【感想・ネタバレ】死刑執行のノートのレビュー

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Posted by ブクログ

なんだこれは、なんなんだ。

一言で内容を示せば、死刑執行まで残り12時間の、連続殺人犯の話、なのだが。犯罪の詳細や捜査がどうこうはそれほど重要ではなく、とにかく1人1人が重く鮮やかに見えてくる。実際に生きているこの現実の世界と、あったかもしれない世界、その両方が。

二人称で語りかけられるとグサグサと身に迫る。
同情でも非難でも足りず、グレーの境界線が、読んでいる誰にも見えるのではないだろうか。

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2023年12月21日

Posted by ブクログ

死刑囚と家族、命の物語… 少しだけ感情の扱いや選択を間違えてしまった人々の未来 #死刑執行のノート

■あらすじ
死刑囚であるアンセルは、間もなく執行の時を迎えていた。彼は刑務官と通じており、直前に脱走する計画をしていたのだが…
同時になぜ彼は死刑囚となってしまったのか、出生から現在に至るまで、家族や様々な人との関わり合いを描いてゆく。果たして脱走は実現するのか、そして関係者たちにはどんな未来がやってくるのか。

■きっと読みたくなるレビュー
家族や命を実直に描いた作品。心の奥底にある善悪の価値観と、欲望、不安、恐怖といった人間の裏側にある感情が、静かに書き記されています。

死刑囚なんて言うと自分には関係のない話と思いがちですが、作品内の登場人物は決して特別ではなく、どこにでもいる普通に人々。少しだけ感情の扱いや選択を間違えただけ。

読み進めるのにパワーがいる作品ではあります。しかし人間が生きるとはどういうことなのは、なぜ裁かれるような罪を犯してしまうのか、覆い隠された部分を知ることができるのです。

本作は筋書きよりも人の感情をつぶさに描いた純文テイストに進行してゆく。登場人物の苦しみや葛藤が丁寧かつ表現豊かに書かれていますので、じっくりと味わってもらえると思います。ひとりひとりのキャラクターがあまりに切なすぎるので、一言ずつコメントを寄せてみました。

〇ラヴェンダー(死刑囚の母親)
つい彼女が悪いと思ってしまいがちだが、物語の最後まで読み進めてゆくと、彼女こそ救ってあげなければならない人だった。子を想う母の気持ち、愛情が痛々しく涙が止まらない。

〇サフィ(死刑囚の幼馴染であり、現在は刑事)
人生で失望することも多いですが、これほど辛いシーンもあまり見たことがない。ただ親友クリステンの存在が大きく、これからの人生の希望になってほしい。

〇ブルー(死刑囚の姪)
彼女がいたおかげで、死刑囚も読者も救われる。しっかりと現実を受け止め、人生に糧として学び、明るく生きてほしいです。

〇ヘイゼル(死刑囚の妻ジェニーの双子の妹)
ずっと端から関わってきた女性、心の奥底からの叫びが聞こえてくるし、実は一番死刑囚の気持ちと近い人物かもしれない。姉とは別の人生を歩めて本当に良かった。

〇アンセル(死刑囚)
世の中には恵まれない環境で育った人はたくさんいる。それでも幸せな家庭を気づいたり、社会に貢献している人もいっぱいいるということを知って欲しい。ただ幼い頃の愛情不足、青年期における成長不足が犯罪に繋がってしまう。他人事だと思わずに、社会全体で支えなければなりません。

■ぜっさん推しポイント
罪を犯せば罰が与えれれる。

世の中の秩序を保ち、すべての人々が幸せに安心で暮らすためであり、被害にあった人や家族にとって償いのひとつでもある。しかし亡くなった人は帰ってこないし、事件の関係者たちも辛くやりきれない思いが残るだけ。彼らは必死にその時その時を生きているだけで、幾分かの選択肢などないし、行為自体にも目的も善悪もないのだ。

果たして誰のための罰なのか。

ただ自分の人生に責任を持っていけなければならないという教訓が、しっかりと胸に刻まれる。人生にやり直しはきかないし、苦しみながら人生の終わりを迎えるのは絶対に嫌だからだ。

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2024年04月27日

Posted by ブクログ

時間経過や視点の切り替わり幾つもの仕掛けでアンセルという人物を探っていく物語。

「実存的恐怖と自信喪失」
最後の謝辞を呼んで腑に落ちた。

この物語はアンセルがいかにも自分自身であるかのように描かれている。ーーーあなたはこう考えた…。
まさにクカフカ自身が感じていた実存的恐怖を体感させられる。

実存的恐怖とは、人生に意味がないのではないか、あるいは自分自身のアイデンティティに混乱を覚える内的葛藤のこと。
アンセルは幼少期に体験したトラウマによって上手く形成されなかった部分をなんとか知識や哲学によって埋めようとしていた。それは恋愛でも殺人でも埋められず、結局は血の繋がりという確かなものを求めていたのではないだろうか。そして、手に入れた矢先に…。

発達症や精神疾患は過去に体験したトラウマ体験が大きく影響していることが分かってきている。アンセルは産まれながらのシリアルキラーではない。身寄りがなく、弱い自分を曝け出す場所が無かったことがこの悲しい物語を産んでしまったのではないだろうか。

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2024年03月31日

Posted by ブクログ

 コラン・ニエルの『悪なき殺人』やホレス・マッコイの『彼らは廃馬を撃つ』を読んだ直後に、その二つを取り混ぜたような雰囲気の本書を手にして、三つがごっちゃになりそうだとの不安を感じつつ、読み進める。三作とも毒が仕込まれたような作品なのだが、結局、毒性の強さは三作中では本書が一番深かったという気がする。

 ちなみに『悪なき殺人』はそれぞれ繋がりがなさそうな五人のキャラクターの短編小説が全部語られ終わって初めて全体像が見えるというような構成の妙。しかも各キャラ間の距離感が大きいのでダイナミックな展開が楽しかった。『彼らは廃馬を撃つ』は、章ごとに挟まれる裁判官の言葉が、本書の死刑へのカウントダウンの構成と何となくダブるのである。

 さて本作のダニヤ・クカフカ。あまり知られていない作家だが、本作は何とエドガー賞受賞作とのこと。本書はエドガー賞というより、むしろ純文学とも取れそうな極めてシリアスな作品なのだが、扱っている題材は確かに連続殺人事件。その複雑な事件の真相に至る娯楽色よりヒューマンな問題意識の部分を強く感じさせる物語で、クライムノベルであることを否定するほどではないが、謎解きの好きな読者には肩透かし感を与えてしまうかもしれないか。

 時制のスタート地点は、凶悪犯が刑に処せられる12時間前。前述したように刻々と迫る死刑執行への時間を待つ囚人の様子、その合間を、三人の女性たちの過去現在の物語で交互に語ってゆくという少々独特な構成である。

 時間軸も二世代ほど過去へ遡るので、死刑囚の幼少時の事件、死刑囚が青年になってからの事件へと遡行せざるを得ない構造となる。現在の事件に繋がる過去数世代の殺人や暴力の連鎖というところが本書のテーマとなるのである。例えば読者の眼となって捜査する女性警察官サフィは彼女自身、死刑囚との間に幼少時からの因縁を持っている。

 死刑囚の手にかかった複数の被害者が子供たちなので、中心となる事件は陰惨である。死刑囚自体もその父の犯した事件の被害者として遺棄されかろうじて生き残った幼児であった事実は、早い時点で読者に曝されている。悲惨な運命を辿った子供たちの死。死と暴力は、果たして繰り返され伝えられる遺伝子なのだろうか?

 そんな疑問を抱きながら、登場人物それぞれの生と死の物語が淡々とタペストリーのように縦横に綴られる。最後には死刑囚の最後の一日が一枚の絵として完成する。不思議な読書感覚をもたらす作品である。構成の妙という形の凝ったストーリーテリングと言えよう。

 謎解き要素を追求する類いのいわゆるミステリー作品ではなく、死刑執行の迫る囚人に残された12時間の描写を軸に、過去の三人の女性による切れ切れの小編のパッチワークで完成してゆく世界である。内容は娯楽小説というよりは、純粋に社会派小説であり、さらに文学的で硬質なイメージを感じさせるものである。多くのミステリと異なるのは、事件に関わってしまった三人の女性を軸にして、家族や社会が見過ごしがちな家庭内暴力をエキセントリックなまでに、しかもリアルに浮き彫りにしたというところだ。

 現代アメリカの病巣を抉った本書。三人の女性たちの視点で切れ味鋭く描写された長大深淵な物語。最後まで気が抜けない現在パートの描写と言い、カバーにもなっている小道具の使い方といい作者の繊細さが多分に伝わってくる相当にセンシティブな印象であった。

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2024年03月21日

Posted by ブクログ

連続殺人の罪で死刑囚となったアンセル。死刑執行の12時間前から始まる。アンセルに関わった三人の女性の視点で語られていくのだけれど、関わりかたや関係性はさまざまで、何がどうなって現在は至ったのかを辿っていくのが興味深く面白い。アンセルの生い立ちとその後の暴力的な人間性が起こしたもの。角度を変えて語られて見えてくるアンセルという人間。どこか不穏で不気味な感じもありつつ引き込まれていく。

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2023年12月06日

Posted by ブクログ

どこまでも自分を特別だと信じている殺人者と、周りの人々の目に映るごくごく平凡な男の温度差と解像度の高さに乾いた笑い出た

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2024年01月21日

Posted by ブクログ

死刑囚パッカーの執行までの12時間と並行し、彼の過去、現在が浮彫りになる。それに彼の母親、元妻と彼女の双子の妹、警察官のサフィら女性目線での独白が彼の人格の深みを際立たせる。
が、主人公を二人称で呼びかけるのが、意図する点がわからないでもないがとても違和感を感じた。

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2024年01月17日

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