンダー、アンセルの妻であるジェニーの双子の妹ヘイゼル、ニューヨーク州警察の捜査官であるサフィことサフラン・シンという、いずれも後に死刑囚となるアンセルの人生に大きく関わり、また自分自身の運命も歪んでしまった女性たちの目を通して、浮き彫りにする。エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀長篇賞受賞、衝撃のサスペンス!
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Posted by ブクログ
・あらすじ
4人の女性を殺害した死刑囚のアンセルパッカーの死刑執行12時間前から物語は始まる。
彼は密かに刑務官のショウナを抱き込み脱獄の計画をたてていた。
アンセルの死刑までのカウントダウンと彼と関わりを持った3人の女性の過去から現在まで。
・感想
ミステリーだと思ってたからてっきりアンセルは冤罪で3人の女性視点からその事実が浮き彫りになる…的な作品かと思ったら全く違った。
アンセル視点では常に二人称代名詞が「あなた」となっていていて、それがこの物語は「別の世界線の私だったかも」という気持ちにさせられる良い効果をもたらしていたと思う。
絶対的な善人も悪人もなく、灰色の世界の中でこのアンセルの辿った道はあなたであった可能性もあるんだよ、と。
ままならない現実や状況に憤った際に「たられば」を夢想する事は誰でもある事だけど、彼の場合は他人や環境に自分に都合の良いように変わってほしいという妄想ばかりしてた印象がある。
もちろん自分を変えたい気持ちは持っていて、そうできない事に葛藤してたけど。
個人的には進むも逃げるも、選ぶもやめるも自分で決めて自分で選んだ方が正解だと思って生きる方が幸せに生きられると思ってるけど、アンセルのような悲惨な家庭環境で幼少期を過ごした人間にそこまで自己責任論を問うのは中々酷だよな。
アンセルの幼少期の環境に関しては「運が悪かった」としか言いようがないし…。
埋められない「愛」「拠り所」があったはずの隙間でなき続けてるパッカー赤ちゃんがブルーハウスを見つけた事で泣き止む描写はちょっと切なくなった。
でも「そうしない」選択肢もあったのに己の衝動を御しきれなかったんだからその責任は負わなければならない。
彼の母親であるラヴェンダー、幼馴染で刑事のソフィ、彼の妻の妹のヘイゼルの3人はそれぞれの人生でどうアンセルと関わり、彼に影響を与え、また影響されてきたかが描写されてるけどラヴェンダーとソフィの出した結論(一種の諦観)に共感した。
犯罪被害者やその家族の苦しみを置き去りにして、刺激的な事ばかりを面白おかしく題材として消費する事への警告と、どこか違う世界の出来事ではなく被害者にも加害者にもなり得る可能性はいつだってある事を書いた作品だった。